67 桜の満腹黄龍記
黄龍
「…ぁ」
「…」
二人はあっけにとられていた。
まるで、目の前に掃除機かバキュームカーがあるのかという気分にさせられる。
出てくる食べ物が次々に桜の口へと入っていく。
「○―ビィみたいだねぇ…」
「人間ではないわね。」
そんなことばなど聞こえず、食べることに集中する。
「桜にはおいしい食べ物でも何でもよさそうね。」
「味なんて関係なさそうだねぇ。あ、これ美味しい♪」
桜は下品に、
氷柱と南は上品に食事をとる。
普段は、値段や客層からいって、それほど大量の品をつくるわけではない。
厨房では、あんなの来るなんて聞いてないぞ!と叫ぶ若者
腕がなると意気込む年配の者。
桜一人で黄龍は大忙しの一日を過ごしていた。
「くはあぁ!食べた食べた!」
調理人はげっそりとしていた。
奥から支配人が出てきた。
「さ、桜様。ご満足いただけたでしょうか。」
「うん、大満足。じいちゃんに言っとくよ。」
(あんなに食べたのに体格が変わってない!?)
(あんびり~ばぼ~!!)
桜は馬鹿食いしたのだが、まったく体格が変わっていなかった。
これを“桜七不思議”と呼ぶことになった。
桜たちの個室のかなり奥に一組のグループが食事をしていた。
「親父。“九龍”の動きを調べていた部下ですが…、死にはしなかったらしいですが…」
「そうか。」
「親父、俺は堪忍袋の尾がそろそろ切れそうだ。部下は俺の息子も同然。肉親が病院送りされてだまってはいられねぇ。」
「まあ、待て。今は手打ち状態だ。俺らもやつらとは互角の勝負をしているところだ。おめぇがここで弾けたら息子の犠牲が無駄になる。」
男三人、酒を飲みながら話していた。
「お嬢はどこに?」
「家にいる。今となっちゃあ、あいつも誘拐されかねない。」
「賢明な判断です。」
やくざの親分・その片腕らしき男・その部下と思われる三人。
「あいつら!汚ねぇ真似なんて朝飯前だ!やっぱり先手で!」
「やめねぇか、弁慶。親父に二度同じことを言わすな。」
弁慶といわれた男は怯む。
この人物はかなり熱しやすい性格をしているようだ。
そのとき、親分の携帯がなり、携帯を見て顔を険しく変えた。
「…!、清盛、弁慶!」
「ええ、感じました。」
「親父はここに。」
男二人は部屋を出た。
“何か”を持ちながら…
桜たちは…
「それじゃ、ご馳走様でした。」
三人は支配人に礼を言い、店を出ようとした。
ちょうど、そのとき一組のグループとすれ違った。
「っ!!」
桜は鋭い目つきで振り返り、今の人物を見る。
「氷柱、南、急いで駅まで行って。」
いつものやさしい声ではなく、命令するような厳しい口調であった。
氷柱たちはいったい何が起きたのかわからなかった。
「ちょっと、どうしたの?」
「いいから早くっ!!!」
そういうと、氷柱たちは経験から相当な危険が差し迫っているのだと察知した。
桜の言うとおり、氷柱と南は駅まで走っていった。
桜は二人が行ったことを確認すると、再び店内へとはや歩きで歩き出した。
男二人は部屋を間違えたふりをしながら個室を開け、何かを探している。
桜が二人に追いつき、足音・気配を感ずかれないように近づく。
そして、男がドアを開けたのを確認し
「おい。」
男は驚いて後ろを振り返ろうとする。
その前に男二人を蹴り飛ばし、個室の中へと押し蹴る。
「なんだぁテメェ!」
個室のドアを閉じる。
この部屋は完全防音の個室である。
「悪いけど、その懐に入っているもの。」
男二人は顔を合わせる。
そして、
「気づかれたんじゃあ、死んでもらう!」
男は銃を構える。
それと男が指をかけるまえに桜は廊下で手に入れた箸を投げる。
それを銃口へとスッと入れる。
「それで撃ったら爆発すんよ♪」
「ぐっ」
男は箸をとろうとする。
桜は一瞬で跳躍し、男たちの頭上へと移動し頭部へ蹴りを二撃。
だが、それだけでは倒れなかった。
桜としては、ここで銃を発砲させ騒ぎにするのは防ぎたかった。
なので、先ほどの蹴りで勝負を決めてしまいたかった。
今男はふらついている。
片方に掌底し、壁へと吹き飛ばす。
これで一人は気絶させたが、もう一人が体勢を立て直し、銃を構えようとする。
もう手持ちの武器はない。ならば!
「逝けぇ!」
間に合わない。
それは相手を倒すことはできないという意味であった。
瞬間、桜は手を伸ばし、銃の先端を掴み射線を変えた。
「ば、ばけもの!?」
「うちは普通の女の子だぁ!!」
アッパーカットが決まった。
放物線を描き男はノックアウト。
「まったく。危ない危ない。っと」
桜は慣れた手つきで男の持っていた銃を分解し、パーツを握力で潰した。
「ここに持ってきていいのは財布と携帯くらいだよ。」
桜はそのまま支配人に暴漢におそわれたなどいい警察を呼んでもらい、店をでた。
その奥の部屋。
「親父、どういうわけかわからないが九龍の連中は俺たち以外のやつにやられたらしいですぜ。」
「直に警察が来ます。親父、早いところ」
「ああ、しかし何ものだ?その九龍をやった野郎は?」
ヤクザの三人は裏口から出て行った。
桜は入り口を出て、氷柱たちの待つ駅に走っていた。
(う~ん、婆ちゃんの言いつけで、いつもこういうことしちゃうけど、まぁ氷柱たちは大丈夫かな?よし近道だ。)
桜は裏通りを通り、近道をした。
薄暗いビルとビルの間の通り。とっとと突破しようと思っていた。
すると、
ヒュッ
何かが空気を切り桜へと近づいてくる。
耳が以上発達している桜はそれが何かはわからないが、危険物であることは感じ、大ジャンプで避けた。
「何だ!?」
桜が先ほどまでいた場所には大型の30cm程のナイフというより刀が地面に突き刺さっていた。
上を見ると、廃ビルの非常梯子に一つ、影がぶらさがっていた。
目をこらして見ると、チャイナ服を着た頭をお団子にしたアニメのチャイナっ子のような人物がいた。
「おう!やるアルネ。お前、今殺すつもりだったアルネ。」
「うちそんな悪いことしたっけ?」
「私、バイトね。そんなこといちいち知らないアルネ。」
「バイトって?何?」
女はうっすら気味の悪い笑みを浮かべた。
「殺しアルネ」