62 男の戦い
雲の上は次の会場であるグランドに移動する。
グランドには、相撲の土俵が設置されていた。
「相撲か?」
司会がやってきて説明を始める。
「第四回戦は、“喧嘩相撲”。ルールは相手を外に出すか、地面に背中をつけた
ら勝ち。相撲と同じく蹴りは禁止です。」
「そいつは腕がなるな!」
格闘関係と聞いて識はやる気を出したようだ。
対する相手は
「我に挑むのは小僧、貴様か。」
豊臣秀吉であった。
二人が土俵に上がる。
「お前はぶん殴りたいと思ってた。」
「我が前に、立つな。愚民」
「いい加減猿山の上から落としてやるよ。」
豊臣は2mの大男であるのに対し、識は170くらいの平均身長。
外から見て、明らかに豊臣の方が強そうだ。
この二人は昨日出会い、喧嘩をしそうになっていた。
そういった因縁があり、お互い、始まりを心待にしていた。
識は制服のブレザーとネクタイを外す。
豊臣は、違法制服である自前の服を脱ぐことはなかった。
「は、始め!」
司会が告げるとお互いの拳がぶつかった。
「ふん!やはり昨日は本気ではなかったようだな!」
「それはお互い様だろ!」
豊臣は宙に跳んだ。
下に向けて拳を構えた。
さすがにこれを直接はくらえない。
すぐに避ける。
豊臣は、着地と同時に識へとダッシュ。
勢いのついた拳を識へ当てる。
「くっ!」
「体格による違いだ。貴様ではこうはいくまい。」
腕が痺れる。
「消えよ」
豊臣の唐竹割り
識のガードが崩れ、直撃し、地面に叩きつけられる。幸いうつ伏せに倒れた。
「がっ!まだ…」
「そうまだだ。」
起き上がる識に豊臣は追撃として、拳の連打を浴びせる。
止めの一撃。
「今だ!」
識は一瞬の攻撃の止みを待っていた。
直ぐに豊臣の近くから離れた。
「ほう。まだ動けたか。」
識は少しフラついていた。
「今一度我が猛襲を受けよ。」
「…仕方ない。桜以外には使うとさ思わなかったが。」
識は左手を前、右手を引いた構えをとる。
「いくぞ…。」
「我が前に…!」
識は高速移動。いつの間にか間合いを詰め、肘打ちを腹部に炸裂。
「が…」
「ふん!」
続いて識は掌底を突く。
この二連コンボは綺麗に入り、豊臣は円のギリギリまで吹き飛ぶ。
「とどめ!」
「甘い!」
識はとどめに正拳突きを放つが
「うわっ!」
あまり体重が乗っていない拳であったせいもあるが、拳が豊臣の身体に当たると識が吹き飛んだ。
「な!なんだ!?」
「内功を練ればこの程度、どうということはない。」
「内功…?」
どうやら豊臣はただの暴徒ではないようだ。
「ところで、お前、何者だ?」
「…。我は…常に上を見る者。そうするよう、幼少の頃より教育を受けた。」
「…」
観客には聞こえないような声で話し出す。
「いかなる時においても我は王としての気品を持っていなくてはならない!ゆえに強者でなくてはならない!全てを壊す力!力があれば我が前を塞ぐ障害を全て排除する!」
「王であるために破壊するのか!」
「無論!力こそ全て!眼前の石ころは我が前から排除し!我が王道を行く!」
「そうか…。わかった。」
識は試合中に関わらず、目を閉じる。
「俺もな。昔は力があればと思い、力を欲したことがあった。そして力を得た。これで俺はできなかったことができると思った。」
識は拳を目の前に持っていく。
「だけど、それは違う。俺もお前も…お前が思っている石ころなんだ。」
「何?」
「同じ石ころだ。」
「我を愚弄するか!!」
「力があれば偉い…それは違うってことさ。これがな。」
「貴様ぁ!」
豊臣は拳を向ける。
識が開眼すると…
ゴ!!っと大きい音が鳴り、識の顔面に拳が衝突する。
識は一歩も引かない。
「力だけ求める…それじゃあな…いろんな意味で強くなれないんだよ。」
「ぐっ!」
「俺は守る為に闘うことを教えてもらった!」
豊臣はさらに。先ほどよりも鋭く拳を連打する。
「見切った!」
識は身体をひねり、しゃがみ込み、足のバネをためる。
そのままスリ足で豊臣の真下へと滑り込む。
「しま!」
「“大地印・昇脚”」
識はまさに重力を支えにし、軸を固定し上へと蹴り上げる。
完璧に重力を捕らえた蹴りを放った。
激しい衝撃を与え、豊臣が宙に浮く。
それを追いかけるように識も蹴ったまま、浮いた。
「まだだあぁぁぁ!!!」
身体を反転させ、再び、蹴りの構えをとる。
「“大地印・押印脚”」
ズドオオォォン!!!と大きな音と共に、砂埃が上がった。
豊臣を空中で蹴り飛ばし、真下である地面へと垂直落下させ、地面に“押印”を押した。
豊臣はかろうじて意識は繋いでいる様子であった。
「ぐ…」
「はあ…はぁ…」
あたりが静まりかえる。
その静寂を破る司会声が響く。
「…け…蹴り技を使ったので!反則負け!!大江戸の勝利ぃぃ!!」
「やべ…」
「し~き~~」
「あ・いやつい熱中して!いやだから!」
識は桜に殴られた。
雲の上2勝。
大江戸2勝。
そして、桜の出る決勝戦を迎える。