57 三四五回戦目
「申し訳ございません。」
浦島は皆の前に帰ってくるなり土下座をした。
「ちょ、浦島君。」
「わしの失態で雲の上全体に危機を与えてしまうとは…わしは…切腹ものじゃあ!」
懐から小太刀を取り出した。
鞘から身を抜き出し、それを腹に…
「命を粗末にするんじゃない!!」
言葉と一緒に識の拳が飛ぶ。
ほっぺたを拳で殴り飛ばした。10mほど。
「きゅう~」
「やべ!強すぎた。」
浦島は気絶をし、医務室へと運ばれた。
「次は南だっけ?」
「わたしだけどぉ、ちょっと不安かなぁ…。」
「桜、何で数学早解きに南嶋を選んだんだ?」
「それは試合が始まればわかるよ。」
意味深な言葉を残し、試合会場へと向かう。
試合する場所はグランドに設営された特製ステージ。
まるでクイズ番組のようなステージで机が二個並べられ、各机には専用モニターがついている。点数ボードが立っていたり、大型モニターがあったりする。
「さぁ次の勝負は名前の通り、計算対決です!それぞれ個別のモニターに出る数字を全てたして計算していただきます。」
「昔インド式計算術が流行った時に、よく出ていた問題だな。」
ステージに緊張しながら南が上がる。
「うわぁ~、今回はギャラリーが多いよぉ~。というか相手の高校の応援団、今回は気合がおかしいよぉ」
橘には今回応援団が駆けつけている。
弾幕には“LOVE SONG”と。直訳すると“愛歌”。
その通り、愛歌がステージに上がってきた。
「愛歌って高校では人気があるのね。」
従姉妹である桜もそこまでは知らなかったので驚いた。
「うおおおぉぉぉ!!!あ・い・か・ちゃ~~ん!!!」
「…恥ずかしい。」
応援されている愛歌は顔を真っ赤にしている。
「愛歌―!緊張しないでねー!」
「大丈夫…。」
「南―!負けたら今後メイドさんで登校だからねー!!」
「うわ!それはいやだなぁ。」
お互い緊張したまま、椅子に座る。
机には、クイズ番組で使われる電子ペンとモニターがあった。
「それにしても、そろそろ教えてくれないか?」
「ん?何を?」
「とぼけるな。お前と一緒で成績最下層の南嶋をどうして推薦したんだ?」
「それはね…。お!始まる。」
桜は途中で言うのをやめ、南の試合を見た。
「では、モニターをご覧ください。ここに数字が出ます。どちらが素早く全問書けるかを競います。よーいスタート!」
開始と同時にすさまじい対決が始まった。
「南はパソコンと計算問題だけは、尋常じゃないくらい得意なのよ。」
南は数字を見て、一秒以内に計算をし、解答していく。
それがどんな位の数字計算でも。
「愛歌さんもやるな。」
愛歌も南ほどではないが、素早く計算していく。
南があと一問というところで、まだ愛歌は四分の三ほど問題を解いたところであった。
だが、ハプニングが起こった。
ボキッとペンが折れた。
「ッ!!」
折れたことを知り、司会があわてて変えのペンを用意する。
だが、確実に時間のロスであった。
「まずい!このままじゃあ、愛歌が勝つ。どうすれば…。そうか!」
桜は“何か”に気づき、行動を起こす。
「識!歯を食いしばって!」
「へ?」
「村雨ぇっ!」
桜は手元に木刀・村雨を召還した。
そして、大きく振りかぶって…識を弾丸のように打った。
そのまま宙に放物線を描き、ある地点へと落下した。
愛歌の目の前である。
「…識さま…。」
桜の狙いとしては、とりあえず、知人が目の前に振ってくれば動揺するという狙いであった。
愛歌は顔を朱色に染め完全に手が止まった。
その間にペンが届き、一瞬で南が答えを書く。
その瞬間ブザーが鳴り、大型モニターには勝者雲の上学園という文字が出た。
これで1勝2敗。
まだ、ここから2連勝しないと勝利ではない。
次の試合まで休憩をとることになったので、全員で会議室に集まった。
ちなみに、間宮・椿・エヴァは消息不明になっている。
次は七海の出番であるが、休憩中。
「ところで、中嶋君?あの対戦相手とはどういうご関係?どうして桜の従姉妹さんとお知り合い?それに“識さまぁ?”えぇ?」
「いや、あのそれは…ぐるじ!」
識は七海に首を絞められ尋問…というより拷問に近いことをされる。
「ぎぶぎぶ!つか何だその黒いオーラは!?」
「さて、あの夫婦コントは置いておいて、次は…って七海だよ。おーいそろそろ、閉め落とすか、殴ぶり殺すなりして、会議しようよ。」
「その殺す前提の選択肢なんだ!」
我を取り戻し、識をポイッと投げ捨て、会議に加わった。
「次は“バイク”ってことだから、七海の得意分野だよね。」
「まぁ私は得意だよ。でも問題が出たら結構ヤバイよ。」
七海は社会以外は絶望的な成績である。
「あ、氷柱。どこ行ってたの?」
先ほどまでいなかった氷柱が会議室にやってきた。
「次の試合は、コースを回るらしくて、説明書きが配られてるの。ほら」
氷柱は桜に一枚の紙を手渡した。
「これは!!」
コースは第二グランド一周。
格コーナー四箇所に二択〇×問題を応える場所がある。
そこまで、自転車や三輪車など指定された乗り物で向かうことがルールである。
「七海?」
「ここ見て。」
七海が指したのは第二コーナーを抜けたところの円形の土俵。
どうやらここも通ることが決められている。
「この注意書き。“土俵の外に出たらコースアウトとして失格となる。”」
「なるほど…。」
そして、橘高校。
「ここだ。」
「なるほど…。これは使える。この平均台。」
時間がきた。
全員第二グランドに集合して、七海と橘の生徒はスタート位置についた。
「誰が相手?」
相手は、橘生徒A。先ほど祐介に殴り飛ばされた人物だ。
「ふっふっふ。桜相手が悪かったね。」
「何ぃ?」
わざわざ、恋美は雲の上チームのところまでやってきた。
「彼は一件間抜けに見えるが、自転車と一輪車の操縦は天下一品級。というかそれ以外とりえがない。」
「聞こえているぞー。」
「それでは位置について、よーいスタート!」
七海が最初に目にしたのは三輪車。
「う~、やっぱり漕ぎにくい。」
七海の漕いでいる様子を見て、桜と雪音はあることに気づいた。
「識くん。」
「あ、雪音さん。どうしました?というか二話ぶりくらいに話しましたね。」
「その…えっと…」
雪音は丁重に言葉を選んでいた。だが
「識。」
「ん、ってぎゃああ!!」
桜により目潰しVer.V指。
「ちょっと目を閉じていなさい。」
「な!なんで!言葉で言えってぇ!」
目潰ししたのは、七海の光景にあった。
二つの胸が身体の振動で上下しており…
「あれは識くんにはまだ早いです。」
「目の毒ね。」
そんなことをしていると、七海は問題コーナーにたどり着いた。
相手との差は20mほど。
ブー、
ブー、
ブー、
二択の〇×問題で三連続不正解。
その間に相手に抜かれてしまった。
「畜生!」
次は一輪車に乗り、平均台を渡る。
平均台から落ちたらその位置から逆戻りして、また渡る。
「どりゃあーー!」
相手はまるで躊躇しないかのような走行で平均台を渡る。
「素早い走りね。でも!」
それに負けないような走りをする七海。
「何!ええい!連邦の〇ビルスーツは化け物か!」
「伊達に赤い眼鏡をかけているわけじゃない!って桜の受け入りだけど!」
第二コーナーで相手と七海は並んだ。
お互い、一回目で正解して、次の乗り物、自転車に乗った。
そして、円形の土俵に着いた。
ここでお互いが動いた。
((今だ!))
七海は自転車をウイリィーさせ、相手自転車を攻撃しようとした。
それは相手も同じだった。
「な…!?」
「に…!?」
相手も驚いた様子であった。
タイヤの前輪と前輪がぶつかる。
お互いのバランスがくずれる。距離的に相手のほうがリング外に近い。
「でぇい!」
七海がしかける。
前輪タイヤによる突撃で相手は後ろへホッピングする。
「今だ!(いや、これは…)」
七海は足を動かし、前輪を上げたまま突撃。
だが、相手はそれを読んでいた。
大きくホッピングし、攻撃をヒラリと交わし、七海へと自転車の向きを変えた。
そのまま突撃。
「甘い!」
それを読んでいた七海は後輪を軸に180°タイミングよく回し、自転車によるビンタで相手をはたく。
予想外の攻撃に完全に相手はバランスを崩し、相手はリングアウト。
その時点で七海の勝利が決まった。
これで2勝2敗。
そして、5回戦。
単純なクイズ対決であった。
雲の上の選手は、雪音であった。
場所は、七海が使ったステージであった。
「雪音さんって…」
「クイズというか、一般常識もところどころ欠けている。つーか山暮らしだったからな。」
雪音がステージに上がる。
(どどどっどどどうしよう…。どうしよう。負けるたら、私のせいで学校が…負ける…。まずいよぉ。)
元々顔が白いが、今は青ざめている。
すると、いつもの効果が現れた。
「ん?なんだか肌寒いですけど、用意はいいですね?ではスタート!」
ジャジャン!という音と一緒に大型モニターに問題がでる。
そして、雪音は…
(まずいまずい…私のせいで…私のせいで………。)
気温が急激に下がる。
すると、
「ううう…」
相手が倒れた。
「え?」
「おや?」
相手は起き上がると、一瞬で舞台を降りてしまった。
雪音含め、全員困惑していると、司会が我にかえった。
「ええっと…、橘の不戦敗とします!!結果!3勝2敗で、雲の上学園の勝利!!!」
橘の生徒は口をあんぐりと空け、事実を受け入れることができていない様子であたった。
こうして、雲の上学園の綺麗な1勝を飾った。
次回、VS大江戸大付属高校