54 京都観光記
桜達が大江戸の文化祭を見ている時、中嶋識と浦島太郎の二人は京都の街を散策
していた。
歴史物を好む浦島による提案であって識としては、文化祭を見たかったようだ。
男二人は、金閣寺を見た後、今は京都の街を食べ歩きしている。
「男二人旅って寂しの~」
「発案者が言うな。俺だって本来なら今頃大江戸のかわいい子と…」
「……」
「ん…?」
識は背後から視線を感じる。
微妙に冷たい視線だ。
振り返ると雪音が一人でポツンと立っていた。
「…雪音さん。あなたはここで何を…?」
「それが…」
遡ること数分。
「京都というのはお話に聞いてましたが、綺麗な所ですね。」
「…ああ。そうだが…」
「私いつか、京都に行きたいって思ってました。」
「…ああ。それはよかったな…。」
宿の喫茶店にて、偶然出くわした、雪音と紫部は話していた。
紫部としては、早くタバコを吸いたいのだが、雪音を見るとかなりか細く病弱に
見えるので、さすがに目の前での喫煙は遠慮した。
たが、ヘビースモーカーの紫部はすぐに禁断症状に陥った。
(早く吸いたい吸いたい吸いたい吸いたい………)
そんな様子にまっったく気づかない雪音。
すると、風が吹いた。
「あっ」
雪音の巻いていたストールが風で飛ばされて、外へと飛ばされていった。
「あ~待ってぇ~~」
そのまま、飛んでいったストールを追いかけ、雪音は一人外へと出て行った。
「ということで、ストール見てません?」
「いえ、俺らは…っと」
応えている識を引っ張り、浦島はヒソヒソと話し出した。
「おい、あのべらぼうなベッピンさん、ここに来る時から気になっとったがどなたじゃ。」
「ああ、雪音さんか。俺の仕事仲間だ。」
「紹介…し」
「やだ。」
「頼む。」
「やだ。」
「今生の頼みじゃ」
「それでも…」
「あの…」
「「うお!」」
二人がいつまでも話しているので、雪音が声をかけてきた。
あまりにも驚いた浦島はしりもちまでついた。
「忙しそうですから、私行きますね。」
「あ、そうですか」
「ちょっと待つのじゃ!!」
ストール探しを続けようとした雪音を呼び止めたのは浦島であった。
「わしらも探そう。」
浦島は今日一番の輝きを目に宿しながら言った。
「おいおい、浦島。」
「いいじゃろ!困っている女性を助けるのは日本男子として当然じゃ!うつけもの!」
「おまっ!うつけって馬鹿って…、」
「雪音さん」
浦島は雪音の手を握り、目を雪音へと真っ直ぐ向ける。
対する、雪音は少し…いやかなりいやそうに引きつった笑顔をしている。
「では、雪音さん!いっしょに探しましょう!」
「は…はい」
そのまま、浦島は手を握り、歩き出した。
雪音は顔を赤くするどころか、青くなっていた。
そんな様子にはまったく気づかない浦島。
浦島は、ナンパをことあるごとにする。が、大抵失敗する。
それは相手をあまり見ないからだと識は思っている。
「っ!」
「あ、雪音さん?」
たまらず雪音は手を振りほどき走りだす。
走り出す先は識の元であった。
「なっ!!」
雪音は識に抱きついていた。
しかも両手をがっしりと回して。
「あ…そうか。おぬしらは…そういう関係であったか…」
「いや!違う!これはだな!」
「なら…おぬし…今の雪音さんの顔を見るがよい…」
雪音の顔はいかにもここが安全であるというように安らかな笑顔でいた。
「いやいやいや!これはだな!雪音さんは男性にあまり耐性がなくてな!だから浦島に手を握られて急にどうしたらいいかわからないから、一緒に住んでいる俺に助けを求めな!で耐性のある俺のところにいるとこう安全地帯だという…」
「識よ…一つボロを出したな。」
「何?」
識は弁明のため、あわてて話していたので、自分が何を言ったのかあまり覚えていなかった。
「“一緒に住んでいる”とは…どどどどういう…」
識は一気に青ざめた
「そうじゃったか…お主はすでに同棲を…」
「ちちち違うって!それはだな、えっと…。まず雪音さん!離れてください。」
そこで雪音は自分が何をしたのか初めて気づいたようだ。
顔を赤くし、「何をしてるんですか~」と言いながら、識を突き飛ばした。
そんな理不尽な目に会いつつも弁護を続ける。
「泊まりがある仕事でな。だからよく一緒にいるんだよ。」
浦島はそこで同棲していることが勘違いであることに気づいた。
識がいろいろな仕事をしているのは、知っているし、最近は家も爆破されたとか
で、住み込みの仕事を見つけたのだと思っていた。
「そうであったか。ワシは勘違いしとった。とはいえ、困っている女性は見過ご
せん。ストール探しをを手伝おう。」
こうして、三人でストール探しをすることになった。
「ってか、風で飛んだんですよね?明らかに宿からここまでとぶはずないですよ
ね?」
もっともな疑問である。
ここから宿までは一キロはある。
今日は快晴で風も決して強くない。
常識的に考えれば、どう考えても変な話だ。
「それが…、ストールは体の大きな方の鞄にスポッと入ってしまいまして…」
「そんな面倒な奇跡よく起こりましたね…。」
そして、三人で雪音のストールを探すついでに観光をすることにした。
まず、清水寺に行くことにした。
「まさに絶景だなぁ」
「綺麗な眺めですね。」
「清水から飛び込むようにって言葉があるけど、アレってここから飛び込んで死ぬ勢いってことか。」
今いるのは清水寺の写真で見たときに出てくる“あの”場所だ。
「でも、こんなとこにストールが飛んでくるわけないよな…」
「そうじゃな…、でも雪音さん自身もなんだかストールのことは忘れているようじゃしな…。」
その雪音はまったくの見たことのない場所からの絶景に目を輝かせていた。
雪音は桜家に来るまではずっと、雪山にいたのだから仕方がない。
「識さん!次いきましょう!さっき観光案内の紙をとってきましたから、どこ行くか決めましょう!」
「本当にどうでもよさそうじゃな。」
キャピキャピ騒いでいる雪音。
識の元へ歩くと、ドンっと大男にぶつかった。
「あ、ごめんなさ…」
「のけ、うつけ」
学ランを着た大男から片手で払われた。
その大きな手で雪音は飛ばされ、地面に身体をつけた。
大男はそんな様子を気にするまでもなく、その場を離れる。
「雪音さん!」
識と浦島は雪音に近づく。
その様子を一瞥し、大男はその場から離れようとする。
雪音はたいした怪我もなく、少し手をすりむいただけであった。
雪音が無事であることを確認すると、浦島に雪音を預け、識は立ち上がった。
あまりにも大男が傍若無人であり、怒りを覚えた。
「おい、デクの棒。」
「おい、小僧なんだと!」
応えたのは大男ではなく、その後ろにいた舎弟であろう小さな男であった。
「この方をどなただと思っている!」
「デクの棒ってことくらいしか知らないな。」
「小僧!てめぇ!」
そのやりとりを、大男が冷たい目で見ている。
それはまったく、興味がない。そう言っている眼であった。
「野猿。」
「はい!」
「ゆくぞ。」
「はい!“秀吉”様!」
その大男こと秀吉は何事もなかったかのように、歩き出した。
どうやら秀吉とやらは、俺らのことを小石かゴミくずにしか思っていないらしい。
これでは言葉では秀吉を止めることをできないらしい。
そう思い識は秀吉の歩く道を先回りした。
秀吉の目の前に識は立った。
「…小僧。我が道を塞ぐか。」
「お前、雪音さんに何をしたかわからないのか?」
「何?余が愚民に何をしたかだと?貴様は蹴った小石のことを覚えているか?」
「どうやら勘違いの大馬鹿野郎らしいな。」
識の見解では、この人物は自分のことを王様か大統領のように思っているらしい。
「のけ、小僧。」
やはり先に手を出したのは、秀吉であった。
識もそれを見越しての行動であったため、その大きな手を払いのける。
それは、自分が王である秀吉にとって『拒絶』。あるいは『敵対』を意味していた。
「ほう、反乱するか。よかろう!」
大男はポケットから手袋を取り出す。
あらためて識は秀吉を見た。
よくみると、かの戦国大名、豊臣秀吉の通り、猿顔かと思ったが、普通の猿というより“大猿”。
そして格好は学ラン。体格を含めまるで番長である。
「逝け。」
秀吉は簡単な右ストレートを出した。
大きな拳による攻撃。そして、手馴れているのか、早い拳。
識はそれに合わせて、拳に向けて識も拳を合わせる。
ガツンっと音がなる。
そこから、お互いが拳を離すことなく力比べが始まった。
秀吉と識は只者ではないことを察し、力を入れやすくするために足を開き肩を入れた。
「秀吉様と張り合うなんて!」
舎弟の男も驚いているようだ。
秀吉も識の身体のどこから自分と張り合う力が出るのか謎であった。
「ぐぐぐ…」
「ぬ、ぬぅ!」
二人はどちらもまったく引かない。
「おい、猿!こりゃ力比べじゃ決着つかねーな!」
「ほう!貴様のその反乱!潰させてもらおう!!」
お互いくっつけていた手を離し、もう片方の手を使い、殴り合おうとした。
その時…
「やめてくださぃい!!!」
その言葉に二人は拳を止めた。
叫んだのは雪音であった。
その眼には涙を浮かべている。
雪音も女の子である。
争いごとが嫌いなのはわかる。
その場の全員がそう察した。
雪音を愚民のように思っていた秀吉でさえもそう思い、拳を止めた。
秀吉としても泣く女を無碍にはできなかった。周囲の眼を気にして。
だが、ただ雪音は争いが嫌いで泣いていたわけではなかった。
「…ひ…、ひぐ……。」
「すまなかった。雪音さん。」
「…」
泣く雪音をなだめ、その場を離れる。
その時、後ろから
「小僧。」
「なんだよ。」
「貴様、名は。」
「中嶋識。雲の上学園生徒会役員だ。」
「そうか、我が名は“豊臣秀吉”。大江戸大付属高校生徒会役員だ。」
「何?お前が!?」
「楽しみにしている。」
次回予告
識「最近更新の速度遅くね?」
桜「最近就職活動してるし、バイトもあるから遅いのよ。」
識「やれやれ、大丈夫なのか?」
桜「アップしてないけど、大体次の話の構想も考えてあるから問題ないと思っているらしいわ。」
識「でもよ。最近次回予告も適当になってきてないか?」
桜「あ~忙しいからって手を抜いている部分もあるわね。それは書く以上ちゃんとしてほしいわね。」
識「次回からはちゃんとやるかな?」
桜「それを期待して、ではまた次回!」