52 京都へ行こう
5月2日、大会前日
桜たち雲の上学園の代表10人は、大会の会場である大江戸大付属高校のある京
都へ行くため、七王子の三つ隣、下野から新幹線に乗って移動するところであっ
た。。
下野駅
「雪音さん!そっちトイレ!どうやったら電車入り口と間違えるんですか!」
雪音は今までずっと山で暮らしていたので、自ら電車に乗るのは初めてである。
桜家の執事として、本来は桜の身辺にいなくてはいけない識だが、今日は雪音の
世話もしなくてはいけないので、大忙しである。
「雪音さん!新幹線ならどれ乗ってもいいってわけじゃないんですよ!これチケ
ットに電車の番号とか書いてありますから。」
「え~っと??」
やはり、初めてなのでピンとこないようだ。
さらに
「って桜!言ってるそばから違う新幹線に乗るな!」
「え?いつもの電車みたいにどれでもいいんじゃないの?」
桜は各駅電車になら度々乗るが、新幹線は初であった。
お嬢様なので、遠くに行くときは、ジェット機か、車のどちらかだ。
「西園寺や南嶋はどこにいるんだ?あの二人なら新幹線に乗るだろ。」
「ん、まぁいるんだけど、朝早いから二人ともベンチで寝てるんだよね。紫部先
生がいるから問題ないと思うけどさ。」
「氷柱さんは?」
「さっきからずっと電話してる。」
どこも行くところがないから、俺と雪音さんのところをウロチョロしてたのか。
識としては、この移動では、桜のことは南や七海に任せる気でいた。
友人同士でわいわいなんとかするだろうと思っていたのだが、思わぬところで計
算が狂った。
まさか寝てるとは思わなかったし、氷柱まで手がはなせない状態になるとは、考
えていなかった。
だが、苦労するのもあと数分。
新幹線に乗りさえすれば、それほどのアクシデントは起こさないだろう。
識は時間が過ぎるのを強く願った。
「ヘイ、貧乳。お前ジャパニーズのくせに新幹線の乗り方すらしらねーのかよ。
」
「エヴァ、今日始めて見た気がする。ウチは基本車移動なんだよ。」
今日のエヴァは制服に縁の細い眼鏡で、容姿は優等生であるが、今の言葉使いは
チンピラである。
「まったく、セレブは常識に疎いってやつか?どうせ新幹線のチケットの買い方
も知らねーんだろ?」
その言葉に少しカチンときた桜は、悔しいので知ったかぶりをすることにした。
「し、知ってるよ!緑色のカードを使って、タッチ・アンドゴーでしょ!」
「それはSu〇caだ!つーか買い方の説明になってねーぞ!」
つい横にいた識がツッコんでしまった。
「だっはっは!クレイジーな答えだな、貧乳。新幹線ってのは、駅構内の緑色の
自販機で500円くらい…」
「それはグ○ーン券だ!500円で新幹線が乗れるか!」
素で間違えたエヴァは顔を真っ赤にし、平静を装うかのように眼鏡をくいっと上
げる。
「じょ…じょじょ…冗談だ…」
「顔真っ赤にして、そっぽむいて言う言葉がそれか!」
ますます、エヴァの顔が赤くなった。
「くそっ!そこの色男!テメェいつか風穴ぶちあけっからな!」
それだけ言うとエヴァはどこかへ行ってしまった。
「俺ターゲットにされた?」
「ウチと同じだよ。」
新幹線が出発する時間となり、何事もなく全員新幹線に乗ることができた。
座席は、
氷柱・七海・南
識・桜・雪音
椿・間宮
浦島・エヴァ
の順番で座っている。
朝早い集合なので、だいたいの人は座席で寝ていた。
今起きているのは桜と識くらいである。
桜はP〇Pを、識もそれにつきあいP〇Pをやっていた。
そのまま一時間がたった。
「あ、電車が止まった。」
「ここじゃないぞ。」
「んなことわかってるわよ。ちょっとトイレ」
そうして桜は席を立った。
「んあ、桜さん?」
「あ、ごめん。起こしちゃった?ちょっとごめんなさいね」
席を立ったときに、雪音を起こしてしまったようだ。
そのまま、桜はトイレへと行く。
「識さん、もうすぐ着きますか?」
「いえ、まだ時間がかかるので、寝て大丈夫ですよ。」
「では…、……あれ?」
再び寝ようとした雪音は何かを発見したようだ。
「あれ…?桜さん?」
「はい?」
言われて、識は雪音が向いている窓の方を見た。
そこには、駅構内の自販機でジュースを買う桜がいた。
「ば!あのバカ!電車がすぐに出るぞ!」
識が言い終わると同時に、発車の放送が流れた。
それが意味することは、一つ。
今からではどうやっても間に合わないが、識は急いでドアへと駆け込んだ。
未だに桜はジュースを選んでいる。
識と雪音以外は誰も気づいていないようだ。
桜が知らぬ駅で一人ぼっちになった場合、非常に危険である。
サバイバルの得意な桜ならある程度問題はないが、電車に乗るとなると話は別である。
電車のことをまったく知らない桜が自分を信じて電車に乗りまくったら、取り返しのつかない迷子になる。
それプラス、識は桜を迷子にさせたら黒井に殺される。
無常にも電車の入り口が閉じる。
識は手を伸ばす。到底届かないのだが。
桜も電車の入り口が閉じるところを見て、驚いたようだ。
これは間に合わないと二人は思った。
だが、
「あ!」
扉を掴む人がいた。
識ではない。
桜にとっては少しからみずらい人であった。
なぜなら、一度勝負に負けているからである。
「徳川…空。」
「やあ、東海林さん。それから中嶋君。それより早く中に入ってくれないかな?」
桜は言わた通り、まず電車の中に入る。
「徳川って大会にはこれないって話じゃなかった?氷柱がいってたけど?病院に行くとこ?」
徳川は病弱なので、様々な病院に通院していると聞く。
「いや、今日は妹が大江戸に通っているからさ。」
どうやら応援で大江戸高校に行くらしい。
そして、桜たちは大江戸大付属高校のある京都に着いた。