50 ラスト・パーティー
エヴァが転入してから、一週間ほどたった。
四限目の授業が終わると同時に桜、七海、南の三人は、ス〇ークのごとく隠れながら、校舎を出ようと行動していた。
「こちら桜、異常なし。どうぞ。」
「こちら七海、異常なしどうぞー。」
「こちら南、異常なしぃ~どうぞ~。」
別に三人は離れた場所にいるわけでもなく、携帯を使っているわけでもなく、すぐ隣にいるのだが、完全な“ノリ”で無線機ごっこをしていた。
「氷柱はいないね…。」
「油断はできない。」
「う~、会議出たくないよぉお~」
三人は、放課後の会議のため、こんな真似をして帰宅しようとしていた。
サボり常連の三人組は、いつも氷柱に見つかり、強制的に会議に参加させられる。
今日も、サボろうとしていた。
今は、校舎出口にいる。
三人は隠れながら、周囲を見渡し氷柱の他、生徒会男子がいないかをじっくり観察している。
しばらくじ~っと見て、桜がいないことに確信を持ち、行動にでた・
「よし!今だ!」
「七海了解!」
「南了解!」
「氷柱了解。」
何か一人多い気がした。
それは三人とも感じたことであり、同時に自分たちの死角である背後をグルリと見た。
ある人がいないことを祈りながら。
だが、現実は桜たちの祈りをきいてはくれなかった。
「げっ!氷柱!え~っとこれは…!」
桜があわてて言い訳を考える。
そんな桜をよそに、七海は言い訳を桜より早く考えつき、口に出した。
「桜が首謀者!私たちは桜に乗せられて…シクシク…」
はあぁっ!??っという顔で桜は七海を凝視した。
それに便乗する人物が一人、
「会議なんてかったり~ぜ~って桜ちゃんが…シクシク…会議に参加しようとする私たちを巻き込んだのよ。」
「くおら!何いってんの??」
そんなやりとりを氷柱は氷の如く冷たい眼で見下しながら見る。
「じゃあ、磔にしようかしら?」
「「賛成!!」」
「うぉい!磔ってヤバイからね??前にされたとき、カラスにつつかれて大変だったからね??」
以前、桜は氷柱の大切なアンティークを生徒会室で野球をしていたところ、見事に破壊し、十字架に磔にされた。
「三人で磔よ♪それがいやなら、早いとこ、会議室にきてちょうだい。」
それだけ言うとサっと氷柱は生徒会室へと歩き出した。
しぶしぶ三人は氷柱についていった。
生徒会室
生徒会室にはすでに男性陣である、
中嶋識
間宮千
浦島太郎
の三人が席に座っていた。
「のう識、これどうじゃろうか?」
「ん?」
浦島が持っていたのは、東京ウォー〇ー。
話し方はじじ臭いのだが、意外とこういう若者向け雑誌は読んでいる。
その絵はなんとも笑えると識はいつも思っていた。
「識、お前今失礼なことを思うたじゃろ?」
するどい奴だと思った。
「で、どうじゃ?」
「なになに?…夜の夜景スポット…まさか俺と…?」
「アホ、違うにきまっとるじゃろ。今度おなごと逢引するのじゃ。」
「ああ、この前は佐々木さんとデートしてとんでもないことになったらしいがな。」
急に浦島は顔を真っ赤にした。
「んな!?いずこからそのようなことを??」
「それは秘密のアッ〇ちゃ~ん♪」
「くっ!」
浦島はまだ顔を真っ赤にしている。
こんな状態で、識にデートの話をするのは少々引けた。
もう一人いる間宮に聞いてみようと考えた。
「のう、千よ。どうじゃろうかここは?」
「・・・・」
「……のう千よ??」
「・・・・」
完全に興味がないようだ。
本を一度だけチラっと見て、先ほどまで読んでいた小説を再び読み始めた。
「浦島の恋愛なんて、興味ないってさ。」
「ぐぬぬぬぬ!」
浦島が悔しがっていると、氷柱たち四人がやってきた。
「あ、氷柱殿。」
「みんな揃っているわね。じゃあ早速会議をしましょう。」
「めずらしい。桜たち三馬鹿が予定時刻に会議に来てる。」
三馬鹿という言葉に桜は少しカチンときたが、まぁ流そうと思った。
全員がそれぞれ座席に座ると、氷柱が司会進行となり、議題について話し始めた。
「今日はまず、五月に行う大会についてだけど。生徒会は強制参加だけど大丈夫。」
「はい、私ぃ~用事が」
「嘘はバレるわよ。」
「ごめんなさい」
いきなり釘を刺しておいた。
「椿さんとエヴァさんだっけ?この二人は参加してくれるという話なのね?」
「うん、直接お願いした。」
「あと最低一人ね、できれば代えの効くように2~3人欲しいけど。」
全員首を斜め45°に傾け、その一人を考える。
交友関係が広いことで有名な識でも、誰も思いつかない。
「こうなると、校外の人でも大丈夫って書いてあるから、学校外の人に頼もうと思うのですが。」
「そうね、でも年齢制限があるわ。」
氷柱は大会の要旨を取り出した。
そこには、学校外の人間の場合、年齢は15~18と書いてある。
つまり、高校生ということだ。
「なら、話は簡単ね。たしか、桜の家のメイドさん、茜さんはどう?私年齢しらないけど?」
「ああ、無理無理。茜さん意外と歳くってるから」
桜はケラケラと笑いながら話した。
桜自身も詳しい年齢はわからないが、桜は確実に20代以上であることは知っている。
そして桜の後ろで笑う影が一つ。
「歳が何ですって?」
「はう!!??」
桜の後ろには茜がなぜか立っていた。
殺気。それを感じ桜はとっさにその場から離れようと席をたった。
しかし、逃げるより先に桜は茜に頭をホールドされる。
「あ…茜さん??どうしてこごおおぉぉぉ!!」
こめかみに拳骨をセット。そこからグリグリをし始める。
しかも半端ではない力で。
「メイドのスキルには神出鬼没というものがデフォルトでついているんですよ。でぇ?誰が歳くってるですってぇ?」
「茜さんは美人でかわいくて肌がツヤツヤのピチピチの若々しい女性であり、まさに永遠の17歳でええぇぇぇ!!!」
「あら♪そんな本当のことを言われると照れるわ♪」
そうしてやっと開放された。
桜のHPは瀕死だ。
「でも、私は今回出場はできませんわ。お仕事がありますし。」
「そうですか。残念です。」
「茜さん、実際はなぜ生徒会室にいるんですか?」
全員が思っていた謎。
「桜がお弁当を忘れていたので、届けに来たのですが、桜が余計なことを言っていたのでつい。」
少々やりすぎたかなという感じで、茜は軽く反省していた。
桜の机に置いた弁当箱は重箱が三段重なったものであった。
すると、再びエレベーターが生徒会室まで上がってきた。
茜が忘れていたかのような仕草をし、エレベーターまで走っていく。
「では、ちゃんと渡しましたよ。残さないで食べてくださいね。」
言い終わるのと同時にエレベーターの扉が開き、一人の人物が出てきた。
たどたどと、おぼつかない足で、歩き出す。
「あ~か~ね~さ~ん~~。置いていかないでくださいよ~~」
雪音であった。
半べそをかきながら、茜の元に向けて小走りをする。
エレベーターを出るとき、僅かな段差があった。
その段差に奇跡的に雪音は足をひっかけた。
「あう!」
ベチン!と顔面からもろに地面へとぶつかる。
周りは何者だ…という空気に覆われた。
自分が注目されているとは知らず、半べそのまま、ムクリと起き上がる。
そして桜と識はこの後の展開を察知した。
(おい桜、このパターンは!)
(いつもの冷凍パターン!)
雪音はネガティブになると、たとえ室内であろうと、周囲に吹雪を吹かせる雪女である。
ここでされては、氷柱や浦島といった身体の弱い人の体調を一気に崩させる。
桜と識はアイコンタクトをとり、識は鞄からあるものを取り出した。
識が鞄からブツをとっている間に、桜は識と雪音の中継地点に一瞬で飛ぶ。
そして識は桜に向けブツを投げ、桜はそのブツを雪音の元へ転がした。
「あっ!」
雪音は桜が転がしたものに気づいたようだ。
それは“おしるこ”の缶であった。
急に満面の笑みとなり、夢中でおしるこを飲み始めた。
「あんたたち何をやってるの?」
つっこんだのは、七海であった。
「あ、いやな“うち”のメイドの雪音さんがさ。」
「まぁ略すと、おしるこ好きでさ!」
「全然言ってることがわからないよ。」
全員何を言っているのかまだ、全然理解ができていない。
だが、それほど気にすることでもないので、話を続けようとした。
「あら?…その方、着物を着てる方は桜のメイドさん?」
着物を着ている人物というのは、雪音のことである。
ちなみに茜はメイド服である。
「そうだけど。」
「ちなみに名前は雪音さんだ。先日から桜の家で働いている。」
「ちょっと待って。」
話を停止させたのは七海であった。
それに南が頷く。
「わたしもぉ~気になったのだ~。」
「ん~っと…。何か、中嶋君さ、桜の家のこと知りすぎつーか、さっき“うち”のって言ったよね。どういうこと?」
ちなみに『どういうこと』と言った部分はかなりドスを効かせた声であった。
さらに黒いオーラを出させ、かけている眼鏡は光り、長い髪を上へとゆらゆらとなびかせている。
「ちょ!ちょ!それは…それは…。」
(しくじった…)
「中嶋は三月より、東海林家で執事をしている。」
七海は話した人物へ、ぶわっと音がなるくらい、勢いよく首をふった。
話したのは間宮であった。
「何で間宮が知ってるんだよ!」
「・・・・」
「ってもう無視か!」
間宮はたまにこのようなどこからか仕入れたかわからない情報を持っている。
もう少し情報を聞き出そうと七海が口を開けるが、それよりも早く氷柱が声を出した。
「まぁ、それは後で中嶋君をつるし上げにでもして聴きだすとして」
「するなっ!」
「で、え~っと雪音さん?」
「は…はい??」
氷柱はおしるこを飲んでいた雪音へと話をかけた。
激しく人見知りをするので、かなりオドオドとし、識の後ろへと隠れた。
「な……なんです…?」
「えっと、年齢はおいくつですか?」
「…16」
「氷柱殿、まさか。」
「ええ、雪音さん。5月3日に運動大会があるんですが、出ませんか?」
雪音は茜をチラリと見る。
まだ雪音は先の予定はわからないので茜に聞いてみた。
茜は一瞬考え、コクリと了承の合図を送った。
「だ…大丈夫です…。」
「ゆ!雪音さん!ちょっと!大丈夫なんですか?」
「ええ…運動は得意です。」
それならいいかなと桜は思う。
こうして、メンバーが全員そろった。
After episode
「で、雪音さんでしたっけ…?」
「はい…」
七海話し、一拍空く。
「いつまで中嶋にくっついているのかしらぁ???」
雪音は識の後ろにビッシリとくっついていた。
「は…はう!」
急に顔を真っ赤にして、離れた。
識もあまり意識はしていなかったが、言われてみればかなり抱きつかれていた。
そして、雪音は七海を見ると、何か怖いものを見たかのように、桜にすがりつく。
七海は、ニコニコと満面の笑みを浮かべていた。眼鏡を光らせ、髪を上へと逆立せ、黒いオーラを出す。
「桜さん!あそこに“妖怪般若
”がいます!」
「だぁれが鬼女だぁ!!!」
「さ、桜さん~」
「あっはっはっは…」
桜はこの先の大会がひどく不安でしかたがないと思った。