49 ノース・ウーマン
翌日。
桜は昨日とは違い、しっかりと登校していた。
椿いわく、今日転校生が来るらしいので、どんな人物なのか見たいという好奇心もあった。
もう一つは、五月に行われる大会に出場してくれる可能性があるということだ。
交流を深めるためなど、と言い説得しようと考えている。
クラスの中でも、つい先ほど椿が転校生がくると言ったので、がやがやと転校生についての話をしていた。
桜は七海と南の三人で話をしていた。
「新しくくるのは男かな?女かな?」
「私はかあいい~女の子がいいなぁ~。」
「桜はどっちだと思う?」
「う~ん…運動するから、男の方がいいかな。」
「「は??」」
二人には何のことかさっぱりであった。
二人が頭に“?”を浮かべていると、教室のドアをガラガラと開け、教師が入ってきた。
朝のホームルームが始まると思い、全員それぞれの席についた。
桜の席は一番後ろの窓際より一つ隣である。
一番窓際が空席なので、おそらく転校生はそこに座るのだろうと思っていた。
「お~し、席つけ~。三秒以内にすわんねーと殺すぞ~、3…ってもう座ってんのか。」
お決まりのセリフを言い、教卓に手をつき、出席をとった。
「で、今日は転入生がいんぞ~。入れ~。」
クラスの全員が教室のドアに注目した。
いったいどのような人物なのか。
ちなみにGクラスに入るということは、それなりに特別な人間である。
それも込みで、皆楽しみにしていた。
先生の合図を一拍おいて、転入生は入ってきた。
スタスタと物怖じせず、転入生は歩く。
まず、わかったのは、女子であるということであった。
その次は、その女子が金髪の長い持ち主であるということ。
桜たち以外はそこで思考が止まっていた。
桜は、金髪であることがわかると、その顔を見て、どんどん顔が変わった。
そして、思い出していた。あの三月北海道での出来事。
『伽羅女流』という店にいた、ハゲおっさんとグラサンの女エヴァ。
だが、今いる人物はサングラスをかけてはいないが、北海道で闘ったエヴァ本人である。
思いだしていると、エヴァと思われる人物は自己紹介を始めた。
桜はあの汚い言葉遣いをまた聞かされるのだろうと思った。
「エヴァ・マリアンヌです。よろしくお願いします。」
エヴァは満面の笑み、しかも聖母のような美しい優しい笑顔であった。
クラスの皆は「おおっ!」っと歓声を上げた。
桜は以前との違いぶりに驚愕し、目の瞳孔が開いて驚いていた。
「はい、え~っと質問とかは休み時間にしろ~。席は一番窓際奥、オレンジ髪の隣だ。おい桜、教科書見せてやれ。」
そうして、エヴァは指定された席へと歩き出した。
桜の席の前まで行くと、他の皆には顔が見えないポジションをとり、桜に顔を近づけ桜にしか聞こえないような小声で話し出した。
「このクソ貧乳…テメェいつかゴミ屑にしてやんからな。」
ドスの効いた声、そして他には見せられないような顔をしていた。
そして、再び笑顔に戻り、机をくっつけた。
「桜さん♪教科書見せてくださいね♪」
桜はシクシクと泣いていた。
(なんで、コイツが…ウチの学校生活が…。つーかコイツに頼むの??)
昼休み。
学食にいく者もいれば、弁当を持ってきている者もいる。
桜たち三人は、通常弁当を持ってきて屋上か外で食べている。
だが、今日はエヴァと話をしなくてないけないので、南たちに今日は無理と言い、エヴァを探した。
エヴァは教室を出て行こうとしていた。
そこで、廊下に出たエヴァに声をかけた。
無理矢理に笑顔を作り、かなり引きつった表情で肩を叩いた。
「エヴァさん、一緒にごぉはんを食べないぃ?」
対するエヴァも周りに人がいたので、笑顔で答える。
「ええ、構いませんよぉ、桜さん♪」
そこから、50m先。
「はっ!」
そこには薬師寺神社巫女、“薬師寺良子”がいた。
「何?このドス黒いオーラは?近くにいたらオーラが視認できるくらいの邪悪なパワー。」
桜とエヴァは誰もいない屋上へと行った。
念のため、鍵を外から閉めた(桜が以前改造した。)
「で、なんだ?やりてーのか?それともどうしてここに来たか聞きてーのか?」
作り笑顔をやめ、ポケットからシュガースティックを取り出し口にくわえた。
それに対し、桜は自販で買ったお茶を飲んだ。
「そうね、やり合いたくはないから、どうして雲の上に来たの?」
桜としても、最初から頼みごとをするのは避けたかった。
まずはジャブから攻めていこうという戦法である。
ということで世間話をということだ。
「いえねー。」
会話が終わった。
ここで、深入りするとエヴァの機嫌を損ねると思った。
おそらく損ねるといきなり戦闘になると思った。
そう考えていたら、もう戦略とか考えるのが面倒になってきた。
「おい、うちのジジイから伝言があるんだ。」
何を話そうか考えていたら、エヴァの方から話をかけてきた。
内心話すことができて助かった気分である。
「お前の木刀、“村雨”つったか。うちのジジイがオメーにあげた木刀は。」
「ああ、そうよ。」
「説明している時間がないまま、あげたけど、実はあれ“色刀”の上級業らしいぜ。」
飲んでいたお茶をブブッと噴出した。
「ちょ!上級??」
「ああ、だから今後刀を狙うやつらが出てくるだろうから気をつけろってよ。…でよ」
何か続きがあるようだ。
すごく言いにくそうにしている。
「説明なしに渡して、悪かったとかでよ…、その、アタシがジジイの代わりに責任とるっつーんだよ。クソが!」
「それが責任をとる態度かは置いておいて、責任ってウチは別にそんな」
「アタシが何かしねーとジジイが何かでかい恩返ししかねないから言ってんだよ。わかるか?」
向こうも困っているらしい。
なら、
「わかったよ。で何をやろうというの?」
「だから、一回だけ何か手を貸してやるってことだ。」
桜はそれならちょうど都合がいいと思った。
そして、大会の説明をし、仕方がないという感じで了承していた。
これであと一人となった。