35 人の欲、人の業
屋敷内
大人たちは、会議室を離れ、食堂にて会話をしていた。
「噂では、薔薇都お兄様に似て、葉君は女遊びがひどいそうじゃないですか。」
「はっはっは。血は争えんな!」
そんな薔薇都の妻である君枝は何も言わず見ず、ただコーヒーを飲んでいた。
「あら?君枝さん?何を冷静ぶっているのかしら?」
光子が君枝を挑発した。明らかな悪意ある発言であった。
「何を言ってるのかわかりかねます。」
「あくまで、仮面をかぶるのね。」
「・・・・あなたこそ、偽っていることがあるのではなくて?」
君枝は鷹のような鋭い眼光で光子を睨み付けた。
周りは、“また始まった”と思い、黙ってみていた。
東海林家では、この君枝vs光子の戦いは恒例行事であるらしい。
「な・・・何を・・・」
「心ちゃん・・・かわいそうね。」
「・・・・」
光子は黙ってきく。
「いっつも構ってもらえないって言ってるわよ。」
「う・・・嘘よ・・・。」
「ある日・・・、一人でお留守番していると、あなたは・・・」
「いい加減なこと言わないで!!!」
光子は机を殴り、声を荒げた。
しかし、誰一人として驚くことはなかった。
いつもの展開である。
どちらかが暴露話をし、片方が怒る。
親族がそろうとかならずといっていいほど起こる修羅場である。
「君枝さんこそ!」
「何かしら?」
「この“仮面夫婦がぁ!!!”」
「っ!!!この!!!」
「お互いがお互いを見てない。それどころか息子さえ!笑っちゃうわ!お互いに愛人・・・」
そこで二人はつかみあいの喧嘩になった。
それを仲裁すべくお互いの旦那が入る。
この暴露を聞いても二人の旦那は冷静であった。おおよそ、知っていたのである。
「お二人とも、いい加減にしてください。」
怒りを出していない唯一の女性である瞳が言った。
だが、それは余計な一言であった。
二人の矛先が瞳へ向けて刃をむき出した。
「「黙れ!」」
瞳は今度は驚いた。
君枝と光子が交代交代で言う。
「お前は何だ!!」
「恋美ちゃんには言ったのかしら?」
「お前の腹は・・・」
「もう産めないことを」
「愛歌ちゃんに言ったのかしら?」
「三人どうしても欲しいから・・・」
「やめないかぁ!!!!!!」
雷が落ちた。
怒鳴ったのは薔薇都だった。
「お互いのことを言い合うならまだよし!勇気も納得をしている!だが、今のはなんだ!自分より身分が上の相手に対して大変無礼である!!東海林家長男が命ずる!二人ともしばらく頭を冷やしなさい!!」
「ですが、薔薇都様・・・」
「ここから出て行きなさい!!!」
薔薇都は君枝の言い訳を一切聞こうとはしなかった。
妻である自分に“身分が下”といったようなものだ。
そのことが悲しくなり、君枝は泣きながら部屋を飛び出した。
涙を誰にも見せないよう隠しながら。
光子も泣きはしないが、悪態ついて部屋を出て行った。
「瞳・・・すまなかったな。」
「いいえ、いいのです。愛歌は“養子”であることは事実ですし、私がもう産めないのも事実です。でも私はどうしても三人子供が欲しかった。いつかは言わなきゃいけないと思っているけど・・・」
その場が静まる。
「さて、二人かけたが、今日の本題に入ろう・・・」
「せやな。」
「ええ。」
場の空気が冷めた空気から、ピリッと張り詰めた空気に変わる。
直系親族三人が鋭い目で同時に口を開けた。
「「「遺産相続について」」」
そしてビーチでは桜たちがビーチボールで遊んでいた。
「桜?」
「・・・あ!ごめん!ごめん!あいたっ!」
桜は少しぼ~っとしていたため、頭にポンっとボールがあたった。
ボールが当たったでこを摩りながら桜はあたりを見渡した。
「桜~?さっきからどうしたの?」
「いや・・・ごめん。」
桜は少し、どこか上の空であった。
無理もない。明日は桜の母、“東海林花”の命日である。
「桜・・・」
恋美が桜を心配そうに見つめる。
そんな桜に近づいてきたのは恋継であった。
「桜。」
「兄貴。」
「・・・・」
「・・・・」
「こまねちっ!!!!!」
核が流れる。
星の流星が流れる。
どれだけ時がたったのだろう。
「こんのぶあかあぁっぁぁ!!!」
「ひ~~~でぶ~~~~~~~」
恋継は遥か海の彼方までふっ飛ばされた。
しかし、桜も一応はわかっていた。
恋継が桜が元気のないことを察し、元気付けようとしていたこと
だが、多少むかついたので、とりあえず殴っておいた。わりと本気で。
でもおかげで、スッキリとしていた。
東海林家本家
ここからは、権力者上位の薔薇都、瞳、勇気が話し出す。
「お父様の遺産を継ぐのは誰か・・・だが」
「私は・・・“あの人”につがせるのは・・」
「わいも同意見や。」
「だが、お父様は一人にしか継がせないと言っておられる。」
「私たちは、もう“あの事件”があって、一度相続権を放棄せざるを得ない状況にあった。」
「せやから、今の相続人第一候補者は、あいつの繰越で・・・」
全員が息を飲む
「「「“桜”であると」」」
東海林家の遺産相続は祖父、東海林世界の命令により、一人にしか継がせないようだ。
そして、第一候補者として、直系家族である
薔薇都
瞳
勇気
花
の4人が上げられた。
このうち、功績を上げ、認められたならば、その者に遺産を渡すという。
しかし、
「あのとき、花は死んだ。」
「そうね、私たちのやましい欲の犠牲者でもあるわ。」
「あのとき、わいら全員相続を子供にたくそうと思ったんやがな。」
「花が、いなくなり、天津が行方不明。」
「そうね・・、天津さんはきっと私たちに愛想がつきたのでしょう。」
「わいもそう思う。だから、わいらとは縁を切るように、蒸発したという感じやったな。」
薔薇都も勇気も葉巻に火をつけた。
そして瞳はコーヒーを一口。
そして、一人、瞳の旦那である、東海林ヴァレンタインは、話し合いに入ることが許されず、一人でタバコをすっていた。
「遺産相続の条件・・・最後まで読んだか?」
「ええ、もちろんよ。お兄様。」
薔薇都は懐から、紙を一枚取り出した。
そこには文字がずらりと書かれていた。
それは遺産相続の条件・順番が書かれた紙であり、下に、東海林世界の押印が押されてあった。
「最後から二番目の欄に、相続権を放棄した場合、その一家に相続権が得られない。」
「そうや、わいら全員それを読み落としていたんや。しっかし、なぜやろうな?三人も見落とすなんて普通やないで?」
「たしかに。ですが、いまさらな話ですわ。」
「そのとおり、そして、最後の欄だが。」
全員不適な笑みをこぼしている。
「遺産相続候補が全員いなくなった場合は、放棄したものの相続権が復活すると。」
「あら、やはり、お兄様?桜ちゃんを殺そうとしているのかしら?」
「何をいう。」
「でも、お兄様は、桜ちゃんが死んだら、相続人候補第一位でしょ?動機は充分ですわ。」
「たしかにそうだが、桜は遺産を四等分するといっている。犯罪を犯してまで、自分の持分を増やそうと思わないさ。」
「兄さん。嘘はいけませんな?」
「何!?」
急に勇気に変なことを言われたので、少しカチンときて、薔薇都は勇気をにらみつけた。
「兄さんが会社でどんな汚いことをしてるかしってますで。」
「貴様・・・!」
「桜ちゃんに何かあったら、お兄様が関係していると思った方がよさそうね。」
瞳は邪悪な笑みを浮かべる。
「ふん。だがな。私が警察に捕まるようなことがあれば、相続権を失い、瞳。お前に相続権が移る。私が手にかけたかのように、細工や汚いマネは、瞳の得意分野であろう。」
「言ってくれますね。汚いマネは勇気さんもですよ。」
「なんやてっ!!」
喧嘩の矛先がいきなり勇気に向けられ、勇気は冷や汗をかいた。
「大阪で、お行儀が悪い方と仲がいいってお話ですよ。」
「いろんなところに耳を持っているんやな。」
三人がお互いの傷を探しあっていると、ドアから、御春が入ってきた。
「お前たち、何かを勘違いしているようじゃな。」
「「「お母様?」」」
御春は電話を取り出し、スピーカーボタンを押した。
『わが息子たちよ。』
その声を聞き、三人の血の気が一気に引いた。
「「「お、お父様」」」
その声の人物こそ、東海林家当主、東海林世界である。
『遺産のことで、もめているようだな。』
「桜に遺産を全てというのは私たちから見てどうかと・・・」
『たしかに、貴様らの言うこともわからんでもない。だが!!』
全員が息を飲む。
『桜を亡き者にし、遺産を手に入れようなど、浅ましい考え。恥に値する!!!!ゆえに、条件を変える。』
『現在桜に相続の権利があることは変えん。だが、その先のことを変える。』
全員、電話に凝視をし、聞き逃すまいとする。
そして、電話口から、声が出る。
『それは・・・』