30 One Love
庭では新郎新婦入場の音楽が鳴る。
庭の中央噴水前に台が用意してあり、そこで誓いを立てる仕組みになっている
すでに台の上には恋継が立っており、新婦の入場となった。
三葉を探しに言った、桜と識はまだ庭に戻ってきてはいなかった。
「あの二人帰ってこないな。」
「桜姉さま・・・いない」
二人がいないまま、どんどん段取りは進んでしまっている。
二人が心配していると、携帯を片手に走ってくる桜と、引っ張られている識がいた。
「ごめんごめん。茜さんから、三葉さんが見つかったって報せがきたんだけど、識のバカが携帯持ってないから探してたよ。」
「俺は携帯に縛られたくないんだよ。」
「それはそうと、もう始まってるよ!三葉さん出てくるよ。」
屋敷入り口から、ウェディングに身を包んだ、三葉が出てきた。胸には白い薔薇がつけられていた。
三葉自体かなり綺麗な容姿をしているので、回りからはオオ!と歓声が上がった。
「ふん!まずまずね。一応東海林家の女としてはギリギリ合格ラインね」
「はははは。厳しいな。」
薔薇都夫婦が言った。
桜たちの後ろから一人の女性が近づいてきた。
「桜ちゃん。お久しぶり。」
「瞳さん!お久しぶりです。」
東海林瞳。恋美と愛歌の母である。
「あら、そちらの紳士は・・・桜ちゃんの彼氏?」
「「ち、違いますよ。」」
「俺は、中嶋識といいます。今日は・・・」
「お母様。この方が私たちを助けてくれた。」
愛歌が先に言葉を出した。
「あらあら・・・それはありがとう。また誘拐されそうになったの?」
「また?ですか・・・」
「そうなのよ。あら三葉さんが通るわ。」
桜たちの前をウェディング姿の三葉が通った。
そして、恋継のいる台の上へと上がる階段を昇る。
その時。
ガキイイイィィィン!!!
ボォン!!!
なにやら謎の大きな音がした。
周囲の人は何事かとざわめいて、式が一時中断した。
だが、桜家の人たちは何の音か理解していた。
「これは!トラップの音!」
10分前・・・
三葉は控え室をでて、まずコントロールルームへと向かった。
そして、少し、そこの機械をいじり、ポケットからUSBを取り出した。
「これを差し込めば・・・、」
パソコンモニターには現在のセキュリティレベルが表示された。
現在はレベルDとなっていた。
「これを最低レベルまでさげ・・・ん?」
レベル設定欄にABCDEの他、“お嬢様用”というものがあった。
「これなら安全そうね。タイマーは10分後に設定。10分後にねずみたちを侵入させれば大丈夫ね。」
だが、この“お嬢様用”とは桜捕獲用罠であった。
そして現在。屋敷廊下。
「兄貴~~、助けてくだせ~~~」
「子分よ。お前の死は無駄にしねぇ!」
「兄貴!死んでませんよ!」
ねずみは子分を見捨てて、屋敷の奥へと進んだ。
「しかし、この屋敷はどうなってるんだ?罠だらけだ。あの女しくじったな。ちちちち!」
そして庭では・・・
庭で待機していた茜が叫びだした。
「皆さん!!その場から絶対に動かないでください!!恐らくハッキングされ桜捕獲用のレベルBの罠が作動しています!!下手したら死にます!!」
余計騒がしくなった。だが、東海林家親族は違った。
「っはっはっは。まったく桜は猿よりすばしっこいからな!」
「それに下品ですから」
「桜ちゃん変わらないわね。」
親族は爆笑していた。
「とにかく・・・。桜いますか?」
「はい、ここにいるよ!」
桜は呼ばれたので手を上げた。
「レベルBなら突破できると思いますから、」
「やれやれ・・・。識、これ持ってて。」
桜は識に食べかけのチキンを渡す。
「じゃ、行ってくる!」
桜は飛び跳ね屋敷へと向かう。
途中、桜が踏んだ所檻が飛び出す。
それより早く桜はその場を離れる。
地面に立ち止まると恐らくトラップに捕まる。
桜は門の横にある柱に捕まり、窓を割って、屋敷内へと入った。
三葉は焦っていた。
(このままでは・・・アレを入手できない。何とかしなきゃ。この式をぶち壊してでも!)
コントロールルームは一階にある。
地面を踏まないよう壁にしがみついて進んでいった。
途中警備ロボが現れたが踏み台にし、先へと進む。
そしてコントロールルームへと到着した。
ドアを開けたとき、そこには誰かがいた。
桜が見たところ、ハゲていて鼠のような髭を生やした人物であった。
「ちちっ!誰だ!」
「いや、アンタが誰だよドロボウさんか?」
「俺は“ねずみ男”さ。ちちちち」
「トラップにかからないで、ここまでここに来れたね。」
「ちちち、俺の妖術の一つ、“忍び”がある。これは足跡を残さず、浮いて歩くことができる技さ。」
「なるほど、ウチの警備システムも強化しないとね。で、今は何を。」
「ちちちち、俺の力には限界があるからな。警備システムをレベルダウンしなきゃいけねえ。このスイッチを押せばレベルを変更できる。あ・・・」
ねずみは後ろから何かを落とした。
ポトッと太い巻紙、巻物であった。
その巻物を桜は見たことがなかった。
「いけね!これは“東海林家遺産相続”あ!!」
ねずみはうっかり口を滑らせた。
桜は東海林家遺産相続と聞いて驚いた顔をした。
聞いたことすらない。以前本家に行ったときもそんなことは聞いてない。
だが、なぜこのこそ泥が知っているのか。
今はそんなことを考えるより、東海林家関わるものである以上取り替えそうと思った。
ねずみは急いで巻物を鞄へとしまい、コンピューターに触る。
「とにかく、返してもらうよ。」
「そうは・・・いかねぇ!!」
ねずみはEnterキーを押し、それと同時に懐に隠していた、閃光弾を取り出し、発光させた。
さすがの桜閃光に対しては怯んだ。
その隙にねずみは桜を抜き倒し、廊下へと出、まっすぐに走り出した。
桜は怯みから直り、ねずみを追いかけ、廊下へと出た。
「くっ!ウチとしたことが・・・あれか!」
廊下を見渡したところ、ドアが閉じる音がし、正面ドアから出たのがわかった。
追いかけながら考えていた。
なぜおそらく入ってきた裏門からではなく、正面なのか。
桜はとにかく、正面玄関へと進んだ。
角を曲がると、そこにいたのは、突き飛ばされたのか、三葉が倒れていた。
「三葉さん!大丈夫ですか!?」
「私は大丈夫です。変な人が私を突き飛ばして・・・」
「でも、なんでこんなところに?」
「その・・・女の子の桜さんが飛び出して・・・心配で・・・」
「三葉さん・・・」
桜は少し、感動していた。
まだ、会って間もないの心配してくれて、まだ、トラップがあるかもしれないのにここまでわが身を省みず来るなんて。
桜は同時に安心した。
こんないい人が、恋継の奥さんになる。なんだかんだで、結婚を失敗している恋継のことが心配であったが、三葉さんなら大丈夫と思った。
「それと、巻物を抱えたねずみなら向こうにいったわ。」
「ありがと!三葉さんも気をつけて!」
ねずみが進んだ先は、パーティー会場であった。
桜は三葉に指された方向を見て焦った。
(まずい。変装して紛れ込んでいる可能性が高い。)
正面ドアを出たら、そこはもうパーティー会場なので、ねずみが逃げるとしたら、会場しかない。
すると会場から、恋継がやってきた。
「桜!三葉さん見なかったか!?桜が心配だからって、まだトラップがかかってるかもしれないのに、動き出して・・・」
「三葉さんなら、そこのドアに・・・」
桜は自分の大きな失態に気づいた。
三葉はこういっていた。
『それと、巻物を抱えたねずみなら向こうにいったわ。』
なぜ“ねずみ”という名前を知っていたのか。
それにねずみは鞄に巻物を入れていたのになぜ“巻物”を知っていたのか。
桜は愕然とした。そして悲しくなった。
三葉はこそ泥とグルである。
今は、それを恋継にいうのはやめよう。
悲しむのはやめよう。
今は・・・追いかけよう。そう思った。
まずは恋継をなんとかしないと。
「み、三葉さん二階の方にいったよ。」
「・・・そうか、わかった。」
恋継は二階へと歩いていった。
桜は、ドア付近を見渡し、何かないか探す。
すると、ドアを出ずに右に曲がる通路に、三葉のウェディングの装飾品が落ちていた。白い薔薇である。
先ほど、三葉とあったときは、薔薇をつけていた。
ならば、逃走するときに落としてたものであろうと思い、追いかける。
「ねずみ!首尾はどう?」
「姉御!ブツはこちらに!後は脱出するために、屋上に“黒烏”を待機させています。」
「よし、これを売れば、私たちは、“鏡恭介”の奴に・・・」
「姉御!急ぎましょうや!ちちちち!」
二人は、通路で落ち合ってから、屋上へと向かった。
同時刻、桜
(このままじゃあ、見つからない・・・よし!)
桜は地面に耳をつけ、集中するため目を閉じた。
(・・・・・・)
様々な音が聞こえる。そのうち、二人で歩いている音を聞く。
(・・これは兄貴の音・・・・・これだ!)
桜は二人で歩いている音を見つけ、その足が階段を上ったことを確認した。
屋上にいった!そう思い、桜は屋上へと走り出した。
次回決着編