29 love so sweet
「で、何で識がいるの?」
ここは桜家の控え室。
部屋の中には、桜、識、恋美、愛歌がいた。
私服であった識も強制的に着替えさせられ、今はスーツ姿になっていた。
桜も恋美、愛歌も披露宴なので、ドレス姿になっていた。
「仕方ないだろ、お前の叔父さんか?薔薇都さんつーのにつれてこられたんだよ。」
「で、その後ろに引っ付いている愛歌とはどういう関係?」
桜はあからさまにイラつきながら質問をしていた。
識の後ろには愛歌が識の服の裾を引っ張りくっついていた。
「知らねえよ。」
「何顔赤くしてんのよ。」
「いや知らないって!」
「ちょっと貧乏人!愛歌から離れなさいよ!」
「俺に言うな!」
三人で話しをしているとドアが開き、雪音が入ってきた。
「あの・・・準備ができましたから、庭へと・・・」
「あ、雪音さん。ありがと。」
「その人誰?」
たびたび桜の家へと行く恋美は雪音は知らない顔だったので聞いてみた。
「この人は雪音さん。先日ウチのメイドさんになった。」
「そうなんだ。私は恋美、であっちが愛歌。二人とも桜の従兄弟よ。」
「よ、よろしくお願いします。」
そして四人は庭へと行く。
その途中、
「それにしても桜のドレス姿って・・・・にあわ」
「似合わないって言ったら殺すわよ♪」
そのころ控え室。恋継の部屋。
「・・・三葉さんはいるか!」
「ご安心を。三葉様は先ほどこちらに着かれ、今は控え室におります。」
恋継はウロウロとしていた。
過去に二回も結婚を失敗しているので、さすがに不安そうにしている。
「今は何をしている!?まさか脱走を!?」
「ご安心を。茜様が見張っております。何かありましたら、こちらに連絡が入ってきます。」
「そ、そうか。」
三葉控え室。
「三葉さん。ご準備の方はどうでしょうか?」
「はい、もう大丈夫です。」
三葉は笑顔で答える。
純白のドレスに身を包んだ三葉は、うれしそうに何度も鏡を見ていた。
「では、時間になりましたら、もう一度来ますから。では。」
茜は部屋から出て行った。
「大きい家ね。うらやましい限りだわ。恋継さんの家より大きいかしら?」
庭
「桜じゃないか!久しいではないか!」
「ば、薔薇都おじさん・・・」
桜は気まずい顔をしながら薔薇都にはぐされていた。
薔薇都の横から女性が一人でてきた。
「あら、桜さん。お久しぶりです。今日は前のように公然の前でへたな真似だけはしないでくださいね。我が家の品位に関わりますから。」
「はっはっは。まさか、以前のあの品の欠片もないような真似はしないさ。なぁ桜。」
桜はプレシャーをかけられた。
薔薇都の妻の“君枝”である。
(この夫婦は!相変わらず!)
薔薇都は東海林家の長男であり、この中で一番権力が強い。
そして長女にあたるのが、恋継・恋美・愛歌の母にあたる瞳である。
「あらお兄様。お久しぶりにございます。」
「瞳か。」
「あら、瞳さん。ご機嫌麗しゅうございます。ヴァレンタインの旦那様は今日は?」
“ヴァレンタイン”とは瞳の旦那である。
「ヴァレンタインは明後日のため、今日は欠席いたします。」
「あ~ら。自分の息子の結婚式にも来ないなんて・・・・」
その後、瞳と君枝は延々とネチネチといい合いをしていた。
そのころ識は焦っていた。
決して、同世代の愛歌にずっとなつかれているからではない。
周りをみるといかにも富豪や貴族といった人間ばかりであった。
あらためて桜は大富豪のお嬢様なんだなと思った。
そして自分が場違いな場所にいると思っていた。
「なあ、桜。」
「何?」
「すごく居ずらい」
「我慢してよ」
桜は急に内緒話をし始めた。
「薔薇都の叔父さん。逆らったらすっごい逆恨みすんだよ。アンタが消えたら、不機嫌になってアンタに何をするかわかったものじゃないよ。家焼かれるよ」
「マジかよ!!それだけは困る!唯一の財産と言ってもいいものだから!」
「桜?」
「ほぇ!?」
急に恋美に声をかけられ、まぬけな声を出す桜。
「兄貴大丈夫かな?だって、いつも間際でフラれるから・・・。」
いつも恋実は恋継のことをバカにしているが、やはり、心配らしい。
桜が励まそうとしたが、それより先に愛歌が口を開けた。
「たぶん・・・、兄様は大丈夫・・・・・・・・・・・・じゃない」
「「「じゃないのかよっ!!!」」」
三人同時につっこんだ。
時間がたち、あと少しで披露宴が始まる時間になった。
恋継の部屋。
「では、行ってくる。不破。」
「なんでしょう。」
「いままで、二回。済まなかったな。」
「いえ、若の苦しみに比べれば」
「今度は、大丈夫。行ってくる。」
恋継はドアを開け、式場である庭へと向かった。
三葉の部屋。
「三葉さん。お時間ですよ。・・・・あら?」
茜は時間になったので、三葉を呼びに言ったが、部屋には誰もいなかった。
「トイレにいったのかしら?」
茜は各ドアに監視カメラを設置しており、三葉が出たら、アラームが鳴るように設定してあるので、外にいるとは考えなかった。
「少し、探してきましょう。念のため、桜には報告をしておきましょう。」
『いない!?』
「はい、部屋を訪ねたら、いなくなってまして。黒井さんにもお願いして捜索しますが。」
『このことは兄貴には?』
「まだ言ってません。」
『そうだね。ショック受けるかもしれないから、まだ言わないでおこう。茜さんは屋敷内をお願い。私と識で外を探すから。』
「わかりました。」
東海林家裏庭。
ここ裏庭には草木が生えており、会場などではない。
そこに、黒服に身を包んだ人が二人いた。
「ねずみの兄貴!大丈夫なんですか?こんな屋敷入って・・・」
「ちちちちち、問題ねえ。協力者曰く、今日は親族がいるから、家内の警備システムはレベルを落としているらしい。ちちちち。おっと電話だ。」
一人は背が小さく、一人はながいネズミのような髭を生やしていた。
東海林家。トイレ。
三葉は携帯片手に電話をしていた。
「そういうことだから、睨んだとおり、この屋敷の物を盗るわ。私は披露宴をしてるから、その隙にやってちょうだい。例の“東海林家遺産相続順位表”を盗るのよ。あれを盗れば、私たちは・・・・」
トントン
「三葉さん?いらっしゃいますか。」
茜の声が聞こえ、すぐに電話を切った。
「はい、ごめんなさい。今行きます。」
そして、披露宴が始まる。