26 三章『東海林家の一族・前』
今回から新章です。
学園とはしばらく離れますが、桜の家関係の話を楽しんでください。
“前”というのは、もちろん“後”もやりますが、それはしばらく後です。
ではではん
桜の三月旅行が終わり、学生はそれぞれ進級するまでの間、休養をとることになっている。
東海林家
ジリリリリといかにも古そうな電話の音が鳴り、東海林家のメイドである茜が受話器を取った。
「東海林家使用人茜でございます。」
二階に桜の部屋があるが、今はそこに桜の姿はない。
三日後に行われる“年度末報告会”という親族行事に提出する資料を作成するため、現在は図書部屋にいる。
この図書部屋は大きさは普通の部屋であるが、壁一面に本が埋まっており、部屋の真ん中に机がある。
この部屋を使うのは、主に茜と黒井そして、まだ紹介をしていない田中だけだ。
「桜!!!大変ですよ!!!」
図書部屋に茜がバタバタとあわてた様子で入ってきた。
「どうしたの?」
「理事長からお電話が入ってますよ。何やらかしたんですか?」
桜は“ウルトラキャラメル”の件を思い出す。そのことで電話が来たのだろうと思い、電話に出た。
茜から子機を受け取り、茜は部屋から出て行った。
「はい、桜です。」
『コングラッチレイショーン!!!よくキャラメルを買ってきた。』
「理事長が退学とか脅すからです」
『私の視線に気づかず、私の前を素通りしたお前が悪い。』
「で、いつ渡せばいいんですか?」
桜はとっとと話を終わらせたかったので、本題に入ることにした。
『今。といいたいところだが、私は今パリにいる。お前に来てもらいたいが、私はあいにく暇ではない。だから、入学式に私の第二理事長室に来い。』
「あの・・・、第二理事長室ってありましたっけ?」
桜の言うとおり、、第二理事長室などは聞いたことはない。
『いわば私のプレイルーム。お遊び部屋だ』
桜の脳内に電撃が走った。
(コイツ、ウチで遊ぶつもりだ!!!!!!!!)
『では、see you again』
理事長からの電話はきれた。
桜の入学式はとても憂鬱なものとなった。
それは今は置いておくとして、今は資料作成しなくてはと思い、再び机に向かった。
桜の書いている書類は、まず収入出費一覧である。
領収書を見ながら出費を書いている。
その後、活動報告なども待っている。
「田中さん。いらっしゃいますか?」
茜は執事長室の扉をあけた。
部屋には一人の老人が椅子に座っていた。
白髪、そして顔には片方の眼鏡(執事がつけてるアレ)。そして穏やかな目をした方である。
今は鼻に風船を膨らませている。
「田中さん!起きてください!」
茜は両手を合わせパン!と音を鳴らす。
「っ!茜?いたのですか。」
「明後日の恋継様の披露宴のことで、屋敷のセキュリティをレベルEにまで落とさなければならないのですが。」
「かまいませんよ。というか任せます。ぐぅ」
田中は再び眠った。
「ということなんですが、人員の配置について、このようにしようかと」
「そうですね。この日なら、お嬢も脱走しないと思いますし、問題ないのでは」
「私の庭に入ってこなければ問題ありませんよ」
今度は居間で茜・黒井・白井の三人で話し合っていた。
「あ!それと、今日からここで働くことになった方の紹介をしますね。雪音さん、入ってきてください。」
扉から白い着物姿の雪音がはいってきた。
「あの・・・その・・・雪音です。よろしくおねがいします。」
雪音は人見知りするタイプのようで、オドオドとしていた。
一通り自己紹介をした後、明後日のことについて再び話合った。
「では、私の美を皆様にごらんいただくよう、今日より庭の手入れを徹底しますので、近づくのはご遠慮いただきます。」
「不知火と大鷲はどうします?」
「あの二匹はおとなしいから、問題ありませんよ。いつも通り放し飼いでいいですよ。」
雪音がここで疑問に思ったことを聞いてみる。
「あの・・・大鷲と不知火とは何ですか?」
「雪音さんにはまだ説明してませんでしたね。不知火は我が家で飼っている“狐”です。大鷲は“鷹”です。桜が拾ってきたんですよ。不知火はたしかカチカチ山でしたっけ?」
「ええ、大鷲はシンデレラ城です。」
なんだか、よくわからない地名であったが、そこはスルーする。
要するに桜が死に掛けの二匹を看病したらついてきたらしい。
「どういうわけか、二匹とも頭がいいので、私たちは困らないんですよ。後で二匹を呼びますね。」
というわけで、話が終わり、茜と雪音は外へと出た。
「不知火~大鷲~きなさ~い」
すると、空から大きな鷹が飛んできた。
普通の鷹より大きく、人を運べる大きさの鷹であった。
もう一匹の不知火も走ってきた。
こちらは普通の狐であった。子犬くらいの大きさである。
「じゃあ、二匹とちょっと戯れてください。私エサを持ってきますから。」
茜は屋敷へともどり、雪音は一人になった。
「あの~、不知火さん?大鷲さん?」
「お前雪女種だな。」
狐は口を開けて話し出した。
「やっぱり、妖怪ですか。わたしも雪女ですけど。」
「俺はまぁちょっとした妖怪だ。だが、大鷲は違う。普通の鷹だ。」
「そうなんですか。でもなぜか私たちの会話に反応してますよ。」
大鷲はずっとこちらを見てる。
「俺の近くにいたから、妖力が移っちまった。話ことくらいはできる。」
「そういうことです。僕は大鷲です。よろしく雪音さん。」
「あらあら、本当に桜さんは変わった環境ですんでいるんですね。話せることは皆さん知ってるんですあ?」
「いや、知らない。俺はお前が妖怪だから話した。みんなに言うなよ。」
「雪音さん。エサを持ってきましたよ。あら?」
雪音と動物二匹はすでに仲良くなっていたので、茜は意外そうな顔をしていた。
「では、仲良くなったことですし、ご飯係りお任せしますね。」
一方の桜は、
「鬼のいぬまにってやつかな?」
桜は図書部屋の窓から脱出を試みた。
「たぶん赤外線防犯装置がしかけてあるから・・・」
桜は本棚の上にある本をとった。
その本は実は本ではなく、本の形をした箱であった。
そこから、赤外線ゴーグルを取り出し、装着し、窓の赤外線をみた。
次にその赤外線を避けるように窓から出る。
白井は・・・・
「フンフフン♪フフンフフ♪」
白井は箒の形をした、仕込み刀でズバンズバン!と庭の手入れをする。
手入れをしていると、遥か上空で鳥が飛んでいた。
ヒュ!っと糞を庭に向けて落とす。
庭の草木に落ちる間際、
「させん!」
一気に跳躍して、着く前に刀で弾く。
「我が美の領域を汚そうとするとは、万死に値する!!あのクソ鳥がぁ!!」
白井は糞を落とした鳥を追いかけていった。
戻って、桜。
窓の赤外線をきわどい体勢で避けていた。すると遠くから何か白いものあ飛んできた。
先ほど、白井が飛ばした糞である。
「ちょ!え~!!!」
さすがにこのままでは、糞にクリーンヒーットしてしまうので、避けようとしたが、今の体勢で避けるのはほぼ不可能。
やむおえず、桜は赤外線に触れ避けた。
触れた時、警報などは一切ならなかった。だが、下の草木からまずネットが飛んできた。
「いやっ!!」
桜は飛んで下の草に着地する。
すると、両サイドから麻酔弾が飛んできた。
それをまた飛んでかわす。
森の中へと進む。すると草の中から銃が出てきた。
「セントリーガンだと!」
セントリーガンとは動く標的を狙撃する自動銃である。
桜はそれを木の上に上るなど、木を立てにするなどをしてかわす。
そしてセントリーガンのエリアを脱出する。
その後、電磁トラップ・ハンマートラップ・催涙弾エリアを突破し、屋敷を囲っている壁が見えてきた。
そのまま前進して、家を脱出しようとする。
カチっと音が鳴る。
「とう!」
鳴った瞬間とび、近くの木へと捕まった。
その場所に大きな穴ができていた。
だが、桜の掴んだ木。それはトラップであった。
「何これ!?離れない!あ!しかも上から煙が!」
「対桜用トラップですよ。」
茜が近づいてきた。
「桜なら、あの落とし穴トラップかわすのは当然ですからね。」
「・・・茜さん。これどうすれば・・・」
「一晩このままでも私は問題ありませんけど?でもここらへん、蜂が飛んできますよ」
「ごめんなさいごめんなさい!!!助けて!!!」
それやりとりを雪音は離れたところで観察していた。
桜は図書部屋で茜の監視つきで作業することになった。
「茜さん?」
「なんです?」
「兄貴の結婚式明後日だっけ?」
「ええそうですよ。」
「じゃあウチお祝いの言葉を言いに行く!」
茜は少し考えていた。
明後日の桜の服や、お祝いの言葉はもうすでに用意してある。
そのことはないが、報告会で資料ができてないと桜が半殺しに合う。
一応桜が書くことは用意してある。
まぁいいかと思った。
「仕方ありませんね。それじゃあ、恋継さんの家に行きましょう。」
「やった!」
次回予告
桜「ってことで、次回は“恋継という男”だよ」
茜「くれぐれも恋継様を殴ってはいけませんよ」
桜「な、何を・・・」
茜「この前だって胸のこと言われて、ぶっ飛ばしたじゃないですか。」
桜「う・・確かに」
茜「まぁ気をつけてくださいよ」