118話 喰らいあう獣達(前編)
桜から見て来栖の目は正気を保ってはいなかった。
「おい、お前どうしたんだ?そんなまるで・・・」
妖怪のようだ。
と桜は言おうとしたが、言葉が発する前に、来栖からの攻撃が始まりそれどころではなかった。
来栖の手からは黒い棒状の光が発せられており、それが急速に伸びて桜を襲った。
「うおっ!さすがにやばっ」
黒い光を巨大な竹刀のように扱い振るう来栖。
それを避ける桜。
その間も来栖の目は正気を保ってはおらず、それは来栖自身の身体にも変化を及ぼした。
光を出した右腕の反対、左腕はダラリとしており力が入っていない。
口はだらしなく開けられ、よだれが出ている。
腰は曲がり、二本の足でどうにか立っている。そんな様子で右腕を大降りに振っていた。
「ぁぁ、、、あぁ・・・」
言葉というよりは、喘ぎである。
当然対峙している桜もその様子には気が付いている。
(このままでは、来栖も持たない。かと言って話ができる様子でもない。)
桜は決心した。
「今、解放してやるからな・・・」
横に振られる黒い光を避ける。
木刀で受けようとしたが、桜の直感がそれをさせなかった。
それは正解であった。
横に振られてあたった遺跡が簡単に壊れている。その光自身に破壊力が備わっていた。
「力はすごいようだけど、ウチの速さなら・・・・、つかまらないよ!」
桜は構える。納刀するかのように木刀を腰に添える。
膝を曲げ腰を落とし、所謂「居合」の構え。
桜は待つ。
黒い光は破壊力はすさまじいが、操っている本人がそれを制御できていない。それに大降りになっている。ならば答えは隙をついて一撃を与える。
しかし攻撃に触れたらその瞬間負けるかもしれない。
横に振られた光を身体を捻り、上を転がるように避ける。光は勢いを余らせて隣の遺跡を破壊している。
もう一度桜のところにくるまで時間がある。
だからこその桜が持ち最速の型
「桜式、弐の型・瞬」
地面を蹴り駆ける。
桜の持てる最速の攻撃。
尋常ではない桜の脚力により接近をした後に放たれる抜刀の一撃。
それが「瞬」
これの成功率は正直50%であった。
しかし、桜は確信していた。必ず成功すると。
それは最近の実践経験を踏まえたことと、今の桜の集中力からそう考えた。
桜が近づく。
来栖の右腕から放たれた光はまだ桜の方向を向くには時間がかかる。
来栖の腹部に桜の木刀による居合の一撃が入る。
「ッッッッッ!!!」
一撃を受けて来栖が宙に舞う。
「よしっ!これであんなでたれめな力、もう使えないだろう」
しかし気が付いた。来栖の手から光は消えていない。
気が付いた瞬間、悪寒がした。野生の勘というべきか。
とにかく、木刀を縦に防御の姿勢をとった瞬間。
「なんっっ!!!!!」
横から強烈な衝撃が走った。木刀を構えていなかったら骨折していたかもしれない。
それが何かすぐにはわからなかったが。
衝撃により桜は飛ばされ瓦礫に突っ込んでしまった。
飛ばされながら微かに見えた。
黒い光が曲がり桜を襲った。
(なんだ、竹刀かと思ったけど、ちがったのか)
光は来栖の手から垂直に伸びていたが、途中角度を変え桜を回り込むように攻撃をしていた。
それから数秒が流れた。
先に起き上ったのは来栖であった。
「ぅおおおおおい!!くたばったのかあぁぁ!!実感がねえぞ!早くやらせろぉ!!」
来栖は先ほどとは違い、正気を保っていたが、身体は消耗しているようで両腕をダラリと下げている。
「当たり前だあぁ!!こっからだろうが!」
瓦礫が崩れ桜が姿を現した。
瓦礫できったのか、頭から流血をしているが、目は生き生きと輝いている。
「こんな楽しい勝負、まだまだ続けたいからな。ウチはいけるよ」
「上等じゃねえか!」
来栖から再度黒い光が襲いかかる。
桜が木刀に力を籠めると気が付いた。
(なんだから、力がみなぎる。これなら)
黒い光を木刀で受ける。先ほどまでなら衝撃で飛ばされていたが、今度はその場でとどまった。
「これかっ!」
桜の中でパズルのピースが揃ったような感覚を感じた。
「これが妖力ってやつか・・・」
数か月前、自身の学校で妖怪と対峙した際に使用した力。無意識に出していた為、よくわからなかったが、今それの使い方がわかったようだ。
「これで防げる。となればあとは・・・」
桜が向かう。
そして来栖が振るう。