117 波動
ずいぶん休載していました。
このたび書き溜めていた三話分を一気に掲載しました。
『波動』
昔からこの世には妖怪という生物がいる。
彼らは基本は人に対して害を与えはしないが、そうではない者もいる。
妖怪と対峙する場合、妖怪は『妖力』により様々な能力を発現する。
例えば、不可視になる。カマイタチを起こす。火を起こす。
しかしながら、『妖力』を持つことができるのは妖怪だけである。
そんな彼らに対抗する力こそ、『波動』である。
『波動』とは言わば、妖怪で言うところの『妖力』を、人間で言うと『波動』になるモノだ。
「ってことだ!わかったな!」
「あまり余裕がないんで半分しかわからなかった!」
説明を聞きながら、識は波動の気を出し続けている。
「天道さん!これどうやって落ち着かせるの!?」
「イメージ。」
「は!?」
「イメージしろ。波動を自分の物にするイメージ。
識は目を閉じる。
(この身体から出てる光…オーラ?…気?は自分の物。出したり閉まったりは自分の意志…。集中しろ、波動を俺が操るんだ。)
波動の光は次第に小さくなり、識の身体を覆うくらいまで弱くなった。
「こ…これでいいんですよね?」
「つーかさー、識はとっくの昔から波動は使ってたんだよね。」
「こんなの見に覚えないですよ。」
「昔、出会い頭に顔面殴ったでしょ。」
識は花を踏んでいたという理由で殴られていた。
「あの時さー、あんたすでに波動を身につけていたんだよ。」
「は?そんなはず…?」
「無意識に、ってやつ。ま、ちょっと問題ある波動だったから、封印したんだけどね。」
「それってどういう…」
「後は自分で調べな。」
天道はくるりと回り、識に背中を向けた。
「私の役目はこれで終わり。これでさっきの奴とやっと同じ土俵に立てた。後は修練あるのみ。じゃね。」
顔だけを識へ向け、ひらひらと手を振り、歩き出した。
「ちちょっと!天道さん!せっかく久しぶりに会ったのに!」
「また近いうち会えるわ。」
「…天道さん!」
天道は振り返らなかった。
「ありがとうございます!」
言葉だけが二人の間に走った。
天道は何も言わず、何も行動を起こさなかったが、識にとってはそれで十分だった。
「まったく、あの人は相変わらずだな。俺を勝手に置いていったり…。」
そして天道は消えた。
識は天道から与えられたもの、掌を見た。
「波動か。」
手から薄い光が出る。
「何かを守るためには、何かを壊す力が必要…ってメッセージか。」
空で星が流れて、腕時計の午前0時を知らせるアラームが鳴る。
静かな草原にいた分、その音が響いた。
その腕時計は桜邸で働いたときにもらったものであった。
「桜?」
一方桜は…
「もういっぱーーーっつ!!」
遺跡跡地が破壊され、砂煙をあげる。
「はぁはぁ…。まだいけんだろぉ!」
砂煙が晴れ、影が立ち上がる。
立ち上がったのは来栖。
「当たり前だ。蚊に刺されたような痛みだな。」
「どうだか?血でてるよ。」
対して、少し余裕がでてきたのは桜である。
「当たり前だ。」
手に黒い光、波動が渦を巻く。
「さあ、第二ラウンドだ!」
来栖の両腕に黒い波動が渦を巻く。
荒々しい波動。
黒い波動が渦を巻いて桜へと飛んでくる。
「っ!これはまずいっ!」
渦を巻いた波動が土をえぐる。それは破壊力を物語っていた。
避ける桜。
直撃は避けることができた。
が、余波が当たった。
それは余波とは呼べない威力を持つ竜巻。
「うあああぁぁっ!」
桜は近くの建造物へと叩きつけられた。
「っってぇ。マジですか?この威力…。」
身体中に痛みが走る。
余波でこの威力。直撃したらどうなるのか、想像に苦しくはない。
「こんなの連発されたらひとたまりもない…?」
来栖を見ると。
「……。」
両腕をダラリとぶら下げて明らかに体力を予想以上に消費していた様子である。
「お前…、バカなの?体力も考えずに撃つなんて。」
「黙れ…、…これは…撃ち慣れてないんだよ。」
「のようだな。それに的外れな方向に撃ってるし。」
波動でえぐれた土に軌道を見ると、明らかに桜を外した方向へと流れていた。
ピンときた。
「お前、これ撃つの初めて?」
「べべべべっ、別にそそそそんなわけ!」
わかりやすい反応であった。
「あーっ!うるせぇ!ならこれでどうだぁ!」
今度は先ほどまで撃っていた黒い波動の玉を連発で出してきた。
桜はチャンスと思った。その攻撃は完全に見切っており、攻略方も考えていた。
痛む身体にムチを打ち、走り出す。
玉の軌道は単純。
右、左、右、左の順に玉が飛んでくる。
明らかに使い慣れていない。
木刀で玉を弾きながら突き進み、桜の攻撃射程距離に入った。
「『五ノ型・土竜』ッ!!」
地面を叩きつけて一瞬、来栖の視界から桜が消える。
「っ!味な真似を!」
来栖は玉を飛ばす。
その右横、桜が現れる。
「一ノ型・獣牙!」
突き攻撃。
来栖を直撃し、後方へ吹き飛ばす。
「…。」
「無理すんな。ウチはパワーアップしてんだから。」
事実、桜は妖怪と戦って以降、力がみなぎっている。
「だからさ、これで…。」
「……。コロス…」
「っ!!」
瞬間、異常なほどの殺気を感じた。
「な…なに!?」
来栖の全身から溢れるほどの黒い波動が発せられた。
禍々しく、完全に『負』を連想させる波動である。
「な…なんだ?その黒いのは…?」
桜は妖怪と戦ったことがあるが、その時には感じたことがない力である。
「おい来栖。」
「コロスコロスーーーーッ!!」
目が焦点を合わせておらず口はだらしなく笑っている。
それが波動と共に桜に恐怖を与えていた。
「クロノ…ハドウ…」