116 プライドが尾を引く命
そして、今。
(ああ、走馬灯か…、天道さん…どうしてるんだろう。桜は無事…だよな。)
胸を十字に切られ識は地面へ倒れる。
出血量が多い。血だまりができている。
「フォックス、懺悔はすんだか。」
オスカーが近づく。
ぎりぎり意識を保っていた識は悟る
(これ、マジで死ぬな…、昔は死ぬことなんて何も思わなかったんだけどな…そうか…今は……)
そこで識の意識は途絶えた。
だが、オスカーにとってそんなことどうでもいい。
ひと振り。
爪をひと振りすれば識の命は絶命する。
それだけが重要であった。
「 死ね。 」
月が黒い爪を照らす。
そしてそのまま識へと向かう
「 邪魔。 」
急に強烈な蹴りが入る。
人の気配も何もなかったので完全に油断をしていたので、抵抗なく巨大な木まで飛ばされた。
「だ、誰だ!!!」
黒く長い髪をした和服を着た女性。
「“天道世死見”。」
「て…天道…?。いや、そんなことより貴様ァ!よくも邪魔をぉ!!」
天道は聞いていいない。傷だらけの識へとかけより傷の具合を見る。
「あ~らら。『波動』の開放すんの忘れてたからな~。よっと。」
手から光が発せられ、その光が識を包む。
「何をしているのか、わからないが…。」
オスカーは天道の背後をとる。
「貴様も死ね。」
爪は天道に届くことはなかった。
天道へ届く手前、不可視の壁に爪が遮られた。
「なっ!なんだこれは!!」
「っ…。」
天道は、舌打ちをして、いかにも面倒くさそうにオスカーを見た。
目を細め、怒りをあらわにしている。
「 邪魔って言ったろ? 」
威圧。
オスカーはこの威圧感を感じたことがある。
それは自分が所属している『ナナシ』の隊長からである。
この人物は隊長と同格。
それを察知したが
「き…貴様の言うとおり、どくと思ったか?」
「…」
オスカーの声は震えていた。
手合いをしなくても、天道から自然と発する波動、いや雰囲気とも言えるモノがオスカーとは別次元のモノであった。
このまま戦えば殺される。
そう直感してしまうほど差があった。
だが
「もう一度言う。邪魔だ。どけ。」
「俺の答えは言ったはずだ。」
オスカーはプライドが高い男。
相手の思う通り逃げるなど、プライドが許さない。プライドが枷となり逃げられない。
天道はそれを察しながらも、指で銃の形を作り、オスカーへ向ける。
「馬鹿が。」
指に光が収束される。
オスカーは死を覚悟した。
その時、空から何かが落下して砂煙を、上げた。
両者の間に割り込むように落下して来たのは人の形をしていた。
「だ…誰だ!」
叫んだのはオスカーだった。
砂煙が晴れ、現れた人物は顔に包帯が巻かれた黒いコートを着た人物。
「え、エイスか!」
「わお、これは上玉のご登場ね。」
エイス。
『ナナシ』におけるAのナンバーを持つ者。
天道もエイスのことを知っているようだ。
「オスカー、ここは引け。」
「エイス、貴様の命令を聞く義務などない。俺は…」
エイスが消える。
超高速で移動し、オスカーの背後を取る。
オスカーが気づいた時には、後頭部に一撃入れられた後であった。
そのまま、意識を失い、エイスに担がれた。
「ちょっとちょっと、私に挨拶はないわけ?」
「天道か。…そうか、噂には聞いていたが、明日は…」
「そんなことどうでもいいわよ。まぁいいわ。私はこいつに用があるから。」
「待て、天道。」
「わかってるわよ。明日にでも決着をつけさせるんでしょ。その小僧と、こいつを。」
「わかっていればよい。」
そうして、エイスは消えた。
道に残ったのは天道と、識。
天道は識の口を強引に開け、小さな石を飲ませた。
…
「ぶぅっはあぁ!!」
「お。息を吹き返したな。」
識はいまだ息を荒くしている。
「はぁ、はぁ、…」
意識を失っていたため、何が起きているのか皆目検討つかない。周囲を見渡していると、天道と目があった。
「…」
「よっ。」
「てててて天道さんっ!!」
あまりにも意外な人物がいたので、驚きを隠せなかった。
識にとっては、自分に道を教えてくれた恩人であり、道中別れたいわば師匠。
そんな師匠はニッコリと笑い
「うるせえっー!!」
怒りの顔へ豹変し、識を蹴飛ばした。
「なぜ、天道さんが?」
「そんなことより…」
拳が飛んでくる。しかも尋常ではない速度で。
当然あたる。
「負けたな。」
胸にナイフが刺さる。
「ま、フェアな勝負じゃないから、許すけど。」
「フェアじゃない?」
識には意味がわからなかった。
「さっき殴ったと同時に返したよ。『波動』を」
「波動??」
識にとっては、意味不明の連続である。
「あー!もう面倒だなー!ホラ!」
識の胸に手を当て、天道が光を発する。
すると、識から膨大な量の光が発生する。
「うおっ!なんだなんだ!?」
「いいか?波動についてレクチャーしてやる。」