115 天道とフォックスと中嶋識
「呪術師?胡散臭いな。」
女、天道はフォックスの言葉を耳にも入れずに持っていた旅行鞄から怪しげな石を取り出した。
「え~っと、あ、そこも邪魔。」
今度は蹴られる前に退いた。
「何してんだよ。」
天道はまたもや無視。
石を数個投げると、何がブツブツと呟いた。
すると、
「封印の術、七式の型」
石から光が発せられ、石と石が光で繋がり円を作る。
その光は数秒で消えた。
何をしたのかしっぱりわからず、いい加減答えてもらおうと強めに聞いてみる。
「だから何をっ!」
「あ?何って妖怪の封印よ。」
意味がわからなかった。
「妖怪なんているわけ…」
「いるもんはしょうがないでしょ。」
「ぶっ!!」
急に顔面を殴られ吹き飛ばされた。
「な…」
あまりにも急なことだったので言葉がでない。
というより意味がわからない。
「何すんだよっ!!」
怒るフォックスに対して、天道は突き出した腕を先ほどまでフォックスがたっていた場所を指差した。
「?」
「花。」
先程までフォックスは花を踏み潰していたようだ。
「それで…殴ったのか?」
「それ以外何か。」
「いや…、何かって、殴ることは…」
「自然を大切にしないやつは命を大切にしない。それが私の持論。」
そんなメチャクチャな…。と思ったが、少し心に何かささるものがあった。
「それに君。いけないな。」
「何が?」
「その雰囲気。復讐なんか考えている目だよ。」
見透かされていた。
ブラボーを殺すため、旅をしていた。
そのためなら、自分の命を投げ出してでも力を欲しかった。
「あんた…、何者だよ。」
「だから通りすがりの呪術師。あー、それとさっきの一撃で君にプレゼントと一緒にあるものを没収したから。」
「は?殴られただけだろ?」
「そのへん、レクチャーしてあげる。来なさい。君に『生きる』ってこととか、欲しがってる『力』ってやつ教えてあげる。」
それから、フォックスは天道としばらく旅を共にする。
「君、名前は?」
「…フォックス。」
できれば名乗りたくはなかった。が、それ以外、名前はない。
「その名前、気に入らない。」
「なっ!」
「今日から…。」
天道は空を見上げる。
「…今日は少し冷える。前行った日本国では四月中頃のような陽気ね。よし!」
「君は今から、『中嶋識』。」
そうして、名前はフォックスから識へと変わった。
それから数カ国旅をし、二年ほど経った頃
「じゃあ、私やることあるから、あんたもうついてくんな。」
「へ?天道さん何を?」
「この金持って、そうね、日本で年頃の学生やってな。」
そうして識は学生となり、東海林桜と出会う。
それが中嶋識の過去であった。