114 復讐を誓う旅立ち
犯人の顔が光で照らされる。
それはよく見知った顔であった。
「…ブラボー…、なんで…」
ニヤニヤといつも通り笑って、答えない。そのうち怒りがこみ上げてきた。
「どうしてだっ!」
ブラボーへと飛びかかるが、いつかのオスカーのように返り討ちにあい、壁へと叩きつけられる。
「どうしてか?教えてやろうか?」
フォックスは顔を上げる。
だが、そこにはブラボーの姿はなかった。
そう認識した瞬間、後頭部に衝撃が走り、顔を地面へ叩きつけられる。
フォックスの頭を踏みながらブラボーは語り始めた。
「任務だよ。隊長から直々のなぁ。残念だったなぁ、二つの意味でぇ。大事な大事なリマを俺に殺され、さらにそれは隊長からの命令だった。貴様の中でリマ、そして隊長が死んだかぁ?えぇ?どんな気分だぁ?」
ショックだった。
自分を拾ってくれ、かつ育ててくれたのは隊長であった。
フォックスは隊長を親、最大の信頼を置いていたが。
力が入らない
その後もブラボーは色々と語っていたが耳に入ってこなかった。
「あ、そうそう。殺し方だがぁ、拳銃なんかじゃないぞぉ。」
頭を踏んでいた足をどかし、頭をつかみ上げる。
「しっかりと、味わいな♩」
再び壁へと投げつけると、ブラボーは人差し指と中指を拳銃のような形を作った。
「バァン♩」
指から光、黒い光線が発射される。
光線はフォックスの腕を貫き、後ろの壁をも貫いた。
「がああぁぁっ!!」
「ははははっ♩憎いかぁ?憎いよなぁ?でも、お前じゃ俺には勝てないんだよぉ。無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理」
フォックスは意識を失った。
目覚めると本拠地の医務室であった。
どうやら隊長はまだフォックスを使う気のようだ。
しかし、本人にはその気はなかった。
怪我した身体を引きずろうとしたとき、異変に気がついた。
「怪我がない…?」
完治していた。医務の係りの人物曰く、倒れていたフォックスをデルタが運び、まだ一日しか経っていないらしい。しかも搬送当時、腕には怪我などなかったそうだ。
だが、決して夢ではなかった。
顔には叩きつけられた時にできた傷があった。
傷などどうでもいい。今は隊長のところへ行くことが先決だ。
「隊長。俺は隊を抜けます。」
用件を簡単に言った。リマを殺させた理由を聞きたかったが、隊長が言うとは思えなかった。
「そうか。今まで本当にご苦労だった。好きにするといい。」
あっさりと脱退を認めてくれたことに驚いた。
そこまであっさりとやられると少し拍子がぬけてしまう。
「今までお世話になりました。」
困難はこの後にやってきた。
荷物をまとめ、本拠地をぬけてしばらく歩いた頃。
背後から何かが飛んできた。
「うわっ!」
紙一重で避け、何が飛んで来たのかよりも、誰が飛ばしたのかが気になった。
いや、おおよその検討はついていた。
「…オスカー。」
「フォックス。貴様。」
見るからに憤怒を込めた目をしていた。
「隊長を誰よりも慕っているお前なら、俺のとこに来ると思っていたよ。」
「貴様、なぜ裏切る!隊長を!」
「裏切るわけじゃあないだろ。隊長の許可も得た。」
「それでも、貴様は隊長の恩を裏切ることになる。俺は許せないんだよ。」
もはや、言葉では片付かないということはわかっていた。だから
「いいよ、やろう。確かに俺を拾ってくれた隊長を裏切ったと思うし。だけど、俺はここで死ねない。」
荷物を地面へと下ろすと、オスカーが向かって来た。
地面スレスレへと身を低くし走る。
フォックスはその技を何度も見て来た。
「早いけどさっ!」
足払い。
当たる前にオスカーは跳躍し、フォックスから離れる。
そのまま、周りを走り撹乱する。
「悪いが、お前の戦い方は何度も見たし、俺自身よくわからないけど、今、負ける気がしない。」
瞬間、フォックス自身無意識であったが、身体から黒い気のようなモノが発生した。
オスカーはそんなこと気にしなかった。いや、怒りに任せて動いていたのできにならなかった。
オスカーは完全にフォックスの背後をとった。あとは爪をフォックスへ喰いこませる。それだけだった。
「っっ!!?」
裏拳がオスカーを襲う。
完全に反対方向を向いていたフォックスの裏拳である。
オスカーは加速していた分、このカウンターのダメージは大きかった
そこから、フォックスは反転。オスカーへと近づき、怯んだオスカーの顎へめがけてアッパー。
決着はついた。
「…殺せ。」
仰向けで倒れたオスカーは呟いた。
「いや、俺は…。もう誰も殺したくない。ブラボー以外は…。だから、俺は力をつける。奴に負けない力を。」
「殺してやる…。俺を今ここで殺さなかったことを後悔するほど殺してやるぅっ!!フォックスーッ!!」
フォックスはその場わ去った。
オスカーはしばらく動けないだろう。
その間に列車に乗ってどこか今まで生きていてまったく関係のなかった場所へ行こう。
それだけ思って動いていた。
乗った列車は事故を起こした。
それは人為的ではなく、本当に偶然の出来事であった。
夜、走行中に脱線してからの横転事故、さらには爆発。どうにか無傷で生きていた。
自分の不運を呪いながらも、警察などに捕まると厄介なので、その場を離れた。
歩くと何もない草原。
光は月だけ。
鳴る音は風に吹かれる草の音と
ぐうぅぅぅ
「そういえば、晩飯食べてなかったな…。」
辺りは草原だけで、動物なんていない。
呆然と立ち尽くしていると。
「邪魔。」
後ろから蹴られた。
「うわっ!なんだなんだ!?」
不意に気配なく誰かに蹴られたので驚愕した。
「だから邪魔だって。」
女性がいた。
身長は高く、長い黒髪、それから和服、高価な着物を着ていた。
「なんだよアンタ。」
「あたし?…世界的呪術師、天道世死見」
「呪術師?」