106 旅行先では日本人をターゲットとした詐欺がけっこう多いらしい
桜達がグアイに到着した数時間後、識たちもグアイ島へと到着した。
「日本も暑いけど、ここも暑いな。」
「うむ、じゃが湿度が低い分汗は日本よりかかんな。」
識は絶句した。
なぜなら…
「お…お前がそんな豆知識を知ってるなんて…。お前誰だ?」
「失敬なことを申すで無い!わしだってその程度知ってるわい!」
「お兄様、先ほどの情報、わらわが教えた話ではないかえ?」
やはり知らなかったらしい。浦島はぐうの音がでないといった様子で下を向いた。
「のう、中嶋とやら。あのおなごはどうした?」
「雪音さんか?どこって隣に…。」
その隣。乙姫の言うように誰もいなかった。雪音も雪音の持っていた旅行鞄も。
識は思い出していた。
それは桜邸を出るとき、茜に言われていた。
『雪音さんは海外が始めてだって行ってましたけど不安ですねー。なのでお願いしますよ。なにかあったら中嶋くんクビね。いや、冗談ですよ。“冗談”ですから』
あの時の茜の目は冗談を言う目ではなく、悪意ある殺気のこもった目であった。
「二人はここにいろ!俺の生活の危機だ!」
「は?」
当然の如く二人はポカンと?を頭に浮かべていた。
だが識はいたって真面目であった。クビになったら路頭に迷うことになる。
「まぁそれだけじゃないけどな。」
と独り言をいいながら、全力で空港付近を探す。
「くそ、こういう時のお決まりパターンを考えろ。始めて海外旅行をした人の行動パターンを!」
周囲見渡す。旅行客、タクシーの客引きをする者、路店で縄のリングを販売している者、…。
「あっ!」
識の目に映ったのは、路店から謎のプロミスリングのような物を腕に巻いてもらってる雪音だった。しかも、その顔はとてもとてもうれしそうだ。
識は海外では生活をしていたからゆえの独特な嗅覚がある。ここでいう嗅覚は決して臭いという意味ではない。
経験などによって培われた勘のようなものである。
その嗅覚が反応した。
「あれはプロミスリング詐欺!なんつーお決まりの詐欺に引っかかってるんだ!」
急いで雪音の元へ駆け寄るが時すでに遅し、雪音は3000リン(日本円で3000円価値)を支払い終えた所であった。
「ゆ…雪音さん。それは…」
「あ、識さん!今そこの人に“幸せになるプロミスリング”というのを売ってもらったところなんです♪識さんもどうか?」
この先幸運が訪れるという思いで幸せそうな笑顔で話す。
「俺がついてなかったから…」
小声で自分の失態を悔やむ。
考えてみれば、雪音は近所のスーパーですらまともにいったことがない。そんな人物を一人にすべきではなかった。
だが、災難は終わってなかった。
「あれ?雪音さん?」
識は重大な事実に気づいた。
「なんです?」
「荷物は?」
「さっきプロミスリングを売ってくれた人がホテルまで持っていってくれるって言ってました♪…あれ?でもどうして私達のホテル知ってるんでしょう?不思議ですねー♪」
「いや、疑えって!!」
荷物は騙し取られたようだ。
路店商人はすでにその場にはおらず、走って離れたタクシー乗り場で今まさに乗車を終えたところであった。
「逃がすかぁっ!!」
視目した瞬間、猛スピードで走り出した。
タクシーとの距離は30mほどであろうか。タクシーが走り始めた。
初速の段階ではまだ識に分がある。
だが、このまま加速をされたら交通状況にもよるが、一気に離されてしまう。
などと考えていたら
ドオォン!!
車が何かにぶつかる音がし、停車をしていた。
駆け寄るとそこには見覚え…本当に親しくはないが覚えがある程度の人物と遭遇した。
「む、貴様は東海林の所の学生か?」
「ああ。桜基準で覚えてるのか。徳川海。」
大江戸大附属高校の生徒会長である、徳川海であった。
「六月の大会以来か。まさかこのような場所で会うと偶然だな。東海林のやつはいるのか?」
「まったくの別行動だが、グアイには来てるぞ。それにしても、」
識の視線は止められた車へと向けられる。
「これは一体…?」
と、今まで海のことに気をとらわれていたが、車を止めたのは海ではなかった。
その海の隣、直立不動の体勢をとっている2メートルはあろう大男。こいつが止めたのだと識は感じた。
(マジかよ…車のボンネットがあいつの手の跡でへこんでる…。真っ正面から力技で止めたってのか?)
「その通りだ。」
「くっ!最近心を読んでくるやつが多いな。」
「ほら、あいさつなさい。」
ズッ、とこちらを向き腰を45°ぴったりに曲げる。
「其れがし、名は“本多忠勝”。徳川家にて代々執事業を任せられる本多一家代…」
「うるさい。」
ペシっと額を扇子で殴られる。
殴られると同時にロボットのスイッチが切り替わったかのように仏頂面で休めの姿勢を取り出した。
「忠勝は馬鹿正直すぎて、放っておくと止まらない馬鹿なんだ。だが、性能は折り紙付きだ。」
「それよりさ、その車の中だけど、盗られたもんがあるんだ。回収していいか?」
「ぷっ!」
海は突然吹き出した。
ハッとして品を欠いたと思ったのか、口元を扇子で覆い隠した。
「お前こんな空港で物を盗られたのか?こんなマヌケ共に?」
所々笑いながら話す様子は、確実に識を馬鹿にしていた。
「てか、盗られたのは俺のじゃない。それは…」
「執事たるもの、自身の物だけではなく、仕える主、主の友人に被害が出ぬよう常に気をはるのは当然の所業である。」
ムッツリと黙っていた忠勝が識へ忠告した。
当の識は自分が雪音を守れなかった事実。それをつきつけられ何も言えなかった。
「まぁ、今回は返ってきたってことで、精進したまえ、え~っと。」
「中嶋識だ。(こいつ桜以外憶えて知らないんじゃね?)」
「まぁ、実際その通りだが。」
「また読まれた!?」
「いや、今のは声に出していたぞ。無能執事。」
グサリと言葉の槍が深く刺さる。
「それとこいつらだが」
タクシーの中で気絶をしている男。雪音を騙した者のことである。
「なんだか、知っているようだな。」
「こいつは“ねずみ男”。まぁなんというかだな…」
先ほどまでのハッキリとした態度とは違い、何か言葉を濁すような態度である。
「……まぁいいか、お前なら。妖怪だ。」
「そうか。」
…
…
しばしの沈黙。
識の反応に最初は少し驚いていた海だが、次第に目つきが厳しいものに変わった。
「なんだその反応は?」
「ん?いや、妖怪か、そうかという反応だが?」
「妖怪の存在を知っているのか?」
「ああ。」
頭をホールドそのまま
「私の躊躇いを返せっ!!!」
厚底キックッ!
「ぐはっ!なんで!?」
雪音の荷物を回収した識は急いで皆のいる所へと戻った。
「ずいぶん時間がかかったのう。」
「悪かったな。窃盗一人追っていたようなもんだからな。」
荷物を持ち、識、雪音、浦島、乙姫の四人はホテルまでの直行バスに乗った。
そのころ、海と忠勝は…
「主よ。このねずみはいかがいたす。」
ひょいっとねずみ男の首根っこを軽々と持ち上げる。
「ちちちっ!許してくれよぉ。ちょっとしたイタズラじゃあないか。」
小汚い格好をしたネズミ男は悪びれもせず、笑っている。
「“陰陽隊”に引き渡すか。」
それを聞き、先ほどまでの笑い顔が崩れ、急に顔色が真っ青に染まる。
「ちっ!そそそれはご勘弁をぉ!靴でも指でも舐めますからぁ!」
「そんなら気持ちの悪いことをしたら存在を消すぞ。まぁ、陰陽隊は勘弁してやるが、本家へ移送で手を打ってやる。」
よほど嬉しかったのか、その場で土下座を始め
「ありがとチュ~」
土下座体勢から海へと跳躍。唇を突き出して。
「無礼者っ!!」
忠勝の拳が飛ぶ。ねずみ男の頬にめりめりっと打ち込み、男は遥か後方の電柱へと飛ばされる。
ガインっと鉄の曲がる音がし、電柱にねずみ男の型が作られる。
形的には助けられた海は、忠勝を見上げ、ため息をつく。
「修繕費、誰が出すと思ってるんだ?」
「うっ…、かたじけない…」
忠勝は俯いてしまった。
次回、砂浜激闘編