101 そうだ、グアイへ行こう
識と雪音は買い物を終え、桜邸へと戻った。
それからは通常通りの仕事、雪音は庭掃除、識は屋敷掃除をし始める。ふと時計を見ると午前九時をさしていた。
「そろそろかな。」
識の役職は、桜の執事。その桜は夏休み中ということもあり起きてこない。識は仕事の一つとして、桜を起こすため二階へと上がった。
扉を開け中に入ると
「いてっ!…?何だ?」
部屋へと入るなり、何かを踏んでしまったようだ。その物体を見ると
「ドリ○ャス…?」
そこから視点をゆっくりと上げ、部屋の中を見渡す。
あたり一面ゲーム機が散乱している。ゲーム機だけではない、ソフトやらDVDなどが散乱している。
「な…なんだ!?これは!?戦争でもしていたのか??」
しばらくその光景に呆気にとられていたが、すぐにすべき仕事を思い出して桜を探した。
「おい!桜…って桜どこだ!?」
部屋の中にはゲーム以外にもマンガ、服もろもろが山のように積まれていた。
声をかけてしばらく立つと、
ガバっ!
っと服の山の中から手が出てきた。
「おわっ!マドハ○ド!?」
「ぅぉ~~」
低く、そして弱弱しい声が聞こえる。
誰の声か考えるまでもない、この部屋に寝ている人物。桜である。
上に伸びた手が次第に力を失って、へなへなと落ちる。
「お、おい!桜!」
ゲームetcの山を飛び越え、桜の手を掴む。そして力を入れ引っ張り上げる。
服の摩擦が影響して、桜が出てこない。手間はかかるが山の服をかきわけることにした。
そしてようやく桜を引っ張り出せる状態になった。
「桜!大丈夫か?」
「ふぶ…」
とにかく安全な場所へ連れて行くことを考える。周囲は散らかっていて安全と呼べるようなスペースは存在しなかった。
外に出るしかない。そう思い桜をかかえた状態で廊下へと出た。
廊下へ出ると、先ほどの識の声がよほど大きかったのか、一階にいた茜が駆けつけてきた。
「何があったんですか!?」
「茜さん!桜の部屋に入ったら、桜が服の山に埋もれていて…」
それを聞いた茜の顔が慌てた顔から呆れた顔へと変化した。
「“また”ですね…。とりあえず桜を風呂場に持っていきましょう。」
「風呂場…ですか?」
そして気絶している桜を背負って風呂場へと着いた。桜邸の風呂場は銭湯並に広い。ライオンの口からお湯がでるような物まである。
「それじゃあ、識君。それを湯船に放り投げてください。」
「あ、はい。(ってか“それ”って)」
背負っていた桜を湯船へと落とす。
水しぶきがあがり、ぼこぼこと泡が出る。
「ぶぉっはーーー!!!」
湯船から桜が復活した。
「げっほ…、げほ…」
咳き込む桜、その桜に近づくのは茜
「桜!またやりましたね!」
「え?」
「部屋を散らかした挙句、一人ファッションショーして片付けないで!」
「あはは…」
散らかしただけで、片付けはしなかったようだ。そして、そのまま熟睡。毛布代わりに着た服で身体を温めたようだ。
「だってさ~、旅行の服そろそろ選ばないといけないじゃん。」
「それと片付けしないのは別問題です!」
そこから茜の説教が始まった。かれこれ二時間の説教となった。
「え?識もグアイ島に行くの?」
昼食時、朝のチケットのことを話し茜から休暇をもらおうとした。そのときに偶然居合わせた桜からの質問であった。
「ああ、そうなんだ。で俺らが行くのが一週間後なわけだが。」
「ふうん、偶然だね。」
「ああ、グアイ島とはな。」
「そうじゃなくて。」
桜がチケットを取る。
そして、見るのは行き先ではなく、日にち。
「ウチらも、来週。ちょうどこの日にグアイ島に行くんだ。」
「何?そんな偶然…」
ありえない。と言いたいが、ありえてしまったので仕方がない。
「そうですか。識君もグアイに。しかもちょうど同じ日に出発ですか。」
「それでなんですけど。」
識がチケットの枚数を見せる、
チケットは四枚もらっていた。一枚は識、二枚目は雪音。あと定員が二人である。
「茜さんはどうですか?」
「私は来週本家の方に行く用事があって。」
「そうですか…。なら他に…」
「黒井君と白井君も私と一緒に本家へと行くので、学校のご友人を誘ってみてはいかかがですか?その方が楽しそうですし。」
茜の言うことはもっともである。学生の旅行となれば、友人でワイワイと行った方が楽しいに決まっている。
問題は誰を誘えるか。
とっさに浮かんだのは同じ生徒会の間宮である。さっそく電話をかけようとすると…
ピピピピ
着信音がなる。誰からか電話がかかってきた。相手は浦島であった。
「なんだ、浦島?」
『わしらをグアイ島へ誘え!!』
開口一番がそれであった。どこからその情報を拾ってきたのか。まさか屋敷に監視カメラなんかしかけたのではないかと疑う。
「なんで知ってるんだよ。」
『ふっふっふ。わしの情報網を甘く見る出ないぞ。』
『たわけ、わらわの監視小型カメラで見ただけであろう。』
察するに、浦島の妹である乙姫が声を出した。
「もしかして、妹もか?」
『うむ、その通りじ。まな板娘の付き人よ。』
「う…、あってるが何かいやな感じが…。」
『とにかくそういうことじゃ。わしら二人がお主のチケットをつかってやるわ。』
「こんのクソジジイ。使ってやるわじゃねーだろ。」
『では、頼んだぞ。』
一方的に話を進められ切られた。
間宮を誘ったところで、来るとは思わないしまあいいかと思う識。
こうして識のチケットの枠は全て収まり、後は一週間後の旅立ちの日を楽しみにするだけとなった。
が、
「ところで識。」
桜が指で識に来いと合図する。茜には聞かれたくないような素振りである。
「雪音さんのパスポートどうするの?」
「え?」
「なんだかアンタ知ってそうだからいいけど、雪音さん妖怪じゃん。戸籍とかないから正規のやりかたじゃあパスポート作れないよ。」
完全に忘れていた。
今まで、雪音は普通に問題なく生活を送っていたが、それはあくまで屋敷内でのことである。
雪音は屋敷から出たことがほぼない。
つまり身分を証明する物を発行したことなど当然ない。
ちなみに桜邸で働くとき、
「路頭に迷ってて娼婦をやりそうになっていた人だから拾ってきた。」
などととても本人には聞かせられないとんでもないことを言って働くように手を回していた。
「東海林家の力でどうにかならないか?」
「う~ん、パスポートの偽造かぁ…。」
しばらく桜は考える。パスポートの偽造となると正直なところ本家には知られたくない。そんな怪しいことやってるのか!などと祖父である御春や、薔薇都おじさんに咎められてしまう。
「そうだ!手はあるよ!」
「本当か!」
「ウチの例のバカ兄貴、恋継兄さんならどうにかできるよ。」
「おいおい、東海林家の人間だが、大丈夫か?」
「大丈夫、騙せるし。」
「それが狙いか!」
急遽偽造パスを作るため、桜、識、雪音の三人はジェットで恋継の家へと飛ぶことになった。
その頃、椿は…
「お母様、グアイへのバカンスは本当に行かないのですか?」
豪華なソファー、天井にはシャンデリア、壁には動物の頭部の造形など豪華な部屋。そこは黒雛家のとある一部屋である。
ソファーにぐったりと寝ているのは雲の上学園理事長こと黒雛理事長である。
「あ~~~っつい。グアイなんてクソ厚いとこ行ってらんなわよ。私はもっと涼しいとこ行く。」
「お母様があそこに行くたいとおっしゃるから2名分の特別リゾートを予約したのですよ。」
「ああ…、そうだ椿、間宮と行ってこい。」
椿は少し驚いた様子で、扇子を口元で広げる。
「殿方と二人で宿泊しろとおっしゃるのですか!お母様!娘に言うことではありませんよ!」
「気にするな…、間宮はお前には興味がない…」
「そういう問題ではありません!…まったくどうせなら桜と二人っきりで…甘い夜を……」
椿の妄想タイムに入ったころ。
桜邸ヘリポート
「ひぃっ!!!」
桜が急に奇声を上げた。桜の後ろにいた雪音がその奇声を怖がる。
「さ、桜さん?どうしました?」
「いや、ものすごい悪寒が…、何か背筋が凍るような…」
再び椿の家
「仕方ありませんわね。では私と間宮で行ってきますわ。」
「お~~らい。」
「“グアイ”ね。夏休みのバカンスにしてはよかった方ね。」
桜邸
「あひゃあ!!!何か嫌な予感が!」
「さ、桜さん?本当に大丈夫ですか?」