10 あなたに捧ぐ美しき花・急
桜・識・間宮の三人は熊と少し距離を置いて対峙していた。
「さて、どう攻撃しようか?」
桜はやる気がまんまんであった。
「・・・・。まずは足でも狙ってダウンさせるか」
「待て、その前に言いたいことがある。」
識が一呼吸して、告げる。
「熊が出てくるなんて、…まさに“くまったな”」
核が流れる。
ポカン!
「こんなときに何馬鹿言ってんの!!天性の馬鹿ね!!」
「・・・・中嶋・・・・おとりになれ」
「あ、それ賛成」
「ちょっ!ごめんって!」
「あ…来るよ」
三人がコントをしていると、熊が攻撃をしてきた。
まず真ん中にいた桜へと爪の突き刺しを一発。
桜は横へヒラリとかわす。
そのスキに間宮と識が熊の両サイドへと周りこむ。
「合わせろ!間宮!」
「・・・・」
間宮は何もしゃべらなかったが、それが同意、または了解の合図であることは経験から識は知っていた。
二人はタイミングよく熊の膝の裏を蹴り、足カックンを狙う。
しかし、熊は少しピクッと動いただけで効き目はなさそうである。
「まじかよ!俺と間宮の蹴りでも駄目なのか!ってうあ!」
今度は識にひっかき。これもかわす。
さらに反対側にいた間宮に対し、体を180°回転させひっかく。
これは間宮の上を通過した。
「この熊、かなり早い!つーか俺ら三人全員に対して常に攻撃できるような感じだ。」
そう言ったとき、熊は急に後ろへバック走し、小さな丸太を両手で持った。
「熊って、丸太とか持てるんだっけ?」
「今さら言いっこなしよ。」
熊は持った丸太を間宮へ投げる。
それをしゃがみながら避ける間宮。
しゃがみながら間宮は叫んだ。
「中嶋、二人で蹴るぞ」
「蹴るってさっきも蹴ったがダメだったじゃないか」
「二人で同じ足を蹴る。東海林は熊の体重を右にずらせ」
「それってウチが一番危なくない!?」
「・・・・」
「黙るなぁぁ!!」
「桜、まかせた」
桜は熊の視線の前、識と間宮は熊の後ろへとスタンバイする。
「さて、どうするか。この3mもあるバケモンのひっかきを一発でも受けたら致命傷ね。」
熊はその場で立ち止まった。
桜は不審思った。
すると熊はおそらく空気を吸い出した
桜は直感した。これは大声を出す。かのモン○ンの耳栓がないと困る攻撃のように。
「なら…、識!間宮!耳を塞いで!」
熊の後ろにいた識たちは、まったく意図がわからなかったが、とりあえず言われたとおりに耳を塞ぐ。
桜も耳を塞ぐ、と同時に熊は口を大きく開け
グルルアアアァァァァァ!!!!!
激しい声で叫んだ。
木々が揺れ、いや森が揺れた。
目の前にいた桜は後ろへと飛ばされた。
すぐ後ろに木が生えており、それにぶつかったことで、あまり後ろへ飛ばされることはなかった。
だが、身体にダメージは負っていた。
「ちょっときた…。けど、まだいけるぅ!せいっ!」
すぐに体勢を立て直した桜は速攻であきっぱなしであった熊の腹へと蹴りをいれる。
それが効かないことを承知で。
そのまま熊の右足下へ移動し、そこでとまる。
当然熊はすぐ近くにいる桜へとひっかきをする。左爪によるひっかきだ。
その時、後ろで構えていた二人が動く。
身体の重心が右へとずれた。
それを見逃すことなく距離を一瞬で詰め、二人同時に右膝後ろへと足カックン蹴りをする。
熊は右膝を折らしてそのまま地面へと膝をつけた。
「「よっしゃ!!!」」
桜と識の二人はガッツポーズ。
「まず一本。次はダウンを狙うか!」
膝をついた熊は、そのまま動かない。
手をダラリとぶらさげている。
すると
「な…なんだあれ…」
驚くことに熊の爪が半分ほど収納されていく。
そして、熊は四つんばいになるや、まるでバネをためるかにように、身をちぢ込ませた。
そして、そのバネは解き放たれた。
熊にとってはクラウチングスタートなのだろう。だが、桜たちからは、バネが解き放たれ、ものすごい速さで動いていた。
識に向かって熊は飛んでいった。
熊は四つんばいの状態で頭を先頭に突撃をした。
識は熊の頭と突撃する絵を見た。
「識!あぶ」
「っっ!!!」
桜が言い終わる前に識は宙を舞った。
桜たちから見た様子だと、あたると同時に熊は頭を上へあげる。闘牛の牛のように。
そして識は吹っ飛んだ。
軽い紙のように
(あれ?俺…今…)
飛ばされているとき、識は何が起きているのかわからなかった。
そして
地面へと
叩き落されはしなかった。
間宮が識を受け止めていた。
「間宮!識は!?」
「・・・・脈はある。・・・・気絶もしてないようだ」
さらに再び、熊は四つんばいになり身を縮め、先ほどの体勢になった。
「くっ!!次にやられたら…でも、」
「熊!こちらに来なさい!!」
桜は熊に石を投げ注意を引き付けた。
驚いた間宮は思わず声を上げた
「東海林!お前!」
桜はニコッと笑い
「大丈夫…、根拠はないけど、大丈夫…。」
桜はスゥッと息を吸った。
「やってみせる。ウチは信じる、自分を。さあ、やり合おう」
あと1秒もしたら戦闘が始まる。その瞬間
「タマ!!!お待ち!!!!」
声がした。
その方向を見ると先ほど気絶をしていた老婆が元気よくたっていた。
「タマ!こっちにおいで!」
言われると熊は老婆の方へいった。
呆然とする三人。
熊は老婆を頭の上へのせた。
「おや、じょーチャン。どうしたんだい。そんな顔して。」
われを戻し、桜は聞いてみた。
「あの…襲われていたんじゃ?それで気絶していたんじゃ?」
老婆はニヤリと笑い話し出した。
「あれは違うよ。気絶したのはホレ、わしの浴衣、切れてるじゃろ。わし浴衣をすごく大切にしているから、そこの木で誤って切ってしまったときに気絶しちまったよ」
あはははは、と老婆は笑う。
話によると、熊は老婆になついており、桜たちは熊から見て、老婆に危害を加えようとする輩に見えていたらしい。
普段は決して人を襲うことはない熊だとのこと。
老婆はあらかたの説明をすると、識を見た
「あ~、そこのボーヤ怪我してるね。ムソウのじじいのとこまで連れて行ってやるから、ついておいで。タマ、持ってやんな」
熊は片手で識を持ち上げ、歩き出した。
それに続いて桜と間宮も歩き出す。
次回、あなたに捧ぐ美しき花・焉