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安くて美味しい料理10

皆が手を洗っている間に太郎さんの隣で味噌汁を作る。

大根餃子一品だけと言うのも味気ないからね。

思った以上に私の出番が無かったのは太郎さんのお陰かな。


「太郎さんが包丁の扱いが上手で驚きました。」


「…昔親父の手伝いしてたからな。」


「そうだったんですか。どうりで…。」


太郎さんが包丁の扱いが上手な事に納得した。


「おふくろは元気か?」


「はい、元気ですよ。」


会いたがらない理由はいまだによくわからないけど、よしさんが大切な存在だという事はよくわかった。


「よしさん…太郎さんに会いたがってました。そろそろ顔だけでも見に行きませんか?」


「………。全部焼けたぞ。」


やっぱりまだ難しいか…。

ここで太郎さんと私の会話は終わってしまった。

だけど太郎さんが呟いた言葉が聞こえた。


「…どんな顔して会えってんだよ…。」


この言葉にどんな理由があるのだろう。

掛ける言葉も浮かばず、太郎さんの背中を見つめた。


手を洗って来た子供達にお味噌汁と大根餃子を配り終え、皆一斉に食べ始める。

よっぽどお腹が空いていたのだろう。

皆の食べっぷりがいい。


「大根餃子は醤油に付けて食べてね。あ~あとまだいっぱいあるからゆっくり噛んで食べて~。」


一応声は掛けるが聞こえてなさそうだ。

返事が返ってこない。

自分たちの手で作ったご飯の味はやっぱり格別なのだろう。


「おかわり!」


一人の子がおかわりに来ると、全員の目つきが変わった。

そして食べる勢いが増したような気がした。

おかわりをしてくれる子達の中にはリスみたいなほっぺで来る子もいた。


「次からは口の中が空っぽになってからおかわりだよ。」


「モグモグ…。コクリ。」


リスみたいなほっぺをした子は口を動かしながらおかわりを持って行った。

可愛いけど喉に詰まったら大変だからね。


「さてと…太郎さん、五郎さんお味はどうですか?」


今度は大人の皆に感想を聞いてみる。


「うまいな。初めて見る料理だ。」


「これいいね!大根餃子だっけ。今度俺達だけでも作れるんじゃない?」


「お前だけじゃ無理だろ。」


「だ・か・ら、俺達って言ったじゃん!!太郎がいれば何でも作れるような気がするし。」


五郎さん一人だと…うん、かなり心配だけど太郎さんがいれば大抵の料理は作れそうだ。


「確かに太郎さんがいれば何でも作れそうですね。」


太郎さんはそっぽを向いてしまったが、耳がほんのり赤くなっているのがわかった。

これは…照れ隠しというものだろう。


「あ~、太郎ってば照れてる~。」


五郎さんがからかうように言う。

そう言うの言わなきゃいいのになぁ。

その後太郎さんからげんこつを貰い、大人しくなった五郎さんは静かに大根餃子を頬張っていた。

太郎さんと五郎さん達に感想を頂いた後に向かったのは初さんと孫次郎さんの元だった。


「今日は料理場まで貸して頂いてありがとうございました。お味どうでしょうか?」


「俺は料理場をお前に貸すとは言ったが、あいつらに貸すとは言ってない。」


あっ…やっぱり初さんまだ孫次郎さんに言ってなかったんだ。

私が事前に確認してれば良かったな。


「はぁ~、あんたが話をしっかり聞かないのが悪いんだろっ!人様のせいにするんじゃないよ。本当にこの人は…。菜ちゃん、あんたも気にしなくていいからね。今日はとても楽しかったよ。それに美味しい。皆で料理っていうのもいいわね。ねぇ?あんた?」


初さんがお腹をさすりながら孫次郎さんを肘でつつく。


「…まぁ…たまには…。」


「いつか生まれてくるお子さんと料理出来るといいですね。」


「あぁ。」


孫次郎さんは素直に返事をした。

初さんは何故か孫次郎さんをチラチラ見ている。

私が不思議に思っていると、初さんが痺れを切らした様子で孫次郎さんに言う。


「あんたっ、菜ちゃんは味を聞いてんだよっ?ちゃんと答えてやんなさい。」


「…うまいんじゃないか。まさか…こうくるとは思わなかったが…。」


孫次郎さんの声が徐々に小さくなり聞こえなくなる。

初さんが孫次郎さんの背中を強く叩く。


「っっっ。」


孫次郎さんが痛がって声を出せないでいると初さんが話してくれた。


「この人ね。自分もあなたと同じ状況だったらどんな料理を出すか考えていたのよ。」


「えっそうだったんですか。」


その言葉に私は驚いた。

悩んでいたのは私一人だけじゃなかった事に。




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次回もお楽しみに~

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