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秘密の朝ご飯3

藤吉郎さんが私の方を勢いよく振り向いた。


「本当にこのご馳走を頂いていいんですかっ?!」


すいとんがご馳走?

私の思っているイメージはご馳走というよりは家庭料理ってイメージだけど…。

この時代ではご馳走に入るんだ…。

知らなかったけどここは知っているように振舞っておこう。


「えぇ、お好きな分どうぞ…。」


藤吉郎さんは食べる前なのに既にそれは嬉しそうに笑っていた。

釣られて私も笑った。


藤吉郎さんはまず汁をズズズッとすすり一言。


「うまいっ!」


すいとんのに入っている具材を一個食べてはうまいっと言ってくれた。

一口頬張るたびにニコッと笑う顔はとても無邪気な少年そのものだ。

あっという間に一杯食べ終わると少し照れながらお茶碗を持つ。


「え~と…おかわりしてもいいでしょうか…。」


「ふふふっ、もちろんどうぞ。」


照れながらおかわりをする姿が可愛いなっと思いながら綺麗に空になったお茶碗を受け取った。

そして二杯目のすいとんを藤吉郎さんに渡す。


「ありがとうございます…。」


藤吉郎さんはお茶碗を渡すと少しだけ悲しそうな顔をしたが直ぐに元の笑顔に戻った。

そしてまたうまい、うまい、と言いながら食べてくれた。


「おかわりをしてもいいでしょうか…。」


二回目のおかわりは少し遠慮がちに言った。

手伝ってくれたし…別に遠慮しなくてもいいのに。


「遠慮しないで…いっぱい食べて下さいね。」


玄米を用意出来なかったからその分いっぱい食べて欲しい。

三杯目のすいとんを渡すと先程より嬉しそうだ。


「ありがとうございますっ!!」


同じすいとんを渡しただけなのに…。

不思議に思いながらすいとんを食べる藤吉郎さんを見守る。

あまりに勢いよく食べるのですいとんが喉に詰まってしまうのではないかと心配になった。


「良く噛んで食べてくださいね~。」


その時にふっとわかってしまった。

藤吉郎さんが何故すいとんに一喜一憂しているのかが。

この食べっぷりなら四杯目もいくだろうからその時に少し試してみよう。


「あの…。」


「はい、おかわりですね~。」


私はすいとんを盛る時に白い具材を多めに入れてあげた。

これで今度も喜んでくれるはず。


「はい、どうぞ。」


「…ありがとうございますっ!!」


やっぱり。

藤吉郎さんはお茶碗を覗き込むと嬉しそうに私にお礼を言い、また勢いよく食べ始めた。

私もよくお母さんにおねだりしてたから藤吉郎さんの気持ちがよくわかった。

幼かった私は白くモチモチとしたすいとんをお餅だと思い、「お餅いっぱい入れて!」とよく言っていた。


懐かしさを思い出しながら藤吉郎さんが満足するまですいとんをお茶碗に盛った。

藤吉郎さんが白湯を飲み一息つくと空になったお茶碗を見ながら言った。


「初めて…水団(すいとん)を食べました。…こんなにもうまいものだったんですね。」


「初めてだったんですか?知っているみたいだったのでてっきり食べたことがあるのだと思ってました。」


「そういう料理があるとだけ…。貴族やお殿様が食べるものですから。」


それは知らなかった。

すいとんをお店のメニューに加えるのだけは辞めよう。


「…このようなご馳走ありがとうございます。私には勿体ない食べ物でございました。」


「そんな事は…。」


「ですが…食べれて良かったです。こんなにうまいもの初めて食べました。」


藤吉郎さんはニコッと笑った。


「気に入って貰えて良かったです。信長様の従者様にこんなに喜んで貰えて光栄ですね。」


信長様の名前を出すと藤吉郎さんはいきなり土下座をした。


「お願いですっ!信長様には私がここに来た事は言わないで下さい!!お願いしますっ!」


「ちょっとっやめて下さい。もうっわかりました。言いませんからやめてください。」


どうして言っちゃ駄目なのかはわからないけど藤吉郎さんにも藤吉郎さんなりの事情があるのだろう。

でも土下座なんてしないで普通に頼めばいいのに。


「菜殿…!ありがとうございます!」


「どのって…。ん?私名前言いましたっけ?」


「あっ…昨日信長様の居場所を調べている時に噂で知りました。」


「また…噂。」


恐るべし噂。

その噂のせいで私の個人情報がだだもれだ。

藤吉郎さんは立ち上がるとニコッと笑いもう一度私にお礼を言った。


「本当に噂通り…いえ、噂以上のお料理でした。ありがとうございます。」


「私こそ手伝って頂いてありがとうございます。また来てくださいね。」


藤吉郎さんは驚いた顔をした。

何故そこで驚くのだろう?


「私が…また来てもいいのですか?」


「ええ…いつでも…。」


藤吉郎さんはさっき以上に顔をくしゃくしゃにしながら笑った。


「ありがとうございます。では絶対また来ます。」


「はい、お待ちしてます。」


深くお辞儀をしてから藤吉郎さんは走って帰って行った。

笑顔が凄く似合うお客さんだったな。

朝から忙しい感じになっちゃたけど…清々しいいい朝だった。


「さてと…私はもう一踏ん張りかな~。」


大きく背伸びをしながら朝ご飯を食べる前に店の準備をするのだった。







誤字脱字報告ありがとうございます!

次回もお楽しみに!!

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