美味しいと楽しい
子供達全員におでんがいきわたると、少し冷めたおでんを仲間達と食べ始めた。
大人達のおでんを盛りながら子供達の様子を窺う。
「美味しいっ!!」
「この団子みたいなのも旨い。」
「次それにしようかなっ。」
楽しんで食べているみたい。
子供達の楽しそうな声を聞いていると口元が緩んでしまう。
大人達は盛り上がる声を聞きながらおでんの具を選ぶ。
初さんは楽しそうに、孫次郎さんは睨みながら…。
「私はしいたけとこの肉巻き山菜にしようかしら。」
「俺は肉巻ききのこと肉巻き山菜。」
「はい、わかりました。」
孫次郎さんは現代のおでんに入っていない私が考えたおでんの具を全て選んだ。
肉巻きは焼いても美味しいからおでんの汁の中に入っても美味しいんじゃないかな~って思ったから入れてみたけど。
大丈夫…だよね?
孫次郎夫妻におでんの具を盛った後、お次は今回の依頼者お二人の番だ。
さて、二人の太郎さんは何を選ぶのかな。
少し楽しみだ。
「なんか選ぶっていいねぇ。楽しくってさ。あいつらもいつもより楽しそうだし。あ~俺、大根と里芋~。」
「やっぱり大根人気ですね。子供達も大体の子が大根選んでいきましたよ。」
「こんないい色した大根選ばずにはいられねぇよな。なっ太郎。」
確かに汁が染みたいい色だ。
私もおでんを食べる時は絶対染み染みの大根選ぶからね。
気持ちはわかるよ。
「そちらの太郎さんはどれにしますか?」
「大根と里芋。」
「あっ里芋も美味しいと思いますよ。実は里芋も本当のおでんには入ってない具なんですけど合うんじゃないかと思って入れてみたんです。後、是非これも試してみてください。」
私はすり潰した唐辛子と味噌をすすめた。
本当はからしがあれば良かったんだけど見つからなくて今回は諦めた。
よしさんと与一君にも聞いてみたんだけど二人ともわからないみたいだった。
こういう時に時次さんとりゅうさんがいればと思い、頼り過ぎた部分が多かった事に気付かされる。
今度は自分の力で頑張らなくては。
でも自分の力にも限度があるので似た材料を探し、唐辛子を採用する事にした。
「辛いのが苦手でしたら味噌で、少し刺激が欲しくなったら唐辛子をどうぞ。」
「一応、持って行く。」
「俺は辛いの苦手だから味噌にしよ~。」
太郎さん達はそれぞれ味噌と唐辛子を少しずつ持って行った。
これで全員いきわたったかな~。
ふぅ…と一息吐いて直ぐに子供が一人、また一人と並び長蛇の列が…。
覚悟はしていたけど…食べるのが早いな皆。
「お姉ちゃんが作ったんでしょう!この肉の団子美味しかった。もう一個!後ね、う~ん…大根!」
「つくね気に入って貰って良かった。でもいいの?また同じ具だけど。」
「いいっ!!」
「そっか。いっぱい食べてね。はい、つくねと大根。」
緊張気味だった子供達もおでんを食べてから元気に話しかけてくれる子が増えた。
おでんの美味しさのお陰でもあるけど、自分で選ぶのが楽しくて仕方が無いみたい。
おかわりする子供達は鍋の中を目を凝らしながら覗き込んでいる。
頭で鍋の中が見えないのが困るけど、夢中になっているのがわかるから嬉しい。
大人達は子供達の様子を見ながらゆっくり食べ、子供達のお腹が落ち着くのを待つ。
しばらくは鍋の周りに子供達がいたが満足してから遊び始め、鍋の周りが静かになると大人達が動き出す。
初さんが笑いを堪えながら両手にお皿を持って来た。
「中々美味しいじゃない。こんな寒い日はやっぱりあったかいものだね。あの人ね…っクス。直ぐにおかわりしたいのに子供達がいるから行けなくて我慢してたみたいなんだけど、今落ち着いたでしょう?だから行くと思っていたんだけど中々行かないの。」
「どうしてでしょうか。」
「だから私も行かないのって聞いたんだけど。行かないって。だから私、おかわりしに行くけどあなたは何にするって言ったら、汁を多めで具は残ってるの何でもいいですって。きっとおかわりしたいけどあなたの所に行くのが恥ずかしかったのね。」
「そう…なんですかねぇ。」
後ろを見ると貧乏ゆすりをしながらそっぽを向いている孫次郎さんの姿があった。
そして汁多めか…中々わかっていらっしゃる。
おでんは汁が肝なのを食べて瞬時に判断したらしい。
「汁多めにしておきますね。具はどうしますか?残ってるのは…大根と里芋が少しと昆布と山菜の肉巻きですね。」
「あら…随分売れたわねぇ。じゃあ、昆布と大根を頂こうかしらね。二人分お願い。」
「わかりました。これも付けてみて下さい。味が少し変わりますよ。」
先程太郎さん達にすすめた味噌と唐辛子を渡す。
たしか、初さん達はまだ試してないはずだ。
「別々に付けて食べても美味しいですけど、味噌に唐辛子を混ぜても美味しいと思います。」
「大根には確かに合うかもね。」
「具に付けても美味しいですけど、汁に溶かして飲んでも美味しいですよ。」
「あの人と一緒に試してみようかしらね。」
初さんと私の会話に太郎さん達が後ろから加わる。
「え~っ、それ早く言ってよ~。でもその美味しさは俺が保証しますよ。」
「俺のを勝手に取って食ったもんな。汁まで。」
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作者も読者様の期待に答えれるように、これからも執筆頑張っていきますのでよろしくお願いします!