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予行練習

やすさんに惣菜まんをお礼にあげて荷車を借りたついでに、使ってないお鍋を数個も貰った。

荷車の扱いは与一君が知っているとのこと。


店を切り盛りしながら荷車の扱いを与一君に学び、着々と準備が進む。

それもこれも、与一君の教え方ともっさんがいい子なおかげだ。


「明日、練習で荷車で行くだけ行ってみるね。もっさんにも道に慣れて貰いたいし。」


「ついて行こうか?」


与一君が心配そうに私の目を見る。


「大丈夫。一人で行ってくる。ありがとうね。」


「…。」


「無理はしないよ。問題が起こったら帰って来るから。店の事よろしくね。」


「わかった。」


そして次の日、予行練習としてもっさんと一緒に隣町に行ってみた。

歩いていると人だかりがある場所を見つけ立ち止まる。

そこはとても賑やかで、人々の笑い声が響いていた。


「もしかして、ここかな?」


あの噂の旅の一座ではと後ろから背伸びをしながら覗き込むが一向に見えない。

私が後ろで飛び跳ねている間に何かが終わり、人々はあっという間に散り散りになっていった。


何をやっていたかはわからなかったけど、綺麗な着物を着た人達や派手目の着物を着た人達がいる。

女の人の方が話しかけやすいので、綺麗な着物を着た美人さんに話しかけてみた。


「あの…ここに太郎さんって方いますか?」


「あたいの事だね。何か用かい?」


「………。いえ…えーとっ、女性の太郎さんでは無くてですね、男性の太郎さんなんですが。」


この時代だと女性で太郎って言う人もいるんだ。

女性は少し考えた後に一人の男性を呼んできた。


「あの子、あんたの知り合い?あたいはもう行くよ。」


「いや~、どっかで会いましたかね?」


男性の太郎さんは困惑した顔をしている。

無理もない、知らない人に呼び出されたのだから。


「いえ、初めて会います。よしさんと言う人をご存じありませんか?」


「よし?無いな~。」


「そうですか…。少し人を探していて、ありがとうございました。」


どうやら息子の太郎さんではないみたいだ。

男性の太郎さんの後ろで女性の太郎さんがこちらを見てる。

目が合うと私に美しく微笑み去ってしまった。


いつまでもここに居ても仕方が無いので、この町の人に情報収集をする事にした。

近くにお店があるのでそこに入ってみる。

中に入って見ると食事をするところのようだ。


「すみません。店の隣に荷車と牛を繋いでもいいですか?」


「あぁ、かまわないよ。」


「ありがとうございます。」


もっさんと荷車を隣に置き情報収集をする。

ただ聞くのも何なのでご飯を頼んだ。


「私も他の方と同じものを下さい。」


「あいよ。」


ご飯は直ぐに出てきた。

何となく想像はしていたけど…。

よしさんの店で何度も見た雑炊だ。


「頂きます。」


お味は言うまでもない。

玄米とお湯の味だ。

ゆっくり雑炊を流し込みながら店員に話しかける。


「お尋ねしたいんですが、この町に滞在している一座ってあそこ以外にあるんですか?」


「最近来たそこの一座ぐらいだと思うけど…。知ってるかい?」


その店の女の人は食べて一息ついているお客さんを巻き込みながら聞いてくれたが、全員首を横に振った。

ここ以外にも一座があるみたいだけど、この町には最近来たあそこの一座だけだそうだ。


「あんたこの町の人じゃないだろ。この町に何しに来たの。一座を見に来ただけじゃないでしょ。」


「実は…。」


多くの情報が欲しいので、食べ物を売りながら一座にいる太郎さんという人を探そうとしている事を伝えた。


「私のお世話になっている方の息子さんで、伝えたいことがありまして。」


「でもあんたは会った事は無いんだろう?」


「はい…。」


女性は頬に手を当て困っていた。

その女性が真剣に考えている事がわかり、沈みかけていた私の心が少し温かくなった。


「地道に探してみます。また来てもいいですか?」


「いつでも来なよ。私も他にあたってみるからさ。」


「ありがとうございます。」


こうして私の予行練習は幕を閉じた。



誤字脱字報告ありがとうございます。

コメントも頂き嬉しかったです。

次回もお楽しみに~

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