変化
時次さんがいなくなって数日、私はいつも通りの忙しい日々を過ごしていた。
ちょっと寂しいけどいつまでもくよくよしてもいられない。
「うっし!今日も頑張ろうね。与一君。」
「?うん。」
変に気合が入った私を奇妙な目で見る与一君。
よしさんが店の方からやって来た。
「あら、今日も元気ね。菜、湯漬け三杯よろしくね。」
「湯漬け三杯わかりました。」
時次さんがいなくなってから変わった事が二つある。
「んっ。ご飯盛った。」
「おっさすがだね。与一君。」
いつも頼もしい与一君が一段と頼もしくなった。
すっごく助かっている。
お湯を注いでよしさんに渡す。
「よしさん、お願いします。」
「あいよ。」
よしさんがお客さんに湯漬けを渡しに行くが…。
「あっ、箸忘れてる。」
「俺、持って行くから師匠は料理場にいて。」
「よろしくね。」
与一君本当に頼りになるなぁ。
時次さんがいなくなってから変わった事のもう一つはよしさんのミスが増えた事だ。
よしさんらしくないミスが増えたのだ。
「どうしたのかな…よしさん。」
お米を炊く量を間違えたり、言い間違えとか…。
その変化は与一君も気が付いていると思うけど、何も言わずにフォローしてくれる。
やすさんに聞いてみようかな。
後日、よしさんが出かけている時にやすさんが卵を持って来た。
聞くなら今しかない。
「やすさん!よしさんの事でお話したい事があるんですがお時間いいですか?」
「なっなんだ、なんだ?改まって…。」
店の中でやすさんに今のよしさんの様子を話す。
最近になってどことなく元気もないような気がしてきたし…。
「ん~…気になる事はあるが、わからんなぁ。でも俺よりも一緒にいた菜ちゃんが異変を感じたのなら何かあったのかもしれねぇな。本人には聞いたのか?」
「いいえ、まだです。」
「だったら、本人に聞くとしようぜ。聞いてるんだろ。」
やすさんにつられて店の入口に目を向けるとよしさんが立っていた。
「そろそろ話そうとは思ってはいたんだけどねぇ。」
「この前隣町を歩き回っているのを見たが…それは関係あるかい?」
「見てたのかい?声を掛けてくれれば…。」
やすさんが気になってた事ってこの事だったんだ。
確かに最近出かける事が多くなった気がする。
でもどうしてそんなところに?
よしさんは静かに話始めた。
「菜に私の家族の話をしただろう。実はねぇ、一人息子がいるのよ。」
「……太郎…か。」
やすさんが名前をぼそりと呟いた。
確か旦那さんは戦死で娘さんは病死、よしさんが一人でこの店をまわしていると聞いていた。
息子がいるとは聞いてはいない。
「太郎をあの場所で見かけたのよ。綺麗なべべを着て…ね。まさかあの子が生きてるとは思わなかったっ。」
「…よしさんよ。酷な事を言うようだが、見間違いじゃないかい?太郎はあの時…。」
「私が…母親が…息子の顔を見間違える訳がないじゃないか。あれは太郎だった。あの子は認めなかったけどね。あのたれ目の所に二つのほくろ。太郎だった。」
よしさんはその場で太郎さんと思わしき人に声を掛けたらしいが、結局人違いだと言われてしまったらしい。
それでも、もう一度確認したくてあそこで太郎さんを探していたらしい。
やすさんはいつになく厳しい顔をしている。
「………。綺麗な着物なぁ。最近来た一座がそあたりにいるとは聞いたがな。仮に太郎がいたとしてもどうするんだい?戻って来いっとでも言うつもりかい?」
「それはっ…。」
よしさんは言葉に詰まっていた。
私には単語が分からなくてちょっとだけ話についていけない。
一座…聞いた事はあるけど。
「とにかく、だ。もう行かないこった。太郎だろうがなかろうが…どうしようもない。一番よくわかってるだろ。」
「………。」
今日のやすさんはよしさんに厳しかった。
私は話についていけなくて何も言えなくて二人の話に耳を傾ける事しか出来ない。
質問したい事は山ほどあった。
一座とは何か。
太郎さんがどうしてそこに行ったのか、戻って来れない理由とか…。
それからよしさんは明るくふるまって仕事をしていた。
よしさんが明るくするほど、苦しそうに見えてしまう。
私に出来る事があるんだったら言って欲しいけど…。
「一座か~。」
与一君が私の一言に反応した。
「………。見たいの。」
「与一君一座って何か知ってるの?」
「知らないの?」
驚きと冷たい目が私を襲う。
そんな目で見ないで。
「旅しながら芝居とか踊りとかする人達。芝居とか以外にも客が望めば夜の相手も…金があればだけど。っておっとうが言ってた。」
「っっ……。ごめん。」
私は子供になんて事を説明させてるんだ~~~~!!!
第二章突入しました。
これからの菜ちゃんの活躍に乞うご期待!!
誤字脱字の報告ありがとうございます。




