お別れ会
料理場から店の中に移動するとやすさんとよしさんが話中だった。
「菜ちゃん、おはよう。時次は随分早いなぁ。さては見納めにか?」
やすさんは私をちらりと見ながら言う。
その視線に気付かなかった事にしよう。
「やすさん、おはようございます。ええ、そんなところですかね。」
時次さんもこちらを一瞬見る。
やすさんはニヤニヤしながら私を見ているが、これも知らないふりをした。
「おはようございます。やすさんは相変わらずですね。」
「師匠~、早く食べようぜ。」
与一君は五目天津飯に釘付けだ。
「ごめん、ごめん、そうだね。熱々の内に食べよう。皆さんもどうぞ。」
熱々のあんかけが冷めない内に皆に五目天津飯を食べてもらおう。
皆、珍しい料理を観察するところからスタート。
「どんな料理が来ても驚くまいと思ってはいたが…。」
「この黄色のは卵かい?きれいなもんだね~。」
やすさんは皿を回しながら見た目のインパクトに驚き、よしさんはあんかけで輝く卵の黄色の色に感動していた。
「ええ、とても綺麗ですよね。作っているところを拝見出来て良かったです。」
時次さんもよしさんの意見に同意し、褒めてくれた。
見た目にインパクトがある五目天津飯にして良かったな。
「見た目を気に入ってくれて良かったです。やすさん、驚くのはまだ早いですよ。食べてみてください。」
「作っているのを見ている私ですら驚きましたからね。」
時次さんと目を合わせ笑い合う。
まさか、玉子の中にご飯が入ってるとは思わないだろう。
「はぁ~これは……また……。」
「あららら……。」
「ご飯が出て来た!!」
大人達は目を丸くし、与一君はキラキラと目を輝かせていた。
もう一度、時次さんと目を合わせ笑い合う。
「大成功ですね。」
「はい、でもこの料理は時次さんの為に作ったんですよ。食べてみてください。」
「ありがとうございます。ではさっそく。」
時次さんの反応が気になり食べるところを見守る。
あんかけをかぶった玉子の中からご飯が顔を出し、箸で掴み時次さんの口の中に消えた。
「とても美味しいです。この世のものと思えないほどに……。雑炊でも湯漬けでもないですが、このとろみのついた汁のお陰でするすると食べれますね。」
一口食べ、五目天津飯を見ながら時次さんは微笑んだ。
その様子と言葉を聞いてほっと胸をなでおろす。
「確かにあんかけのお陰で食べやすいかもしれませんね。」
時次さんの反応を見守った所で私も五目天津飯を食べてみる。
玉子の表面にかかったあんかけが口の中でご飯にも絡まり、生姜の風味と醤油のしょっぱさが口の中に広がる。
色んな種類のきのこの食感も楽しい。
きのこ一つとっても食感が違うから一つずつ食感を覚えてから今度は入っている全部の種類のきのこを口の中に詰め込み噛み遊ぶ。
シャキ、シャキ…むぎゅっむぎゅ……。
ふふふっ、楽しい。
他の具のれんこん、かぶ、かぶの葉も食感も好きだな。
あんかけが一つ一つの具材に包まれているから味がよく絡んでる。
この五目天津飯は具が多目なので食べるのが楽しい。
見た目も玉子があるだけで豪華なような気がするし、具もいっぱいで見た目だけでも楽しめる。
「いや~、にしても旨かった。食べ終わってから体がやけに温かいな。」
「私もですよ。」
やすさんとよしさんが食べ終わり体の温かさを訴えてきた。
その反応に時次さんも頷く。
「実は私もそう感じていました。部屋が暖かいせいかとも思いましたが、体の外側というよりも内側の方が温まっている気がします。それを感じたのは料理を食べてからですね。」
三人は私をじっと見る。
与一君は五目天津飯を食べながら私を見る。
これは…全員に説明を求められていますね。
「え~、この料理に生姜が使われているからかと。生姜は体を温める事が出来ますから。」
「それは、私も知っています。なのでよく兵糧にも使われています。ですが…兵糧を食べた時よりも体が温かい。」
時次さんも生姜の効果は知っているようだ。
時次さんだけじゃなく、よしさんとやすさんも知っているみたい。
そう言えば、漢方として昔から使われていたんだっけ。
じゃあ、知らないのはあんかけの方か。
「生姜も体を温めるんですが、実はあんかけも同じで…。」
「「あんかけ…?」」
やすさんとよしさんが頭を傾げる。
「このとろみが付いた茶色の汁です。どうして体が温かくなるか詳しくはわかりませんが、あんかけも体を温める効果があると聞いた時があります。」
私の欠点だらけの説明で皆納得してくれた。
「なるほど…。知りませんでしたね。」
「はぁ~~。」
「あら、いいわね。」
「へぇ。」
実はあんかけにしようと思ったのはこれが理由だ。
冬が近づきつつある秋だ。
きっと旅の道中は寒いだろうから体が長く温まるような料理にしたかった。
「時次!これで道中温かく旅が出来るな。わはははっ。」
「菜さん、私の為にありがとうございます。また食べに来ます。」
「はい、待っていますね。」
時次さんの後ろからニヤついたやすさんの顔が見えたのと同時に、後ろでよしさんの雷が落ちる五秒前を見た。
感動ムードが台無しだ。
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