最後の朝ご飯作り
翌朝、気合を入れて顔を洗う。
秋ということもあり、井戸の水は夏に比べ物にならないくらい冷たい。
お陰で眠気も吹き飛んだ。
「っっ顔が痛い…。冬が来るのが恐ろしいなぁ。」
今日のお店の準備をよしさんに任せ、私は時次さんに出す料理を作ろうとした時だ。
「お邪魔します。菜さん、おはようございます。」
「おはようございます。時次さん随分早いですね。」
まさか、時次さんが作る前に来るとは思わなかった。
早く会えるのは嬉しいけど早すぎるような。
「迷惑かとも思ったんですが、最後に菜さんの料理姿を見ておきたくて。いいですか?」
「ちょっと恥ずかしいですが、わかりました。近くにどうぞ。」
私の料理姿を見ても面白くはないとは思うけど、時次さんがそう望むならと了承した。
隣に時次さんが来る。
少しだけ気まずいので料理の説明をして気を紛らわす。
「えーっと、玄米ご飯を炊いている内に今回使う食材きのこ各種以外のれんこん、ノビル、かぶとかぶの葉を食べやすい大きさに切ります。」
「秋の食材が沢山ですね。」
「えぇ、採れたてですよ。今朝よしさんが採って来てくれました。油を敷いた鍋の中に火の通りにくいれんこんとかぶを先に入れて炒めたら、続いてきのこ各種とノビル、かぶの葉を入れ炒めていきます。」
きのこに関しては見たことのない種類も入っているが、よしさんいわくどれも食べれるらしい。
私はまだ毒きのこと区別できないけど、秋が終わるまでには何とか覚えたい。
「炒めている間に大きい器を用意して水と饂飩粉を入れてよくかき混ぜます。」
「饂飩を作るにしては水が多すぎる気がしますが…。」
時次さんは饂飩の作り方知ってるみたいで、私が饂飩を作ると思っているみたい。
「饂飩を作っているわけじゃなくてですね。汁にとろみをつけるものを作ってるんですよ。」
「とろみ…ですか。」
時次さんはじっと私の作業を観察している。
「鍋の中にその饂飩粉水を入れてかき混ぜながら特製めんつゆ、塩、生姜で味付けをして、とろみが出てきたら五目あんかけの完成です。」
お玉であんかけをすくいとろみかげんを確認する。
片栗粉で作るよりはとろみは出ないけど許容範囲以内。
「確かに汁にとろみが出ましたね。」
時次さんはじっとお玉からすくい上げた汁を見て頷いていた。
五目あんかけって言えば海鮮とかだけど、入ってなくてもとても美味しそうだ。
最後に玄米ご飯に五目あんかけをかけて完成!
って言いたい所だけど今回はまだ終わらない。
ご飯を大き目の器に入れて山盛りに盛っておく。
別の鍋を用意して油をしき溶き卵を流しかき混ぜながら焼き、半熟の所でご飯の上に半熟玉子焼きをのせると、見た目はオムライス。
「とても綺麗な料理ですね…。これで二品目ですね。」
「ん?二品目じゃなくて、一品ですよ?まだ出来上がってません。」
「……?」
時次さんは首を傾げる。
あんかけをこのオムライスもどきにかけると思っていないみたい。
にしても昔の人から見てこのオムライスもどきが綺麗に見えるとは驚きだった。
どちらかと言えば可愛いにはいると思ってた。
「師匠~おはよう。あっもう作ってる。俺も手伝いたかった。」
実は今日、やすさんと与一君も誘ったのだ。
朝早くによしさんが消えたと思ったら、やすさん達も誘って来たと言う。
よしさんの行動の早さは…凄い。
「おはよう。ごめん、これだけは自分で作りたかったから…。また今度手伝ってくれる?」
「…わかった。俺、白湯運んで来る。」
この料理だけは自分で作りたいのだ。
後は仕上げだけだけど最後まで自分の手で作りたい。
五人分のオムライスもどきを作ったら上から五目あんかけをとろ~りとかけ流す。
五目天津飯の完成!!
我ながら美味しそうに出来た。
「なるほど…確かに一品ですね。これも初めて見る料理です。」
「五目天津飯って言うんですよ。」
料理場にひょこりと与一君が顔を出す。
「師匠出来たなら運ぶよ。」
「今ちょうど出来たからお願いします。」
「うん、わかった。……。」
与一君は五目天津飯をじっと見ながら運ぶ。
料理を見ながら運ぶ与一君に時次さんから声が飛んだ。
「その気持ちは分かるが前を見て歩かないと転ぶぞ。」
「っっ…!」
与一君は時次さんの一言で五目天津飯から目を離し慎重に運んだ。
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次もお楽しみに。