牛小屋の完成
やすさんと与一君が蜂蜜をかけたのを見届けたら、後は食べるだけ。
「菜ちゃん、これでいいのかい?」
「はい、もう食べても大丈夫ですよ。与一君もどうぞ。」
「うん!」
私もだけど与一君も甘いのが好きだから絶対気に入ると思う!
蜂蜜をフレンチトーストにかける所から与一君も釘付けになっていたしね。
やすさんはフレンチトーストを箸でつまみかぶりつく。
やすさんが食べると厚揚げを食べているように見えてしまう。
フレンチトーストと色が似ているからかな…。
「おぉ!!甘い…そして柔らかいなぁ。これがパンつぅやつか。」
思ったより柔らかったらしく柔らかさにやすさんは驚いていた。
与一君はというと……無心で食べていた。
私が与一君を見てクスリと笑うと、やすさんも隣で無心で食べている与一君を見て優しく笑った。
その後やすさんと与一君はあっという間にぺろりと食べてしまった。
「与一君もやすさんもおかわりありますよ。食べますか?」
「おう、頼むぜ!」
「食べる!」
二人の元気な返事が返って来た。
私が料理場に戻りおかわりを取りに行ったら後ろから与一君が付いて来た。
「やすさんのところにいてもよかったのに。」
与一君は少し照れながら頭を掻く。
「師匠一人じゃ大変だろう?一応…女だし。」
「一応は余計だけどありがとう。」
私の為に来てくれたみたい。
フレンチトーストだけだから一人で運べたけどせっかくの申し出を無下にも出来ずお願いすることにした。
フレンチトーストのおかわりを持って行きやすさんに渡す。
二人の食べっぷりを見ていると私も食べたくなる。
でも、この二人の食べているフレンチトーストで最後だ。
作ろうにもパンも無いのでパンを作るところからもう一度作らなくてはいけない。
「……師匠、んっ。」
箸でつかんだフレンチトーストを与一君が私に向ける。
きっと食べてもいいよって事なんだろう。
「いいの?」
「うん。」
「じゃ、一口だけ。」
与一君に甘えて一口貰う事にした。
口にフレンチトーストを入れると直ぐに蜂蜜の甘さが私を襲う。
ふわふわのパンとほんのり感じる卵の気配が…。
牛乳は卵と同化してコクだけが一段と強い。
「ん~~!、これよね~ふわふわ。」
「うん、スープに浸したパンより噛み応えはあるけど柔らかくて美味しい。」
与一君は私の予想通りフレンチトーストを気に入ったみたいだ。
パンも食べ方や料理の仕方次第で好きにも嫌いになる事を今回学ぶいい機会だった。
「菜ちゃんよ、時次から聞いたか?」
ふとやすさんからそんな事を聞かれた。
「いえ、何も。どうしたんですか?」
「いや、時次が自分から話に来るだろう。今のは聞かなかった事にしてくれや。」
毎日、おにぎりを受け取りに時次さんは来てるけど、何も言ってない。
いつも世間話をして帰って行く。
私は頭を傾げると、やすさんに気にするなと言われてしまった。
夕方になる頃に牛小屋の様子を見に行くと完成していた。
「いいところに見に来たな。ちょうど出来たところだ。雨風しのげる程度の簡単なものだがな。」
まさか一日で出来るとは思わなかった。
「お疲れ様です。早速、入れてみますか?」
「えっ!時次さん!!いつの間にいたんですか。」
仕事に行っているはずの時次さんがいて驚く。
「結構前からお邪魔してやすさんと一緒に小屋を作ってましたよ。もしかして、気付きませんでしたか?」
「はい…全く気付きませんでした。」
裏口から見えるのに気付かなかったな。
完成した牛小屋に早速もっさんを入れてみる。
もっさんは嬉しそうに尻尾を振っている。
「もっさん、良かったね。」
もっさんの頭を撫でながらやすさんにお礼を言う。
「やすさん、時次さんそして与一君。ありがとうございます。」
「男冥利に尽きるな~おい。言っとくが金はいらねぇからな。菜ちゃんの飯も食ったし、与一も世話になってるからな。俺からのお礼だと思って受け取ってくれ。」
私がお金の話をする前にやすさんに断られてしまった。
少し悩んだけどありがたく利用させて貰う事にした。
「ありがとうございます。大切に使わせて頂きますね。」
「おう!それとよ…気になってたんだが……もっさんってその牛の名前じゃねぇよな。」
やすさんが疑いの目で私を見る。
「この子の名前ですよ。」
「「………。」」
質問したやすさんだけじゃなくて時次さんまでも複雑そうな顔をしてる。
いつの間にかやって来た与一君はあきれ顔だ。
可愛い名前だと思うんだけどな。
それから三人に私の感謝の気持ちのおにぎりを渡した。
今回はお礼だから代金は無し。
「おっ悪いな。俺の分までありがとよ。じゃあな~。」
「俺まだここにいる。」
「与一、いいからさっさと帰るぞ。」
やすさんはおにぎりを貰うと与一君を引きずって帰って行ってしまった。
私と時次さん二人っきりになる。
次回もお楽しみに!