おしぼりとお冷そして提案
翌朝、よしさんと一緒に朝と夜のご飯に食べる山菜を探しに行った。
山菜の中にはふき、たけのこ、キイチゴ、しそなど私が知っているものもあった。
逆に私の知らないものもあり、うわばみそう、やまもも、やまぐわ、やぶかんぞうなど色んなことを教えてくれた。
今日、採ってきたのは、ふきとたけのこが大半をしめた。
少し多めに採っても問題ないとよしさんに許可をもらい、店に出す試作ように多目に採ってきた。
朝ご飯を食べ、店の準備をする。
今日は、自分の考えたサービスがどこまでこの時代の人に通じるか試す日。
会社でのプレゼン前の緊張感を思い出す。
深呼吸していると、よしさんに背中をポンと優しれる。
「さぁ、今日も一日よろしくね。」
「はい、よろしくお願いします。」
よしさんに背中を叩かれたら、さっきの緊張がほぐれた。
店が開店してからほどなくして一人目のお客さんがやって来た、やすさんだ。
やすさんは昨日と同じ席に座り湯漬けを一つ頼んだ。
座ったやすさんに冷たいおしぼりと冷えたお水を差しだす。
「お仕事ご苦労様です。良かったら、このおしぼりで手を拭いてください。後、お水置いときますね。」
「いやぁ〜、水は頼んでないが。」
「これは、サービスです。」
やすさんが首をかしげ、困った表情になる。
あっしまった、サービスって言葉ないんだった。
「ええっと、お金はいりませんから、どうぞ使って下さい。」
すぐに言い直して、おしぼりと水をすすめる。
「それじゃあ、遠慮なく使わせてもらうかな。」
最初におしぼりを手に取り、手を拭くと感心したように声をあげた。
「おお!これはいいや、冷たくてありがてえ。」
よほど気持ちよかったらしく次は顔を拭き始める。
現代でもよく見る風景だ。
懐かしくなり、少し笑ってしまう。
一通りおしぼりを堪能してから、次に水を飲む。
ゴクゴク喉を鳴らしながら飲んでいく。
一気飲みである。
そんなに水を飲んで大丈夫だろうか、まだ湯漬けがあるのにお腹に水たまってしまいそうだ。
やすさんは空を見上げ、勢いよく湯飲みを自分が座っている長椅子に置いた。
「ぷっはー!くぅぅー、美味い!」
なんだかビールを飲むおじさんの姿がやすさんの姿と重なる。
そっと、水をたす。
「水ってこんなに美味かったけな。いや~、冷えてていいな!」
よしさんの井戸は木々のおかげで夏場でもとても冷たい水をくむことが出来るのだ。
だから、おしぼりも水も冷たく美味しい。
「ありがとうございます!」
たった二つのことを増やしてみたけど、こんなに喜んでくれるなんて思わなかった。
面白がってくれる程度だと思っていたので、うまくいってくれて良かった。
やすさんはその後、湯漬けを一つと水を四杯飲んで仕事に戻って行った。
さすがに飲みすぎだとよしさんに止められていて、私もそれには大きくに頷いた。
他のお客さんもやすさんと同じく最初は戸惑っていたが、最後はとても喜んで帰って行った。
また来ようかなという声も聞こえてきて、そのとき心の中でガッツポーズをした。
店も一段落し、お店を閉める
私にはこれからもう一つ仕事が残っている。
ご飯支度を始めようとするよしさんに今日は自分が夜ご飯を作りたいと言うと、よしさんはいいよと答えてくれた。
今作るご飯が美味しいければ、店に出していいか聞こうと考えている。
この時代にある調味料は主に、味噌、塩、酢、酒,唐辛子だそうで醤油はまだないようだ。
ちなみにこの台所には酒は無かった。
今日の朝採ったふきとたけのこを並べる。
ふきの下ごしらえから始めよう。
まずはお湯を沸かし、その間にふきの葉がついているところと茎の部分にわける。
切ったふきに塩をかけ、まな板に少し押し付けながら手のひらで押す。
そうこうしていたら、お湯がわいたのでそこにふきをいれ、四分くらい茹でたら水に入れて荒熱をとる。
そうすることで、食感や色などが保たれるらしい。
そして、ふきの皮をむいて、完成。
このやり方はおばあちゃんに教えてもらった。
覚えていてよかったとおばあちゃんに感謝した。
たけのこの下処理はよしさんが朝してくれたので後は料理するだけになっている。
出来れば湯漬けというイメージは崩したくはないけど、たけのこがあるならあれが食べたいと思ってしまった。
たけのこご飯食べたい、個人的に。
よし、一つはたけのこご飯にしようと決める。
たけのこを食べやすい大きさにスライスする。
玄米をいれ味噌を投入、水によく混ぜる。
そして、さっき切ったたけのこを玄米の上にのせ、後は炊けるのを待つ。
炊ける間にふきを使った料理を作っていく。
ふきを細かく切り、唐辛子は輪切りにして味噌にあえる。
次は、鍋を用意してさっき味噌に混ぜたものを水分が飛ぶまで炒めたらふきの辛味噌の完成だ。
ご飯にのっけるだけでも美味しい。
おかず要らずとはまさにこのこと。
後はたけのこご飯が炊けるのを待つだけ。
味噌のいい香りが部屋に広がっていく。
あ~美味しそうだ、匂いだけで唾液が止まらない。
「あら、味噌のいい匂い。」
よしさんが家に入って来た、手には洗濯物がある。
どうやら、外に干していた洗濯物を取り込みに行っていたようだ。
「そろそろご飯出来るので、座っていてください。」
よしさんは洗濯物をたたみ終えると囲炉裏の近くに座った。
窯の中を開けると、ふんわりと味噌の匂いとたけのこの匂いが湯気と共に香る。
「たけのこご飯から食べてみてください。」
自分が食べたくて作ってしまったけど大丈夫だろうか。
普通たけのこご飯ってだしとか醤油を使ったものが主流のところを、今は味噌しかないので味噌にしちゃったし…。
「じゃぁ、ご飯から頂くわね。」
一口ご飯を食べ、俯くよしさん。
しょっぱかったかな、それとも米の炊き方が悪かったとか頭の中を嫌な思考がグルグル回る。
「これ、凄く美味しいわね。味噌とたけのこってご飯に合うものなのねぇ。」
一口、一口味わいながら食べるよしさんを見て安心した。
私も口にたけのこご飯をふくむ。
炊き立てなのでハフハフしながら食べる。
味噌味のごはんとたけのこのが何とも言えない、たけのこの食感もシャキッと歯ごたえがあり、とても美味しい。
ふーと息をついてもう一口ハフハフしてまた食べる。
味噌とたけのこの風味が口いっぱいに広がる。
「ふ~…美味しい。」
幸せってこうゆう時のことだよねぇ~。
はっ、いけないふきの辛味噌がまだ残ってるんだった。
よしさんも半分食べていて慌てて、止める。
「よしさん、ちょっと待ってください。」
私は小皿にのっていたふきの辛味噌を自分のたけのこご飯にいれ、最後にお湯をかけて混ぜた。
たけのことふきの味噌湯漬けの完成。
これだったら、忙しい人でもサラサラ食べれると思い考案したのだ。
よしさんも私を真似て食べていた。
味噌でコテコテになりそうなところを唐辛子がピリッといいアクセントになっている。
具材もたけのこだけではなくなり、ほろ苦いふきもくわわって食感も二つ中々面白いと思う。
ほっとする味だ。
よしさんの様子を伺う。
「本当に美味しいわ。店で出したいくらい。でも…」
よしさんは言葉を濁らせた。
私はよしさんの言葉を待った。
「毎日同じものが採れる訳じゃないからこの料理は無理かもしれないねぇ。」
私はその言葉を聞きほっとした。
まずいわけではないらしい。
大丈夫、無かったら毎日違うものを入れて作ればいいだけの話。