二人の店員
ある天幕にあった白い粉の前で足を止めた。
これは…もしかして…。
私の想像している物と違うこともあるので一応店員に確認してみる。
白い粉と言っても色々あるし…。
「あの~すみません。こちらの白い粉ってどういう物ですか?」
店には二人の店員がいて二十代ぐらいの若い男性ともう一人は三十代ぐらいの男性がいた。
私の問いには二十代ぐらいの男性が答えてくれた。
「あぁ、これか。これは饂飩粉だ!お前そんなことも知らないのか…大体見れば普通わかるだろ…。」
うどん粉!ということはうどんが作れるって事だよね。
後、もしかしたらパンとかも作れるかも…。
まさか、戦国時代に小麦粉があるとは…盲点だった。
麦があるならそうだよね、あるよね小麦。
この若い人の口の悪さは無視しよう…。
値段を聞くと何とお米よりも安くて驚いた。
「では、このうどん粉をください。」
「はいよ。」
口が悪い男性が枡で小麦粉を布の袋に入れていく。
現代の小麦粉は真っ白って感じだけどこの小麦は少し黄色っぽいような気がするな。
ちょっと多めに買い帰ってうどんを作ってみようと思っている!
久しぶりに麺を食べれるかもしれないのでテンションが上がる。
今まで黙っていた三十代ぐらいの男性がクスリ
小麦粉で少しはしゃいでいたのがばれたのか私を興味深々な目で見ている。
心の中ではしゃいでたつもりだったのに…表情にでていたらしい。
冷静さを装いながら話す。
「はい、うどんを作ろうと思ってます。後は…天ぷらも作ってみたいなと思ってますかね~。」
うどんの付け合わせに天ぷらをつけてもいいんじゃないかと思っている。
やすさんから貰った卵もあるし作れるんじゃないんかな…。
朝採れた山菜もあるしね。
早く帰ってサクサクの衣を食べたい!
それよりもこの二人さっきから眉間にしわを寄せ首を傾げている。
せっかくのいい顔が台無しだ。
二十代の男性の方は爽やかな青少年といった感じだろうか…先輩にも後輩にも愛される感じの子だな。
三十代の男性の方は…大人の男性の色気が強いって感じだろうか…私の苦手なタイプの人だ。
「あのさ…お前もしかして最近三色おにぎりっていう変わったの売ってる料理屋の奴か…。」
確かに味が違う三色のおにぎりを売っている…私が働いている料理屋で間違いないだろう。
変わってるは一言余計な気がする。
二十代のこの男性…私がお客さんだってこと忘れてないか。
「言っている所かどうかはわかりませんけど、確かに私が働いている所で三つのおにぎりを売っていますよ。」
「やっぱり噂のお嬢さんか。お嬢さんの料理一度食べてみたいと思っていたんだよ。今度食べに行ってもいいかな?」
三十代の男性が手を取りウインクをする。
うわっ…、様になってるけど私からしたらただただ気持ち悪いだけだ。
苦笑いをしながら手を剝がしにかかった時だった。
私の手を私よりも白い手が掴む。
「私の連れに何の用?」
後ろを見るとりゅうさんがいた。
小麦粉があることが嬉しすぎて忘れていた…。
社会人として恥ずかしい…仕事中だったのに後で謝らなくては…。
後ろから抱きしめているような体勢になっているのは……意識しないように心掛けよう。
恥ずかしがる私とは裏腹にりゅうさんは店の三十代の男性とにらみ合っている。
「いや~、とても可愛らしいお嬢さんだったからな…。まさか連れがいるとは思わなかった。何せ近くに居なかったからな。」
この短時間に二人の間で一体何があったのだろう。
今会ったばかりにしてはすごく仲が悪いような…。
気まずくなり二十代の男性に話しかける。
「あの、代金支払いますね!」
懐からお金を出そうとするとさっきまでにらみ合っていた三十代の男性に止められた。
「いや、代金はいらない。君の手に触れられた事が代金さ。」
いや、どんな反応すればいいかわからない。
ただただ気持ち悪いだけなんだが…後ろで黄色い声が上がる。
りゅうさんがお金をその男めがけて投げた。
「釣りはいらない。…行くよ…。」
私の手を掴んだまま歩き始めた。
後ろで二十代の男性が怒りをあらわにしていた。
「てめぇー!!」
それを手で止め、三十代の男性が私に声を掛けた。
「俺の名は虎。約束忘れないでくれよ。」
私と目が合いニコリと微笑む。
後ろで私たちの様子を見ていた女性たちが黄色い歓声をさっきよりも大きく上げる。
今だけはこの女性たちの気持ちが分からない…どこがいいんだこの人の…。
私はりゅうさんの後をついて行った。
「信玄様、いいんですか!あんな事させといて!」
怒りが収まらない様子の男性をなだめる。
「幸村…今は虎だ、その名を今は呼ぶな。あの軍神の面白い顔が見れたから良しとしよう。」
「すいません。ですが…。」
女性に手を振りこちらを見ている女性をあしらう。
「今日は早めに店じまいだ。お嬢さんとの約束はしっかり守らないと。」
その言葉に幸村はぎょっとする。
「まさか…、今日行くんですか…?」
「あぁ、男に二言はないからな。もちろんお前も来るんだ。」
あからさまに嫌そうな顔をし返事をしない幸村に最後のとどめをさす。
「命令だ。お前も食べたいだろ。あの子が作る天ぷらとやら…。」
突然行った時の彼女の驚く顔を思い浮かべながら店じまいの準備を始めるのだった。