表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/151

梅のつまみ

店に戻るとよしさんが起きていた。


「おはようございます。」


「おはよう。今日は随分早く起きたのねぇ。」


「目が覚めちゃって。それで、井戸に行ったら時次さんの友人の方がいらっしゃって注文を頂きました。おにぎりと甘酒とこの持参した梅干しでの料理だそうです。」


今日の朝の出来事を話した。

よしさんは少し困っている様子だ。


「材料がないんじゃない?甘酒は無理なんじゃ…。」


その事について話そうと口を開いた時、外から時次さんの声がした。


「すいませーん。」


急いで外に向かう。

外には時次さんが立っていた。


「時次さん、おはようございます。材料の件ですよね。」


持って来るの早すぎるような気がするけど…。


「おはようございます。こちらが米麹です。私の友人も甘酒をとても気に入っていました。本当にありがとうございます。」


お辞儀をしたあと、米麹が入った袋を渡された。


「いえいえ、気に入ってくれて良かったです。確かに米麹受け取りました。ご注文の方ですがおにぎりと甘酒、後梅干しを使った料理でよろしいでしょうか。」


袋の中に米麹が入っている事を確認し、注文の内容の方も一応確認しておく。


「…梅干しの料理…ですか…。それは…初耳ですね。」


時次さんの眉間にしわが寄っている。

あれ…知らなかったのかな…。


「朝に時次さんのご友人さんに会いましてその時、梅干しを頂いてその梅干しで料理をして欲しいと言われたんですが…。」


時次さんの眉間のしわが深くなり、頭を抱えている。


「えっと、時次さん大丈夫ですか?」


ため息をついて時次さんはこちらを見た。


「はぁ…、聞いてなかったものですから。ではそちらもお願いします。いつも急にすいません。」


やっぱり、知らなかったんだ。

時次さんも大変なんだなと思い苦笑いしてしまう。


「大丈夫ですよ、仕事ですから。ご友人から先に頂いた代金ですがこれだと少し…嫌かなり多くてもしかしたら手持ちが無かったのかと思いましてこちらお釣りです。」


本当は作ってからお釣りを渡そうと思ったけど、代金が大きいのでなるべく早く解決したかった。

時次さんは一向にお釣りを受け取ろうとしない。

やっぱり…作ってからの方が良かったかな…。


「いえ、こちらはお釣りではなく、お礼分だと思いますので、貰っても大丈夫だと思いますよ。」


チップみたいな物だろうか。

だとしても多すぎる、一日の売り上げの三週間分くらいはある。

やっぱり受け取れない。

時次さんの手を取りその手に代金をのせる。


「これは受け取れません。」


時次さんは驚いた様子だった。


「受け取れない理由を聞いてもよろしいですか。」


代金が多すぎると理由もあるけど…。


「このお釣りがお礼の分のお金という事なら私の料理を食べてからでお願いします。今回の料理もお気に召すかわからないのに代金以上の金額は受け取れません。できれば、お礼と思うのでしたら代金を多くするよりも一品多くお料理を頼んでくれる方が嬉しいです。」


時次さんは私の話を聞いて頷いてくれた。

良かった、納得してくれたみたいだ。


「わかりました。このお釣りは受け取ります。」


代金の件はこれで大丈夫かな。

そろそろ山に行かないと店の開店時間になってしまう。


「私そろそろ山に行かないといけないのでこれで…。」


時次さんに背を向けた時、声を掛けられた。


「あの、私も一緒に行ってもよろしいでしょうか。」


特に一緒に行ってはいけない理由がないので承諾することにした。


「いいですよ。ちょっと待っててください。今準備してきます。」


急いで山に行く準備をして、時次さんと山に向かった。

私はいつもどおり山菜を採り、時次さんも手伝ってくれた。

その時にきゅうりっぽいものを見つけた。

気になり籠の中に何個か入れた。

そろそろ帰ろうと立ち上がろうとした時に時次さんが口に一指し指をおき、草むらを指さした。

指さした方向を目を細めて見てみるが何がいるかわからなかった。

おもむろに時次さんが下に落ちていた石を拾う。

狙いを定めて草むらに石を投げた。

バサッと何かが倒れる音がした。


「少し待っていてください。」


時次さんが石を投げた方向に歩いて行くとしゃがんで何か手に持った。

近づくにつれて手に持っているのが鳥だというのがわかった。

私はポカーンとしながらその光景を見て、拍手をした。

やすさんが昨日言っていたのは少し大げさに言っているとばかり思っていたけど本当だったんだ。


「私はあまり料理しないので貰って頂けると嬉しいです。今簡単にさばいときますね。」


そう言ってその場でさばき始めた。

料理しない割に刃物の扱いにに慣れている気がする…。

鳥はありがたく貰うことにした。


「ありがとうございます…。」


山での採取の手伝いといい、鳥といい時次さんなりのお礼なのかなと考える。

さばいている間私は少しだけ山菜の採取を続行した。

その後山を下りて時次さんと別れて店に戻った。


店が開店してからよしさんと交代しながら甘酒を作った。

今日も早めに売り切れたので店を閉める。

やっぱり、少しずつだけどお客さん増えてるような気がする。

毎日作る量を増やしているが近頃は毎日売り切れである。

繁盛することは嬉しいからいいけど、明日も作る量増やさなくては。

店は閉めたがまだ注文は残っている。

ひとまず、昨日と同じおにぎりを作った後に梅のつまみを用意する。

今日作ろうと思ったのは現代でもお馴染みの鳥ときゅうりの梅和えだ。

居酒屋とかにたまにある。

さっぱりしていて美味しいんだよね。

作り方も簡単だ。

問題はこのきゅうりもどきだ。

きゅうりぽいって理由だけで取って来たのできゅうりという保証はない。

きゅうりを切ってみるけど中は私が知っているきゅうりと同じ。

匂いもきゅうりの匂いがする。

味噌を用意してきゅうりもどきに付けて食べてみる。

うん、味も私が知っているきゅうりだ。

きゅうりが使える事を確認して料理を開始。

蒸した鶏肉ときゅうりと種を取り除いた梅、塩少々を混ぜ合わせる。

完成して、一息ついていた時、外からやすさんの声が聞こえた。


「菜ちゃん~。さば持って来たぞ~。」


外に出るとやすさんがさばを持ってよしさんと話していた。

桶の中にはさばが入っていた。

やすさんが私の顔をキラキラした目つきで見て来る。

あぁ…、これは私に料理してくれってことかな…。

やすさんの顔を見てよしさんと私はあきれながら笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ