芋煮会3
五郎さんの変わりように驚き、顔を上げるとそこには何と太郎さんが座っていた。
太郎さんは一緒に料理をした時、包丁の扱いが上手だったのが印象的だったのを覚えている。
流石料理屋さんの息子さんと言ったところだろうか。
それよりも………。
「太郎さん…いつの間に代わってたんですか。」
「さっき。チビ共がしつこく呼ぶから見に来れば…必死なお前と、手を切ろうとしてんのか腕を切ろうとしてんのか分からん五郎がいた。」
「あははは…。でも五郎さんも不慣れなりに頑張ってくれてたんですよ。だけど正直、太郎さんが来てくれて助かりました。私もこれ以上遅くなったら血まみれになる所だったので…。」
「………。」
太郎さんは何か想像し、ため息を一つこぼし黙々と里芋を剥いてくれた。
五郎さんはというと太郎さんがやっていた釣りを他の子供達と楽しそうにしていたのだった。
そして時々、太郎さんをからかいに来たりして皆で一緒に笑う。
そんなこんなで里芋は何とか全部剥き、材料も全て切り終わる事が出来た。
「待たせたな。ほら味噌に塩と…昆布と肉だ。肉は少ないが芋煮にするんだったら十分の量だろ。」
タイミングよく孫次郎さんが到着し、味噌の他にも様々な食材を持って来てくれた。
まさか出汁ように昆布も持って来てくれるとは…ありがたや。
「ありがとうございます!使わせて頂きます!」
まずは出汁を作るところから始めないと…。
えーと…。
「おいっ。お前、よしさんのとこの倅だろ。」
「…はい。」
「手伝え。菜、昆布で出汁を作ってるからお前は他の事しとけ。」
「は、はい。」
孫次郎さんが太郎さんに急に声を掛けるなり、一緒に料理をしようと提案するなんて思わなかった。
驚きつつ、私も私が出来る事を進める。
「といっても…切った材料を炒めるだけなんだけど。」
「でも大変でしょ?僕が師匠を手伝うよ。」
人数が多い分、腕力が必要になる。
与一君と協力して食材を炒める事にしよう。
「じゃあ、お願いしようかな。」
私達が材料を炒めている間、すぐ近くで孫次郎さんと太郎さんも出汁を作っていた。
「出汁を作った時は?」
「無いです。」
「そうか。なら覚えろ。出汁には昆布、鰹などが使われる事が多いが他にもー」
孫次郎さんがいっぱい話してる。
しかも料理の話を…だ。
私の時は私が女だからか中々話して貰えなかったのに…。
私と与一君は聞き耳を立てながら孫次郎さんのプチ授業を聞いていた。
孫次郎さんは私の知らない料理の方法も沢山知っていてとても勉強になる。
「………聞き耳を立てるのはいいがしっかり材料を炒めろ。」
孫次郎さんの話が途中で終わってしまった、と思っていると怒られてしまった。
私も与一君も話を聞くのに夢中で材料を炒める手が止まっていた。
慌てて手を動かした。
せっかくの芋煮が焦げてしまったら大変だ。
「出汁は準備出来たぞ。」
「はい、こっちもそろそろ入れてもいいと思います。」
私と与一君とで炒めた材料の中に昆布出汁を入れ、沸騰するまで待つ。
沸騰したら味噌を溶かしてまたひと煮立ちさせる。
仕上げに味見をし、塩を少々加えもう一度味見をする。
一つ頷き、固唾をのんで見守る子供達に笑顔で言う。
「芋煮完成!!」
次回もお楽しみに!