居場所
店を出た後、五郎さんと歩きながら皆の最近の様子を聞いていた。
「子供らは元気は変わらず元気だよ。元気過ぎなぐらい。」
子供達が元気だという事を聞いて一安心。
大丈夫だろうけど太郎さんの事も聞いてみる。
「そうなんですか。良かった。太郎さんは?」
「…太郎ね。太郎も一応元気だよ。」
五郎さんはお茶目な笑顔を曇らせ、何か言いたげな様子だ。
太郎さんの事で何かあったのだろうか。
「何かあったんですか?」
「うん…あった。あの日の夜。菜ちゃんとお寺で会った夜から数日でね。俺達の生活がちょっと変わってさ。それでちょっと元気が無い時がたま~にあるんだよね。」
私と会った夜…生活が変わったのはもしかして私のせい?
「って菜ちゃんそんな顔しないでよ。生活が変わったってむしろいい方向にって事だからね。」
「本当ですか?」
「本当に!!あれから俺らを使ってた権左衛門様がいきなり帰って来なくなってさ。噂じゃあ、死んだ~とか逃亡した~とかって話は耳にしたんだけどね。」
「そうなんですか…。でもそうしたら、五郎さん達の仕事は無くなったって事ですよね?」
「仕事はこのまま続けるよ。贔屓にしてくれるお客はまだ居るし、それに家が無い奴らにとってはこの一座が唯一の居場所だからね。まぁ、俺もその一人なんだけどさ~。」
五郎さんは私にウインクして見せた。
茶目っ気があるウインクを見て笑いがこぼれる。
「そうそう、菜ちゃんはそんな感じで笑ってないと。おっと着いた、着いた。ここが今の俺らの居住地です。」
居住地と言った場所は川の直ぐ近くで建物というと木の棒と布で出来た小屋よりも簡易的なものだけだった。
その中から知った顔の子供が目を輝かせて次々と出て来た。
「お姉ちゃん~!!」
「皆!!久しぶりだね!!」
来て早々、子供達に周囲を囲まれてしまう。
子供達の表情を見る限りでは元気なのは間違いないだろう。
太郎さんも遅れて小屋から出るとこちらにやって来た。
「意外と来るの早かったな。」
「太郎さん!お久しぶりです。この前は助かりました。ありがとうございます。」
「助かってなかっただろ。…助けられなくて悪かった。」
あの時、捕まってしまったが太郎さんのせいじゃない。
たぶんあの時は何をしていても捕まっていたと思うから。
「そんな事無いです。それに私が捕まった時、よしさんに言いに行ってくれたんですよね?」
「…言いに行っただけで何も出来はしなかったけどな。」
「太郎さんの行動が嬉しかったです。ありがとうございます。」
この事件で一体どれだけの人が動いてくれたのだろうと考えると感謝しきれない。
それと同時に胸も痛む。
私と太郎さんのやり取りを見ていた五郎さんはわざとらしい深いため息をついた。
「な~に、かっこつけてんの太郎。そこは…どういたしまして~でいいじゃん。」
「帰る…。」
「帰るってここが俺らの家だっつうの。」
太郎さんは怒ったのか背を向け去ってしまった。
もう少し太郎さんと話したい事があったんだけど…。
「菜ちゃん、心配しなくても時間を置けばまた戻って来るよ。」
「そうだといいんですけど…。」
その時、誰かのお腹の音が最大に鳴り、その犯人は直ぐに名乗り出た。
「あ~ごめん、ごめん。気にしないで。」
「五郎さん…お腹空いてるんですか?」
「全然!さっき食ったばっかだよ~。」
怪しい…。
五郎さんを観察していると子供達とも目が合ったが、珍しく目を逸らされてしまった。
これは………。
「五郎さん…ご飯食べましょう!」
次回はお楽しみに~