時次の怒り(時次目線)
和尚と話してから菜さんの様子がおかしい。
菜さんは私を避けるように離れて行った。
一体菜さんに何を話したのだろうか。
私は速足で和尚の元へ向かった。
「菜さんに一体何を話した。」
「そんなにあの娘が大切か?」
「………。」
その問いには答えられない。
答えてしまうと認めてしまう事になる。
「だったら早くあの娘を連れて京から出て行け。」
「っまさか…あの話を…。」
その一言で和尚が菜さんに何を話したのか、何故困ったような、悲しそうな顔をしていたのかがわかった。
もう少し、菜さんの気持ちが落ち着いてから話そうと考えていた私には予想外の事だった。
「貴殿がいつにたっても話さないのが悪い。私は貴殿より優しくは無いのでね。それに全て話した訳ではない。来る日までに料理を辞めるか、ここ(京)を出て行くかを考えておけと言ったまでだ。あやつにも考える時間は必要だろう。」
私の口から伝えるべき事を私以外の者の口から菜さんに伝わる事が許せなかった。
ましてこんな大切な話なら尚更だ。
拳を強く握りしめ、自分の不甲斐なさをこの場で鎮める。
「料理に関しては貴族連中も興味を持ちはじめている。私の方で貴族の方は何とかしよう。だが、お忍びで来た者などの対処までは出来ん。私が守れる範囲は限られる。」
あぁ…この人も私と同じか。
懸命に大きくなる気持ちから目を逸らし、それでも尚守ろうとしているのか。
「感謝します。」
彼はこれ以上彼女を守れないと悟り、私…もとい我が主に彼女を託したのだ。
今、彼女が幸せになる道はそこだと考えたのだろう。
ならば私も菜さんを我が主の元まで守りとうそう。
私は和尚に深く頭を下げ、菜さんを探す為にその場を去った。
次回お楽しみに!




