月見餅5
私が走ってお坊さん達の元へ向かうとまた大きな歓声が月夜に響いた。
月にいる兎にも届きそうだ。
私が来るや否や、玄道さんに勢いよく肩に腕を回された。
「やっと来たな。今日の主役がよ。お前にもこいつらが驚く様を見せてやりたかったぜ。」
玄道さんは楽しそうにカラカラ笑っていた。
お坊さん達からは感嘆の声が上がる。
「おい、おい、これが豆腐何だってな。驚かされたよ。」
「それも驚いたが俺はこの巾着に驚いた。」
「中に餅が入っているとはなぁ~。恐れ入るぜ。」
皆それぞれ話すので聞くのは大変だったけど、喜んでくれているのがわかって凄く嬉しかった。
それからもあのお餅があぁだった、この餅があぁだったと皆で料理の感想を終始笑いながら語り合った。
話も落ち着いた頃に永専君に声を掛けれた。
ゆっくり話せるように皆がいる場所とは少し離れたところで話す。
「菜さん、今日の料理は菜さんが作ったと聞きました。」
「うん、そうだよ。好きなお餅料理はあった?」
「全部好きだけど、最後の餅巾着が一番好きです。実は僕、豆腐が苦手だったのですが今日好きになりました。今日の感動を忘れないために餅巾着の絵を絶対書きますね!!」
とびきりの笑顔で永専君は餅巾着の感動を伝えてくれた。
改めて絵にしてくれると言われると照れくさくなってしまう。
「私も好きな料理だから気に入ってくれて嬉しいな。」
「菜さんに出会えて良かった。こんな楽しい日が来るなんて夢にも思わなかったです…。」
永専君は離れた場所にいる楽しそうな仲間達を見て言葉を詰まらせていた。
「私も永専君達に出会えて良かったよ。」
「本当ですか?僕達はあなた達に酷い事したのにですか?」
「確かに怖い事もあったけど、今はこんなに楽しいもの。こんなに沢山の人達と出会って仲良くなるなんて………私の方こそ夢にも思わなかった。」
この時代に来て最初は一人だったのに、ちょっとずつ…ちょっとずつ…家族と呼べるような人が増えて、怖いお客さんも楽しいお客さん同業者の優しい人に出会い、ひょんな事から和尚様ともお坊様達とも出会えた。
こんなに胸からはみ出そうな幸せはいつぶりだろうか。
「和尚様。」
永専君は私の後ろを見て深くお辞儀をした。
私も遅れて振り返ると和尚様が神妙な顔をして立っていた。
「お前に話がある。来い。」
「…わかりました。じゃあまたね、永専君。」
永専君は私にも丁寧にお辞儀をし、仲間達の輪の中に戻って行った。
「お話とは何でしょうか?」
「待て、その話をする前にお前の後ろにいるひっつき虫を何とかしろ。」
「へっ?」
後ろを振り向くと先程まで居なかった時次さんがすぐ近くにいて驚いた。
時次さんは和尚様をわかりやすく警戒し、和尚様と視線を組み交わしていた。
「時次さん?私は大丈夫ですから。もし何かあっても直ぐに時次さんを呼びますから。」
時次さんは私を心配そうな眼差しで見つめ、ゆっくり瞼を閉じた。
そして静かに頷く。
「…わかりました。直ぐに来ます。」
そう言うと時次さんは歩いて離れて行った。
これで和尚様とゆっくり話が出来る。
和尚様は時次さんが離れた事を確認すると重い声で話し始めた。
「もう…料理はしない方がいい。」
次回もお楽しみに〜