じょっばいお餅
まだ油揚げの存在を知らない彼らの反応は仕方ない。
「これ、すっごく美味しいんですよ。ふわっとなるんです。」
「これがかぁ?」
玄道さんは疑いの目で豆腐を見る。
実はこの時代の豆腐を食べてわかった事がある。
現代の豆腐より硬く、それは恐らく木綿豆腐ではないかと。
「はい、油で揚げるとふわっと仕上がるんですから。」
「油か…。確か…前にも似たようなもん作ったな。」
「それは厚揚げ豆腐ですね。表面だけ揚げたものですが、今回は違います。」
木綿豆腐は崩れにくいので、油を使う料理とは相性抜群なのだ。
だから、彼らに油を使う料理を以前にすすめた。
「最初はなるべく豆腐の水けを取ります。しっかり取らないと美味しくならないのでここは徹底してやってください。」
「だからかぁ。さっきお前、水けが無い事に喜んでいたもんな。」
油揚げを作るにはこの作業が一番大切で、ここを適当にやってしまうと油に入れた時に油が跳ねてしまったり、食感も美味しくなくなってしまったりするのだ。
「渇いた布でしっかり水分を拭き取った後は豆腐を指一本ぐらいの薄さで切っていきます。この時また水が出てきたら拭き取ってくださいね。」
「わかった。」
私が豆腐を切ると玄道さんは私が言ったとおり、しっかり水を拭き取ってくれた。
「次は低い温度……弱い火で油を温め豆腐をあげていきます。狐色になるまでしっかりあげてください。」
「弱い火かぁ…炭火の方がいいか?」
「そうですね!その方がよさそうです。」
この時代には弱火、中火、強火は存在しない。
薪に火を付けるのだが火加減は自然に強火になってしまう。
そこで弱火にする為に炭火を使って調整する事にした。
「そろそろお豆腐を入れてもいいかもしれませんね。」
豆腐を油の中に入れるとジュワ~っと大きな泡と共に油の音が響いた。
少ししたら豆腐をひっくり返し、反対側も同じ狐色に仕上げていく。
「おっ?両側ともいい色になってきたぞ?」
「本当ですね。じゃあ、一度油から取り出しましょう。」
「一度?」
「はい、火を強くしてからもう一度揚げるんです。そうすると外はカリっと中はふわっと仕上がるんです。」
「なるほどなぁ。」
玄道さんは興味深そうに頷いた。
次は油を強火で油を温めなければならない。
なので今度は火の上で温め、もう一度豆腐を揚げれば油揚げの完成である。
「出来ましたよ~。これが油揚げです。」
「豆腐だったとは思えない代物だな。」
私も大人になるまで油揚げの最初の形が豆腐だと思わなかったなぁ。
気付いた時はどうやって作るのかと不思議に思い調べてたっけ。
懐かしい月日の事を思い出しつつ、次の作業にすすむ。
「油揚げはこのまま塩を付けて食べても美味しいんですが…今回の主役のお餅があるので今度機会があったら食べてみてください。」
そう!!このまま食べても十分美味しいんだけど今回はもっと美味しくしていく!!
「この油揚げを半分に切ったら切り口を慎重に開いて、この中にお餅を入れます。」
「中にかっ!!お前も考えたもんだな!!」
いや、私が考えたわけでは無いのだが…。
玄道さんはお餅を中に入れるという発想は無かったらしく、興奮していた。
玄道さんは興奮はしていたものの油揚げの中を開く作業は丁寧で流石だなっと感心してしまう。
意外とこの油揚げを開く作業が一番難しく、不器用な人だと皮を破ってしまう。
「お餅を入れたら、開いている口をこの塩抜きしたわらびで結びます。」
「結べばいいんだな。」
玄道さんは油揚げに餅を詰めながらニヤリと笑う。
「こん中に餅が入ってると皆思わんだろ。反応が楽しみだ。」
いたずらっ子のような笑みを浮かべる玄道さんは作った餅巾着を持っていこうとする。
どうやらこれで完成だと勘違いしているようだ。
「ちょっと待って下さい!まだ終わってませんよ。」
「これ以上何を?塩を付けて食うんじゃないのか?」
あ~なるほど。
私がさっきこのまま食べるなら塩で食べても美味しいと言ったので、これで完成だと勘違いさせてしまったらしい。
「油揚げだけだったらそれでもいいんですけどね。でも今回はさっきも使ったきのこの出汁がきいたお醤油を使いましょう。その汁に餅巾着を入れてから少し温めて完成です。」
透き通ったお汁に餅巾着が浮かぶその姿を見た玄道さんが喉を鳴らす。
「たしかに…こりゃ…(ゴクリ)美味そうだ。」
さっき水分が抜けた豆腐を見て嫌そうな顔をしていた人には見えない。
クスッ、餅巾着作って良かった。
「これで全部ですね。皆の所に持っていきましょう。」
全ての料理が無事完成し、月夜がよく見える空の下に運ぶ。
次回もお楽しみに~