楽しいひととき
お寺に着くと門を叩く前に人が出てきた。
凄い剣幕で現れたのは連雲さんだった。
これは…怒られる予感。
でもまだ来たばかりなんだけど。
「遅い!!お前はのろまにもほどがある。和尚様を待たせるなんて…身の程をだなー」
連雲さんも怖いがそれよりも私の後ろにいる時次さんの方が怖い。
なんとなく…なんとなく!怒っている気配がする。
誰か!!助けて!!っと心で叫ぶとその願いが天に伝わった。
「菜さん、いらっしゃたのですね。門の前では何ですからどうぞ中に。和尚様もお待ちしています。」
「専寿さん!お元気そうでよかったです。」
神様は本当にいるのかもしれない。
思わぬ救世主登場のお陰で騒ぎを起こす前にお寺に入る事が出来た。
専寿さんについて行くと、月夜の寒空でなにやらお坊さん達がワイワイ騒いでいる。
「なんだかとっても楽しそうですね!」
「えぇ、今日は餅つきをしようという話になりまして。和尚様がせっかくですから菜さんにも、と。大勢で食べた方が美味しいですからね。」
「クスッ、確かにそうですね。」
専寿さんと談笑しつつ楽しそうなお坊さん達を見ていると、懐かしさを感じる小さな背中がそこにあった。
専永君が無邪気に笑う顔を見て安堵する。
遠目から見ていると専永君とバチリと目が合った。
「菜さんっ!!」
専永君が私の名前を言うと、周りのお坊さん達は一瞬騒ぐのを辞めこっちを見た。
久しぶりに会う彼らに何と話しかけたらいいかちょっと悩んだ。
それで結局…。
「お久しぶりです…。」
「さいぞうっ!!いいところに来たな。こっち来い。」
お坊さんの一人が私を手招きする。
私はゆっくりと彼らの元に向うが、ちょっと緊張していた事もあり足取りは重い。
それに気付いたのか気付いていないのか、専永君は走って来て私の手を引いてくれた。
「ほら、菜蔵は杵を持て。」
いきなり餅をつく方の道具を持たされる。
これは…思った以上に重い。
「うっ…重い。」
「ほら、早くつけ、つけ!」
周りのお坊さんにせかされながら、見よう見まねでついてみようとするが杵を持ち上げた手が重さで震えた。
その震えた手は杵の先まで伝わり、餅米に不自然な形で不時着する。
そんな私を見てお坊さん達は大笑い。
「もう一回!」
恥ずかしいような悔しい気持ちになった。
もう一度ついてみるが上手くいかない。
それを見かねて周りのお坊さん達が丁寧に餅のつき方を教えてくれた。
気付いた頃には緊張は何処かに吹き飛び、私はいつものように笑っていた。
私がお坊さん達と餅をついているといつの間にか和尚様が来ていた。
そんな私を見て和尚様は呆れていた。
「挨拶も無しに先に参加とは…。あきれる。」
「それは私が謝りましょう。」
和尚様の側にいた時次さんが軽く頭を下げると、和尚様は不満げにため息をこぼした。
「はぁ~。…貴殿に謝られてもな。変な娘だ。何故あそこで笑ってられるのか理解出来ん。」
お坊さん達と笑い合う私を和尚様はじっと見つめる。
和尚様の言葉に専寿さんが可笑しそうに笑った。
「ふふふ。」
「おい、専寿何故笑う。」
和尚様は笑う専寿さんを睨んだ。
「いえ、和尚様が珍しく嫉妬していらっしゃると思いまして。」
「何だと…。誰がこむすっー」
「大丈夫です。私達は和尚様のお傍にいます。」
「………。」
傍で話を聞いていた時次さんは和尚様が和尚様でよかったと思い、そして楽しそうに笑う彼女をなるべく和尚様に近づかせない事を静かに誓った。
次回もお楽しみに~