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和尚の叫び2

和尚は私の一言にギロリと目つきを変えて胸の奥底から出すような声を出し、持っていた扇子を床に投げつけた。


「私が好き好んでしてるとでも?寺の維持、友の命、両方救うには大金と犠牲がいる。ここよりもそいつらに合った生きる道はある。たとえ、仏の教えに背こうが、私にはここを守る義務があるのだ。」


和尚さんの事を皆、裏切れなかった理由がちょっとだけわかった。

友達を売ったお金で自分達は守られ、それに報いるためには夢を叶えるほかなかったのだろう。

でも和尚さんが言った犠牲にはこの人自身も入っている事に気づいているだろうか?


「もっと…自分を大切にして下さい。」


以前私が貰った言葉をそのまま和尚さんに贈った。

そして私は後ろに歩いて行き、ふすまを勢いよく開けた。


「うわっ!!」


ふすまの先には僧侶さん達の姿があった。

和尚さん、貴方が思っている以上に貴方は愛されてますよ。

私は僧侶さん達の前に座り、頭を下げた。


「僧侶さん達の気持ちも理解はしました。今度は守られるだけじゃなくて、和尚さんを守ってあげてください。このままじゃ、ボロボロになっても守り続けてしまいそうです。お願いします。守ってあげて下さい。」


後ろから和尚様の途切れそうな声が聞こえた。


「………何故…お前が…。」


この人を助けられるのは側にいた僧侶さん達しかいない。


「…そのお約束必ずお守り致します。我が友よっ。」


僧侶さん達は次々と頭を下げ、約束してくれた。


「和尚様、昔のように何も無い所から一からやり直しましょうっ。」


和尚様を見る僧侶さん達の目は涙でいっぱいになっていた。

全員さっきの苦しそうな顔から満面の笑みがこぼれていた。


「………苦しい日々がまた来ることになる…。それでもか?」


「望むところですっ!!」


「そうか…。」


和尚様の最後の声は少し嬉しそうな声だった。

僧侶さん達のお陰でこの場は治まりそうだ。

これで私の売り買いも無しになり、権左衛門は悲しげに帰って行った。


本当はもう少しだけ和尚さん達とお話をしたかったけど…今はお邪魔しない方がよさそう。

私は転がっていた和尚様の扇子を広げ、甘くて美味しい干し柿を一つ置き、急いで心配するよしさん達の元へ帰ったのだった。


「さい…さいっ…菜!!あんたっ!!」


「すみません。ご心配お掛けしました。」


よしさんのお店に帰るとよしさんに力一杯抱きしめられた。

どれほど不安にさせてしまっただろう。

外で抱きしめあっているとやすさん、孫次郎さんも走って外に出て来た。


「菜ちゃんよ、いなくなるならちゃんと言ってからいなくなってくれや。」


「やすさんにもご迷惑おかけしました。与一君を巻き込んでしまって…。」


「いやぁなに。どうせ与一が勝手について行ったんだろ。与一よ、随分短い家出だったな。」


やすさんは与一君の頭を優しく、強く撫でまわし、与一君は少し照れくさそうにその大きな手を受け入れていた。


「ふん…。」


やすさんの元に無事に与一君を帰せる事が出来て良かった。

やすさんはあんな事言ってるけど絶対心配してたはずだから。

孫次郎さんは私と与一君の無事を確認するとわかりやすくホッとした顔をした。


「菜、与一、よく無事で帰って来た。おいっこら、お前は座ってろ。」


大きなお腹で店から出て来たのは初さんだった。

初さんのお腹は私が見ない内にだいぶ大きくなっていた。


「菜…。まったく、あんたって子は…。」


「…すみません。」


初さんは私を背後から抱きしめた。

母のような二人の腕の中は温かく、優しく、強さをを感じ、私も涙が溢れた。

遠目で私達を見ている時次さんとやすさんが何やら話している。


「これで一件落着って奴か?時次…ありがとよ。」


「いえ、私は何も。」


「ったく、お前は何でも出来るが、人の恩を素直に受け取らねぇ。たまには感謝の言葉ぐらい素直に受け取りやがれっ。」


「ですが…私は本当に何も出来ませんでしたから。菜さんにはやはり敵いません。」


抱きしめられていた私は身動き取れない状態だったが時次さんと目が合う。

その眼差しは何故か少し寂しそうに見えた。

私の気のせいだといいんだけど…。


「うっ…、お腹がっっ!!」


初さんがお腹を抑え苦しみ出した。

これはっ!!もしかして…陣痛?!




次回もお楽しみに~

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