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和尚の叫び1

和尚の部屋までたどり着くと、時次さんは私の方を振り返った。


「一つ、私と約束をして下さい。私から離れないで。」


「はい、わかりました。」


私が頷くと時次さんも頷いてからゆっくり部屋に入った。

時次さんの後に私も続いて部屋に入ると、権左衛門さんと目が合ってしまう。

うっ…最悪だ。


「おぉ、菜蔵!」


権左衛門さんに名前を呼ばれ、私はつい時次さんの背中に隠れる。

どうやら苦手意識が付いてしまったらしい。

どんなに嫌な相手でも昔はここまで露骨な態度は取らなかったのにな。

自分の変化に少し驚きつつ、和尚に視線を向けた。


「おやおや、寺内が静かになったと思ったら…上杉の方が何か御用でしょうか?名は確か…影持(かげもち)殿でしたね。」


やっぱり時次さんって本当の名前じゃなかったんだ。

最初の頃に抱いた違和感がここでようやく解決した。


「以前お話させて頂いた通りです。」


「あぁ、あのお話ですか。確か…貴方もその娘を高値で買い取るとか。」


えっ?

そんな事になっていたとは知らず驚く。

そしてその話を聞いて黙っていなかったのは権左衛門さんだ。


「なっなんだとっ!!和尚、わしはその話知らんぞっ!!」


どうやら権左衛門さんも今知ったらしい。

顔を真っ赤にして怒る権左衛門さんを和尚さんが鎮める。


「落ち着いて下さい。権左衛門殿にお伝えしなかったのはその話を受けるつもりが無かったからです。」


「そっ、そうか。」


権左衛門さんは胸を撫でおろし、喜んでいるように見えた。

そして時次さんが真直ぐ和尚を見たまま話す。


「なるほど…。貴殿が何故上杉と手を組まず、そこの一商人と手を組むのか今のやり取りよくわかりました。」


「………。」


和尚は無言で時次さんを見つめていた。


「そこの一商人の方が操りやすいからでしょう。我が主は神仏に熱心なお方、それを知っていて私達を敵に回しても(ここ)にいる限り手は出せないのを貴殿は知っていた。それに今まで通り自由に子供らを売る事も出来なくなると思ったのだろう。」


「ふん、知った口を…。」


「二十八。」


二十八?一体何の事だろうか?

ただその数字を時次さんが口にした途端、和尚は薄っぺらい笑顔をやめた。


「貴殿はここ数年二十八人になるように僧侶の人数を調整していた。そして二十八人以上になれば見込みのない者から売るのを繰り返し、金を増やしていった。」


時次さんが言っている事を聞いている限りでは酷い話だ。

でもずっと時次さんが丁寧に和尚さんと話をしている事に深い理由があるのではと思った。

僧侶さん達が苦しみながらも和尚さんの指示に従った理由も知れるかもしれない。

だから私も真剣にこの人に向き合おう。


「どうしてそんな事をしたんですか?」


「お前のような小娘には到底理解できない。私の苦しみは…。」


「理解出来ないから知りたいんです。」


「知りたいか…。では小娘、お前目の前で腹を空かせて死んでいった者はいるか?二日、三日、水と草土で空腹を紛らわせた事は?」


「…ないです。」


そんな経験した事ない。

和尚は馬鹿にしたように鼻で笑った。


「だろうな。神仏の教えを教えるにも紙も筆も買えず、土に文字を書き。それでも耐えられたのは高僧になるという死んでいった友との約束を果たす為だった。だがいざ総本山に行って見ればどうだ?いくら勉学に励んでも、修行しても一向に私の階級は上がらない。理由は何だったと思う?」


私に和尚は問うが、当然私は答えられない。

黙ったままの私をおいて和尚は答えを言った。


「私が一番貧乏だったからだ。総本山に来た当初、着る服全てほつれ、初めて紙に書く文字は不格好。皆に笑われたよ。お前は一生そのままだってな。」


「だから私は一度総本山を離れ、金を集めてからもう一度総本山に来た。皆、私の事など忘れてくれていて助かったよ。小綺麗にして上の連中に金を握らせれば、あっという間に高僧になる事が出来た。世の中全て金だと悟ったのですよ。」


「だからって人を売ってお金にするのは…。」


理不尽な世界で生きていく為の道具がお金…。

でもやっていい事と悪い事がこの世にある、それはこの人が一番わかっているはずなのに。



次回もお楽しみに〜

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