希望の光3
だがいつになっても痛みは襲ってこない。
それどころか誰かに抱きしめられている?
背中にぬくもりを感じ目を開けると、私に向けられた小刀は私に届く前に止められていた。
「遅くなって申し訳ありませんでした。菜さん。」
「時次さんっ!!」
あの手紙はどうやら嘘じゃなかったらしい。
時次さんの顔を見た途端、心の底からホッとした。
もうこれで大丈夫だそう思った。
「っっお前、何者だっ!!」
「僧侶が武器を持ち、自らの欲の為に民を傷付けるとは…。」
時次さんが今まで聞いた時のない冷たく低い声で睨みつけた。
私を抱いている体からも怒りが伝わってくる。
時次さんの後に遅れてやって来た玄道さんが見えた。
「殺されたくなければ、その汚れた刃を治めろ。」
今ここにいる人は本当に時次さんなのだろうか?
強い口調と冷めきった瞳が怖い。
だが連雲さんは小刀を治める様子は無い。
「そうか…。」
このままでは本当に時次さんが人を殺してしまうような気がした。
そんなの見たくない。
「時次さんっ駄目です!」
時次さんに訴えかけると、時次さんが先程までの冷たい瞳から優しい眼差しに変わる。
「大丈夫ですよ。ここを血で汚したりはしません。」
その言葉に嘘は無いだろうが、何故か背筋がゾクリとした。
時次さんはため息を一つこぼす。
そして連雲さんが持っている小刀をはじき返し、手首を叩くと小刀が地面に落ちた。
もうこれだけで力の差が歴然とわかる。
「私はここで少し用事があるので、菜さんは一足先に与一君と帰っていて下さい。」
きっとここは時次さんの言うと通りにするべきなんだろうけど…。
「私も一緒に行かせて下さい。知りたい事があるんです。」
「………わかりました。」
時次さんは少し考えた後に頷いてくれた。
もう一度、あの和尚に会って聞きたい事があるんだ。
与一君と目が合うと盛大にため息を付かれてしまう。
「はぁ~、ささっと帰ればいいのに…。じゃあ、僕もまだここに残る。師匠と一緒に帰らないと意味が無いもん。」
「ごめんね。ありがとう。」
与一君はしかめっ面をしたまま、手でシッシッと私達を追いやった。
時次さんと私は目を合わせて笑った後、与一君達をその場に置いて和尚の部屋に向かった。
和尚の部屋に向かっている時にある僧侶に手伝って貰った事を時次さんから聞いた。
「助けるのが遅くなって申し訳ございませんでした。実を言うとあの手紙を出した後、和尚に面会を断られてしまいまして。理由を探ったら菜さんが売られる日だという事が判明し、急いで寺に来たものの取り合って貰えなかったのです。」
「そうだったんですね。」
遅くなっても助けに来てくれた時次さんは感謝しかない。
それは早かろうが遅かろうがその気持ちは変わらないだろう。
「なので寺に侵入し、寺の様子を伺っていたら料理場で一人の僧侶に会ったのです。」
「玄道さんですよね?」
「はい、そうです。以前私が手紙を渡した方です。その僧侶に協力して菜さんがいる場所を教えて貰ったという訳でです。菜さん達も逃げていたようだったので中々合流出来ず遅くなってしまいました。すみません。」
「時次さんがどうして謝るんですか。私こそじっとしていなくてすみませんでした。そしてありがとうございます。時次さんが助けに来てくれて嬉しかったです。」
時次さんが優しい笑みを浮かべた。
久々に見るその破壊力抜群の笑みは今の私にはつらいものがある。
自分でも顔が少し熱を帯びているのがわかった。
「貴方はどんな時でも変わらず貴方のままなのですね。どうか…そのままで…。」
「えっ?」
「いいえ、何も先を急ぎましょう。」
時次さん…何か言っていたような気がしたんだけど…。
何とか第二章のラストスパートに近づいて来ました!
誤字脱字報告ありがとうございます!!
次回もお楽しみに~