一致団結4
翌朝の事だった。
まだ日が昇る前に専寿さんが起き出したのがわかった。
そして昨日届いた本を取り出し、床に広げ手を合わせていた。
「それって昨日のですよね…。ふぁ~。」
流石に昨日色々な事がありすぎて眠い。
専寿さんは正座をしたまま、私の方を見た。
「起こしてしまいましたか。すみません。まだ寝てて構いませんよ。」
「そんな訳には…。」
専寿さんもあんまり寝ていないだろうに。
私も重い体を起こして正座をした。
「どうしても目が冴えてしまって。せっかくですからこちらを使わせて貰おうと思いましてね。」
そう言うと専寿さんは本を開き、手を合わせお経を読み始めた。
読経が好きだというだけある。
専寿さんの声は妙に心地が良い。
心地が良すぎて…眠くなって…。
「菜殿、菜殿。」
「んんっ…。」
誰かに名前を呼ばれて目を開ける。
あれ…私いつの間に寝てたんだろう。
「すいません。気持ちよく寝ていた所を起こしてしまって。菜殿に渡したいものがあるのです。」
「私にですか?」
「はい、菜殿宛てです。経本に挟まれていました。」
専寿さんは綺麗に折りたたまれた紙を渡す。
これは…手紙?
手紙を開いて見るも最近字を習い始めた私に読む事は難しかった。
「申し訳ないんですけど、専寿さん読んで貰ってもいいですか。」
「わかりました。では少し拝借します。」
手紙を専寿さんに渡して読んでもらう。
「時次と言う方からですね。ご存知ですか?」
「えっ!時次さんですかっ!色々お世話になっていた方です。」
ここで時次さんの名前を聞くとは思わなかった。
だって遠くに行ってしまった人だと思っていたから。
「なるほど。では読ませて頂きます。二日後にお会いしましょう。それまで信じて待っていて下さい。以上です。」
それはとても短い文章だった。
時次さんの名前を聞いて嬉しく思ったけど、でも易々とこの手紙を信じていいものだろか。
「あの…この手紙誰から受け取ったとかわかりませんか?」
「朝餉の時に玄道に聞いてみましょう。何かわかるかもしれません。」
私達は専寿さんのお経を聞きながら朝餉を持って来る玄道さんを待った。
そして不覚にもまた寝てしまったのだった。
「師匠、ご飯だよ。まだ寝てるの?僕はもう起きたのに…。」
「うっ、ごめん。」
与一君に揺さぶられ起こされると、既に玄道さんが来ていた。
あの手紙について知っている事がないか聞かないと。
「玄道さん、聞きたい事があるんです。」
「菜蔵が寝ている間に専寿から聞いたよ。その手紙の事だろう。」
「はい、そうです。」
この手紙がどんな経緯で私の元まで来たのか知りたい。
そして信じたいのだ。
「まぁ、疑うのも無理ないか。だが安心しろ。それは俺が直接渡されたものだ。俺はお前らが知ってのとうり朝と夜の飯を作っている。だから材料を揃えるのも俺の務めだ。材料はいつもある店にお願いしてるんだが、その時に会った男に渡されたんだ。」
そして玄道さんが事細かにその時の事を話し始めた。
「材料は確かにこれで全部だな。おっ、これは大きい栗だな。冬の時期にとは珍しい。美味しそうだ。」
「まだ、秋のなごりが残る場所ではまだ拾えるんです。そんなに栗がお好きで?」
「いいや、俺は別にそこまででもないが料理好きな奴がいて、そいつがこの栗を使った料理したら美味いんだろうなと思ってな。まぁ、結局作るのは俺なんだが。」
「そんな方がいらっしゃるのですか。…その方もしや女性では?」
「っ何故それをっ!!」
そんなこんなでその男から手紙を受け取り、玄道さん自ら専寿さん愛用の経本に挟め届けたと言う。
話を聞いてその男の人は多分時次さんではないだろかと考える。
それを思ったのは私だけではなく…。
「師匠…あいつじゃない?」
「うん、たぶんそうだと思う。この手紙信じてみよう。」
希望が少しずつ見え始めたのだった。
次回もお楽しみに~