彼らの夢
私達が捕まってから一体何日たったのだろうか。
でもあのお坊さん以外の僧侶さん達は優しくしてくれるから居心地は悪くない。
「専永読める?」
「なっ…何とか…。もう少し練習した方がいいかもしれません。」
そして今、私と与一君は専永君に文字の読み書きを教えて貰っていた。
短い時間で一日一回だけだが少しづつ覚えつつある。
お寺で見つけた小さな先生のお陰だろう。
「何で俺より色々な文字知ってんのに…こんな下手なの?」
「…筆を使って書く文字は意外と難しいね~。」
習字の授業で書いてたように大きな筆で大きな文字を描くのと小さな筆で小さな文字を書くのは難しいのだ。
それに文字が少し変形してて書きにくいし、読みにくい。
「今日はこれで…。」
「ありがとう。専永君。また明日。」
専永君が扉を開けると、僧侶さん達が雪崩れ込んできた。
どうやら盗み聞きしていたようだけど、大した話はしていない。
「皆してどうしたんですか?」
「いや…ちょっと…なぁ?」
「まぁ、その…。これでもどうぞ!」
そう言われて渡されたのは干し柿だった。
そういえばお寺で食べた干し柿は美味しかった。
「食べてもいいんですか?」
「食べて下さい!」
「ありがとうございます。与一君、一緒に食べよう。」
それから甘く美味しい干し柿を皆で食べている内に話題は好きな事の話になった。
「菜蔵さんはやっぱり料理が好きなんですよね。」
「はい、そうですね。環境が変わってからわかった事ですけど。」
「私も同じです。実は私もここに来てから好きなものが出来たんです。」
お寺に来てから好きなものかぁ。
一体なんだろう?
「何を好きになったんですか?」
「読経です。」
「読経ですか…。読経ってお経を読むことですよね?」
なんか思っていた事と違ったな…。
そうなんだ…読経が好きなんだ…。
私の何とも言えない心とは裏腹に僧侶さんは元気に答える。
「はい、そうです!読経すると心が洗われるんです。」
「へぇ~、ソウナンデスカ…。」
私には難しい世界だな…。
「それに…私が読経すると多くの人が泣いて喜んでくれるんです。自分だけじゃなくて皆の心が洗われる読経が私は好きです。だから私はもっと多くの人達を読経で救いたい。」
それは私も一緒だ。
私が料理を好きだと気付いたのも同じ理由。
私の料理を食べて美味しいっと言って食べてくれる人達がいたから自分の気持ちに気付く事が出来たのだ。
「素敵な夢ですね。私もこれからも料理頑張りたいです。自分の為だけじゃなくて色んな人達の為に。」
こういう話はお酒が入った状態で話すものだから、何だか凄く恥ずかしくなってきた。
僧侶さんが真面目に話すもんだから私もつられてしまった。
「だから…今の自分が情けないのです。ここにいる皆私と同じ気持ちなはず。」
「「………。」」
急に空気が重くなってしまった。
「ほら、ほら、干し柿でも食べて、元気出して!私は救われてますよ!皆さんに会って!」
「気遣いは不要です。」
「事実ですよ。事実です。私と与一君だけだったらこんなに楽しい夜は過ごせなかった。一緒にこんな美味しい干し柿を食べる事も出来なかった。知ってますか?一番美味しいご飯は一緒に食べるご飯なんですよ。」
次回もお楽しみに~