番外編:鉱夫をするわけ
本日コミカライズ合本版1巻が配信されました!
1~5話+描き下ろし収録!
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「アルバート、お前いつまで鉱夫やってんだよ?」
リックが心底不思議そうな表情で訊ねた。
「お前、金持ちになるんだろ? だったらこんな肉体労働、人雇って、お前はのんびりしてたらいいだろ?」
リックの言うことももっともである。
まだ事業は開始されていないが、程なくブラックダイヤモンドでひと山当てて、アルバートは一躍ときの人となる予定である。
そんなアルバートは、昔と違って自ら汗水流して働く必要はないはずだ。
「いや、そうなんだけど……」
アルバートは歯切れ悪く言った。
「そうなんだけどじゃなくて、せっかく金持ちになるんだから、今までの分楽しろって」
そこまで言って、リックはハッと気づいた。
「お前まさか……」
リックが少しばかり目に涙を浮かべる。
「まだ俺がスパイしてるんじゃないかって心配してるんじゃ……!?」
「は?」
リックは持っていたツルハシを壁にかけて、アルバートの腕を掴んだ。
「信じてくれ! 俺はもうお前を裏切ることはしない!」
「いや、だから」
「ダメか!? どうしたらいい? いや、お前が許せないのもわかる。俺は友を売った男だ……」
アルバートの言葉も聞かずにリックは一人興奮していく。
「かくなる上は……アルバート! 俺を思う存分殴ってくれ!」
「なんでだよ。この後の仕事に支障がありそうだから嫌だ」
「なら終業後でいいから!」
「それ以前に殴る必要なんかないんだって!」
アルバートは興奮しているリックを落ち着かせようとする。
「いいな、リック。俺が鉱夫の仕事を辞めないこととお前はなんにも関係がない。いいか、なんにもだ」
「そう念押されるとそれはそれで俺のことどうでもいいみたいで傷つく」
「面倒くさい彼女かお前は!」
「で、結局それならなんでやめないんだ?」
リックが話を初めに戻した。
「今までのルーティンが変わると落ち着かないし、適度な運動で健康にいいし、それに……」
「それに……?」
どうせその続きが本当の理由なんだろうと察したリックが先を促してくる。
アルバートは頬を恥ずかしげに掻きながら言った。
「それに、クラリッサが鉱夫姿を好きだと言ったから……」
その瞬間、リックは雷を打たれたかのような衝撃を受けた。
「あーはいはいはい! はいはい! お惚気ですね! あーはいはい!」
リックが投げやりにアルバートの言葉に返す。
「あー、嫌になるなぁ。イチャコライチャコラ、相手がいなくてもイチャイチャしちゃって! 俺なんかずっと独り身だっての!」
「お前本当に面倒くさいな……」
「うるさいな! どうせ俺はモテませんよ!」
アルバートがそっと拗ねてそっぽを向いたリックの肩を叩いた。
「リック……」
「アルバート……」
もしかして慰めてくれるのか?
リックは期待してアルバートを見た。
「お前がモテないのはその性格のせいだと思うぞ? もっと自分を見直せよ?」
「あー! 俺仕事に戻らなきゃ!」
リックは都合の悪い言葉は聞こえなかったという風に、立てかけたツルハシを回収してさっさと仕事に戻った。
「……だからそういうところだぞ」
「本当にそうですわね。あれでは一生彼女なんかできませんわね」
「うわあ!」
突然聞こえた声にアルバートが飛び上がった。
「ク、クラリッサ……!」
声の方を見ると、クラリッサが立っていた。
アルバートは汗を流しながら恐る恐る訊ねた。
「い、いつからそこに?」
クラリッサがにこりと微笑んだ。
「『アルバート、お前いつまで鉱夫やってるんだ?』からですわね」
「1番初め……!」
アルバートが天を仰いだ。
ということはあれもこれもそれもあれも、全部聞かれている。
クラリッサはアルバートに近付くとその腕を取り、そっと耳に声を吹き込んだ。
「どんなアルバート様も大好きですわ」
アルバートは顔から火が出るのではないかと思うほど顔を赤くし、その場でしゃがみ込んだ。
「俺もだよ」
アルバートの小さな声を、クラリッサの耳は確かに捉え、クラリッサは嬉しさのあまりアルバートに飛びついたのは言うまでもない。