番外編:直後の二人
「アルバート、うまくいった? うまくいった?」
「母さん、この二人を見てみなさい。うまくいったに決まっているじゃないか」
「きゃー! おめでとうアルバート!」
「母さんも父さんもうるさいっ!」
ドアをブチ破られたので、応接間に移動したアルバートとクラリッサを待ち構えていたのは、ハリーとアミーリアだった。
待ってましたとばかりに顔を輝かせてお茶の準備をしながら息子を茶化すので、アルバートは心底恥ずかしくて穴に入りたい気持ちになった。
「この斧は愛のキューピッドですわね」
クラリッサがそれはそれは愛おしそうに斧の柄を撫でる。
「全然手放さない……ずっと持ってる……どういうこと……」
アルバートがクラリッサの手の中にある斧を一瞥するが、クラリッサは気にせず撫で続けた。
女性が持てるサイズなので、すごく大きいわけではないが、それでも存在感がある。
「この斧がわたくしとアルバート様を繋げてくださいましたのよ。大事にしなければ」
「いや、繋げてないだろ。壊しただろ、物理的に」
「そうです、わたくしとアルバート様の間にあった、硬い扉を!」
「いや、俺たちの間の扉というか、俺の部屋の扉」
アルバートの部屋の扉は今も無残な姿である。
「お義母様、この斧くださいませ!」
「あら、いいわよー。新しい斧くれれば」
「もちろん最高の物を贈らせてもらいますわ!」
「いや、斧の最高級品とかいらないから! 並みのにしてくれ並み!」
アルバートにわかりましたと返事をするクラリッサを、アルバートは疑っている。黄金の斧でも贈りかねない金持ちなのだ、クラリッサは。
頼むから実用的な斧が来るようにアルバートは祈った。
「そんなのもらってどうするんだよ」
「決まっているではないですか!」
クラリッサが斧の柄をぎゅっと抱きしめた。
「飾るのです!」
「かざ……え? なに? かざる……?」
クラリッサは高らかに宣言する!
「飾って家宝にいたします!!」
「嫌だよ!!」
アルバートは即座に拒否した。
「何で斧が家宝なんだよ! 嫌だよ!」
「なぜです! これを未来のわたくしたちの子供に受け継がずにどうしますの!!」
「どうもしない! どう考えてもどうもしないだろ!」
「これをきっかけで結ばれましたのに!!」
「それがなくてもくっついてたかもしれないだろ!」
言った後にハッとするが、クラリッサは聞き逃さず、にまぁと顔を緩ませた。
「まあ……アルバート様ったら、なんだかんだでそんなにわたくしのことがお好きでしたのね」
「うっ、なっ、うっ」
「あきらめようと思いながらわたくしへの思いが断ち切れなかったと……わたくし、今感動しております!」
「うぅっ、ぅ」
うめき声しか出せず顔を真っ赤に染め上げるアルバートを見て、クラリッサと、二人を見守る両親はほくそ笑んだ。
クラリッサは、テーブルに額をつけて顔を隠したアルバートの肩を優しく叩く。アルバートがいまだ熱の引かない顔を上げる。
クラリッサと目が合うと、にこりと微笑まれた。そしてクラリッサはゆっくりと口を開く。
「でも家宝にはします!!」
「するのかよ!!」
アルバートの叫びがラッセンガル邸を駆け巡った。
 




