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49/55

49:終わらせようとする婚約者

次回最終回!夜更新の予定です。



「わたくしが成人になるまでは一応名ばかりの会長としていてもらい、その後は体調不良を理由に、わたくしに会長職を譲るということで決着がつきましたわ」


 諸々の後始末や話し合いで、しばらく忙しくしていたクラリッサがアルバートと会えたのは、父と向き合って一か月後だった。


「ただでさえ女性だというのに、それに未成年というのが付けば、余計敵が多くなりますからね。急に会長が変わるというのも大きな混乱になりますから、もう少しだけ会長でいていただくことにしましたわ」


 以前デートした喫茶店で、ブラックコーヒーを飲みながら、クラリッサは淡々と近況を報告した。


「父はすっかり肩の荷が下りたようで、最近は笑うことも増えました。……重荷だったのでしょうね。元々がのんびり屋だった父に、商会の会長という役職は」


 頑張っても頑張っても報われず、その娘が自分の努力をものともせずに追い抜いていくのは、彼にとっては辛いものであったのだろう。

 だが、どれほど辛かろうが、それでクラリッサが傷ついた事実は変わらない。

 これから父が変わろうとも、クラリッサはきっとずっと許すことはないだろう。

 それだけ傷つき続けたのだから。


「そうか。クラリッサが納得する方向に進んで、よかった」


 アルバートはカロリーお化けを突つく。ペロリペロリと平らげていく。


「アルバート様のおかげですわ。わたくしだけだったら、父としっかり話そうとは思えなかったでしょうから。アルバート様が間に入ってくれたおかげで、父も客観的に自分の行動を見て自覚できたのでしょう。娘から言われるのと人から言われるのでは、違いますから」


 クラリッサはアルバートに頭を下げた。


「父とわたくし、両方にとっていい方向に進みましたわ。ありがとうございます」


 きっと、父とクラリッサ二人だけではこうはならなかった。

 実際クラリッサは父が自分を跡継ぎにする気がないようなら、もう商会もなにもかも見捨てて、自身の力で生きていこうと思っていた。

 それに、父もきっと自分の嫉妬心を認められなかっただろう。その嫉妬している相手に指摘されるのならなおさらだ。


「べつに、俺はなにもしてない」

「いいえ、父にしっかり言ってくださったではありませんか。あのときのアルバート様、格好良かったですわ」


 クラリッサはそのときのことを思い出し、頬を染め、嘆息した。

 あのときのアルバートは、とても凛々しく頼もしく、クラリッサはまたいつもとは違うアルバートの一面に胸をときめかせた。

 なにより、クラリッサのために、父に立ち向かってくれたのだ。惚れ直すには充分だった。


「……父親を気にしなくてよくなったけど、その話し方は変えないのか?」

「ああ…そうですわね……」


 クラリッサのお嬢様言葉は、父への反発から始まったものだ。

 嫁ぐのが役目だと、女らしくしろと言われたから、意地になってそう見えるようなしゃべり方をしたのだ。


「もう必要ないのですけれど、これで慣れてしまいましたし」


 普通にしゃべっていたときより、この話し方でいた期間の方が長い。


「それに、こちらの方がわたくしらしいでしょう?」


 いつものように、自信満々に胸を張るクラリッサは、とても晴れ晴れとした顔をしているだろう。

 実際、胸のつっかえが取れた気分だ。

 そして、そんな気持ちにさせてくれたアルバートに心底感謝していた。


「じゃあ」


 アルバートが、カロリーお化けの最後の一口を口に入れた。


「俺たち、もう終わりだな」


 クラリッサは言われた言葉が理解できず、何度か瞬きを繰り返した。

 少しして理解できたとき、足元から冷えていくのを感じた。


「アルバート様? 終わりって、何を言って」

「俺たち、元々親の決めた婚約者同士だろ。でも、もうその契約も必要ない。お前は跡取りになって、俺は宝石で貧困を脱せる。俺たちが結婚するメリットはないだろ」

「そんなこと……」


 ない、と即座に言えなかった。なぜならその通りだからだ。


 アルバートはお金がないからクラリッサと結婚しようとし、クラリッサは商会を継がないからアルバートの家に嫁ごうとしていた。

 前提が覆った今、政略結婚は必要ない。


「でも、アルバート様、わたくしは」

「クラリッサ」


 アルバートが砂糖の入った紅茶を一気に飲み干した。



「終わりだ、俺たちは」


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『大嫌いな婚約者が理想の旦那様でした』

コミカライズ合本版2巻

本日8/31配信されました!


今まで1話ずつ配信されていたものが
6~10話までまとまったものになります!

合本版限定描き下ろし特典漫画&未公開ラフ集が収録!

うめお先生の描かれるクラリッサとアルバート、そしてコミカライズのみのオリキャラたちもぜひお楽しみください!

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『大嫌いな婚約者が理想の旦那様でした 2巻(合本版)』


発売日:2023年8月31日



あらすじ

婚約者のアルバートがこれまで隠してきた素の姿を見たことで、彼にベタ惚れしてしまったクラリッサは、
アルバートから本気で好きになってもらうため、メイドや弟に協力してもらいながら様々なアプローチを実行する!
そのクラリッサの思いと行動はアルバートの気持ちに変化をもたらしていき……。
近づく二人の距離。
しかしそんな中、商売人であるクラリッサの父親は、アルバートとアルバートの両親を利用しようと企み…。
幼い頃のある出来事から父親を避けてきたクラリッサだが、アルバート達を守るため、
クラリッサは父親と向き合い戦うことを決意するが……。

一途でパワフルな前のめりラブコメディ!!

【合本版限定 描き下ろし特典漫画&未公開表紙ラフ集を収録!】
※本作品は『大嫌いな婚約者が理想の旦那様でした』第6巻~10巻を収録した合本版です。


各電子書籍ストアにて配信されています!ぜひお使いのストアにてお楽しみください!
よろしくお願いいたします!

⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

そしてそして!!

『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』

コミカライズ開始しました!


開始日は9/1(金)

ComicWalkerにて連載!


なんと
17日まで毎日更新です!
(その後日曜更新)

17日間毎日更新ってすごいですよね!?
ぜひ皆様お気に入り登録して毎日お楽しみください!

コミカライズをしてくださるのは
小箱ハコ先生!
めっっちゃくちゃ最高のコミカライズなので皆様お楽しみに!

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『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』

漫画:小箱ハコ

連載開始日:2023年9月1日(金)

(17日まで毎日更新!その後日曜更新)



そして素敵な「どんな話?」を1枚にまとめた漫画を小箱ハコ先生が描いてくれました!

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圧倒的美!!!!!

皆様よろしくお願いいたします!

― 新着の感想 ―
[良い点] なんでだアルバートおおおおおおお!!!!
2021/05/30 01:57 退会済み
管理
[良い点] 追いついてしまいました! そしてタイミングのいいことに最終回ですか! 楽しみにしてます!
[一言] わああああああ!!逆はあるかもと思って構えていたのですが‥そっちかーーーー!!ううっどうなるか手に汗握ります、最終回、楽しみです
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