48:父と向き合うクラリッサ
「きっと、ずっと気付かないフリをしていただけなんだな……」
アーロンは項垂れたまま語り始めた。
「はじめは……本当にクラリッサを守るために動いていた。こんな小さな子供が、あんな才能を持っているのは危ない。だから、それがバレないようにと……」
それは本当だろうとクラリッサは思う。小さいクラリッサが狙われることがないように、警備などをつけて守ってくれていたのを知っている。
「跡継ぎも、女性が継ぐには障害が多い。苦労させたくないと思った」
それも、嘘ではないだろう。女性が継ぐより男性が継ぐ方が物事がスムーズだ。
「だけど、同時に、その頃から羨ましかったのだろう。クラリッサの才能が」
そして、これがすべてを捩らせた原因なのだろう。
アーロンの、クラリッサへの嫉妬が。
「私には思い浮かばないアイディアが浮かぶその才能が。解決できなかった問題を一瞬で解決するその手腕が。……すべて、私にはないものだから」
アーロンに能力がないことなど、クラリッサは知っていた。そもそも、能力があったのなら、クラリッサの力を借りるでもなく、会社を守れた。
一時的にならまだしも、今までずっとその力を借りていたのだ。アーロンにクラリッサのようにするのは不可能だったという証拠である。
だから、自分ではどうにもできないから、矜持を傷つけられながらも、ずっとクラリッサの助けを借りていたのだ。
「それがなんです」
そうだ、それがなんだと言うのだ。
クラリッサのように才能がないからと、自分の力が足りないからと、それがなんだと言うのだ。
「それはただの言い訳です」
クラリッサは父を真っすぐ見据える。今までのように、目を逸らさないように。
父にも、目を逸らさせないように。
「親が完璧な存在だなんて、思っていません。親だって人間です。嫉妬の気持ちもあれば、人を恨む気持ちもある。でも……でも親なら」
クラリッサはソファーから立ち上がった。
「親なら、子供の話に耳を傾けることはするべきだった! その時ぐらい、自分の感情を押し込んで、一時だけでも、寄り添うべきだった! 話し合って、ぶつかり合って、何度も何度も歩み寄って……きっと本来はそうあるべきだったんです!」
クラリッサは父に褒めてほしかった。
クラリッサは父に認めてほしかった。
クラリッサは父と話がしたかった。
クラリッサは父と喧嘩がしたかった。
――クラリッサは父と、共に歩んでみたかった。
「わたくしは……あなたを尊敬したかった」
アーロンはクラリッサの言葉に耳を傾けている。
クラリッサは、もっと早くそうしてほしかった。
「お父様」
クラリッサは再びソファーに座った。
そして一瞬だけ躊躇ったあと、そんな自分の気持ちがまだ残っていたことに笑いそうになりながら、父にとどめを刺すべく口を開いた。
「わたくしに訴えられて居場所をなくすか、わたくしに会長の座を明け渡すか――決めてください」




