47:核心に迫る婚約者
「おかしい?」
まったく予測していなかった言葉を投げかけられて、アーロンから眉間の皺が一瞬なくなった。
「ええ、おかしいです」
アルバートは再び言った。
「だって、あなたの独りよがりではないですか、それは」
アーロンがハッとした様子で目を見開いた。
アルバートはアーロンの反応には一切興味を示さず話を続けた。
「クラリッサを守るため、クラリッサを会社から解放するため……あなたはそう言いますが、そこに、クラリッサの意思はありますか? ないですよね? だって俺が聞いていた話とあまりに違う」
アルバートはクラリッサの手を握る手に力を込めた。
「だって、クラリッサはあなたと共に肩を並べて働きたいと思っていたのですから」
アーロンはそれを知っていたはずだ。だって、クラリッサは、なぜ自分では跡継ぎになれないのかとアーロンに問い詰めているのだから。
それは間違いなく、クラリッサの意思表示だった。
アーロンと共に商会を守りたいという、クラリッサの思いだった。
アーロンが、どこか呆然としながら、それでもゆっくりと口を開いた。
「……だが、女性が会社を継ぐのは、世間でもあまりない。反感を買うし、この子が苦労を――」
「そんなの、とっくにクラリッサは覚悟の上です」
そう、クラリッサはとっくに覚悟を決めていた。
自分のしたいことをしっかり見据えて。
「覚悟がないのはあなたでしょう。会長」
アルバートはアーロンの痛い部分を攻めていく。
「クラリッサのいい部分だけ奪っておいて、彼女に何も与えないつもりですか」
「そんな、つもりは……」
「いいかげん、認めたほうがいいです。あなたは――自分の娘の才能に嫉妬していたんでしょう」
アルバートにはそうとしか考えられなかった。
「本当に娘を解放したいと言うのなら、なぜ我が家に嫁がせようとするんです? 金のない、不自由な暮らしを強いられると知っていながら、大事な娘を嫁がせようとするだなんて、普通はしない。あなたは、クラリッサを解放するといいながら、手放すのを惜しんだのでしょう。クラリッサの力が、また必要になるかもしれないから」
「そんな……ことは……」
「現にあなたは――たった一度もクラリッサを褒めたことがないではないですか」
楽しいから続けたとクラリッサは言っていたが、本当は、父に褒められたかったのだろう。
頑張ればもしかしたら認められるかもしれない。父が前のように自分を見てくれるかもしれないと、内心期待していたのだ。
だって、クラリッサは、父親が大好きだったから。
そしてそれは一度も叶わなかった。
アーロンは見るからに顔色をなくし、項垂れた。
「私は……」
アーロンは、これ以上、自分に言い訳はできなかった。
「私はクラリッサの才能に嫉妬していたのだな……」