45:口を開いたお父様
「ブラックダイヤモンド?」
「ええ。アルバート様は知らなかったのでしょうけれど、ブラックダイヤモンドは隣国でしか取れず、わが国では高額で取引されているのです」
「俺の家にあったそれが、ブラックダイヤモンド?」
「ええ」
信じられないものを見るような目でアルバートが黒い石――ブラックダイヤモンドを見つめる。
実際信じられないのだろう。そんな身近に貧困を脱するものがあったとは。
クラリッサは手の中にあるブラックダイヤモンドをまじまじと見る。見れば見るほど、良質なのがわかる。
「あの鉱山に積み上げられている分だけで、相当な額になりますわ。たまたまですが、捨てなくて本当によかったですわね」
アルバートは自分たちがもし捨てていたらということを想像したのか、ブルっと身震いした。
「本当に良かった……こんな価値のあるものを廃棄していたのを後で知ったら、もう食事も喉を通らない……」
「でしょうね。わたくしでもそうなると思いますわ」
大金になったものをドブに捨てたら、誰でもそうなるだろう。
クラリッサは心底アルバートの家が、これの処理をするお金さえなかったことに感謝した。
クラリッサはブラックダイヤモンドを父の目の前に置いた。
「あなたは、これが欲しかった。そうですね」
「…………」
やはりクラリッサの父は答えない。
クラリッサは無言を貫く父の口を割らせようと、さらに詰問する。
「お父様、我が商会はこれに頼らなくてももう充分ではないですか。これを得るために、アルバート様のご家族に不自由を強いる必要なんて、ないはずでしょう」
クラリッサの父はやはりしばらく無言でいたが、クラリッサはただただそんな父をじっと見つめ続けた。
小さい頃あんなに大きく見えた父が、今はとても小さな存在に思える。
無言が続く中、アーロンがひとつ嘆息した。
「……それがあれば」
重い口を、ようやく開いた。
「それがあれば、クラリッサに頼らなくてもいいと思ったんだ」




