42:覚悟を決める婚約者
リックは落ち込んだ様子で、家に帰っていった。断られたが、クッキーを包んで持たせると嬉しそうにしていた。彼の妹はこのクッキーが好物なのだ。
「これからどうするんだ?」
二人きりになった部屋でアルバートはクラリッサに訊ねた。
「父と話をつけに行きます」
「え」
アルバートはてっきりまた何か対策をしてから、店をすぐに再開させると思っていた。
「話をつけに、って」
「ここでただ店を取り戻しただけだと、またおそらく父は何か仕掛けてきますわ。ここではっきり、父が不利であることを伝えなければいけません」
「俺たちが有利な状況なのか?」
アルバートには後手後手に回っているようにしか見えない。
「まず、書類が不備があるということで、わたくしたちの店に押し入った時点で違法です。さらにスパイを捕まえられたことで、父がどのようにしてそういうことを行ったのか、はっきり証言できる人物が手に入りましたわ」
リックがスパイになっていたのもいい方向に向いているようで、アルバートはほっとした。
クラリッサはリックが座っていたソファーに腰を下ろした。
「あの日、父は白昼堂々店に入って来たそうですから、目撃証言も多数得られるでしょう。ベルナドールの名を落とすには充分です」
アルバートはリックが口をつけなかったティーカップと、自分が口をつけなかったティーカップを入れ替えた。口はつけていなくても、なんとなくクラリッサの目の前にリックに差し出したティーカップを置いておくのは嫌だったのだ。
アルバートのそんな気持ちを知っているのか知らないのか、クラリッサは特に反応せず、すっかり冷めている紅茶を口に運んだ。
「これをもとに、父にわたくしたちに手を出すなと念を押すつもりです」
クラリッサは覚悟を決めた顔をしている。
「安心してくださいませ、アルバート様。わたくし、勝ち戦しかしませんわ」
アルバートが不安がっていると思ったのか、クラリッサがそうつけ加えた。
アルバートは不安に思っていたのではない。
「俺も一緒に行く」
アルバートも覚悟を決めたのだ。