41:甘い婚約者
「――普通、クビにするのが妥当だと思いますけれど」
クラリッサの言葉にリックがビクッと肩を震わせた。それを見たアルバートはクラリッサに向けて首を振った。
「クビにしたら、リックは路頭に迷ってしまう。病気の妹だっているんだ」
リックは自分で言った通り、学がない。字が読めないし、アルバートの鉱山でしか働いたことがないので、辞めても次の働き場所を見つけるのに苦労するだろう。
アルバートはリックにそんな苦労をさせたいとは思わなかった。
共にずっと働いた仲間だから。
「リックだってどうしようもなかったんだ。うちがもっとお金持ちなら金の無心とかもできたんだろうけれど、リックはうちの実情も知っている。他に金を得る方法がなかったんだろう」
おそらくアルバートにもっと金があれば、相談してくれただろう。
「それでもアルバート様を売るようなことをしましたのよ」
「それでもだ」
クラリッサには悪いが、アルバートは事情を聞いた以上、リックを責める気にはなれなかった。
「甘いですわ」
ピシャリと言うクラリッサに、とても言い返せない。甘いのは事実だからだ。
少しの静寂のあと、クラリッサが息を吐く音が聞こえた。
「でも、それがあなたですわね」
ハッとしてクラリッサへ顔を向ければ、困ったように微笑む彼女が目に入った。
「しかたありませんわ。どのみち、わたくしに彼をどうこうする権利はございません。アルバート様が決めていいですわ」
「……甘くて悪い」
情けない男だと思われているだろうか。
クラリッサにがっかりされたかと思うと胸が苦しくなった。
「いいんですのよ」
だけど、クラリッサはやはりちょっと困った顔で笑った。
「わたくしは優しいあなたが好きなのです。アルバート様はそのままでいいですわ」
ふふふ、と笑ってから、右手で自身の胸を一度叩いた。
「厳しい部分は、すべてわたくしが引き受けます」
美しく凛々しい表情でそう言った。