34:手をつなぐ二人
「お見苦しい姿をお見せしましたわ」
「いや普通に引いた」
「そうはっきり言うところも好感度高いですわよ」
「お前の好感度はおかしい」
喫茶店でひたすら悶えていたクラリッサに引きながら、しっかりカロリーお化けを退治したアルバートは、憎まれ口を叩きながらも、見るからにご満悦だった。
その様子も可愛くて、クラリッサは必死にによによしそうな顔を抑えた。
「では、アルバート様」
クラリッサがすっ、と手を差し出すと、アルバートは何の行動か理解できなかったようで不思議そうな顔をした。
「なんだ?」
「もう、鈍いですわね! デートでは手をつなぐものなのです!」
クラリッサが頬を膨らませると、アルバートは慌ててその手を握った。
「そ、そうか、そういうものなのか」
「そういうものですわ」
照れながらクラリッサの手を取るアルバートに、嬉しそうなクラリッサ。
二人の姿は容姿も相まって、とても絵になり、道行く人々は足を止めて二人を眺めた。
「じゃ、じゃあ、行くか……」
手をつなぎながらぎこちない動きで歩き出すアルバートに、クラリッサはついていく。
見るからにデート慣れしていないその様子が微笑ましい。
「アルバート様はイケメンですのに、今まで女の子とのお付き合いはなかったのですか?」
「付き合おうにも金がないからな」
「私が払う! という方もいたのでは?」
「そんなの、お金だけの付き合いみたいで嫌だ!」
なるほど、確かにアルバートにそのような付き合いができるとは思えない。
ということは――
「アルバート様は女の子を落とすだけ落として袖にし続けたのですね」
「やめろその言い方! 俺は仕事で笑顔を作っていただけだ!」
パン屋でのアルバートを思い出す。きっと、アルバートに惚れて通い詰めている女性も多いだろう。
アルバートは見た目は素敵な王子様で、パン屋では性格もそう偽っているのだから当然だ。
「いつか刺されそうですわね」
「やめろ、恐ろしい」
「わたくしが盾になるから大丈夫ですわ」
「盾になるな、逃げろ、そういうときは」
「では早く走るコツを教えて差し上げますわ。安心してくださいませ。わたくし、足の速さには自信がございます」
「お前、自慢できるところが人とズレてるんだよ」
ズレているとは心外だ。元々のクラリッサは農夫の娘。日に焼けながら畑周りを走り回っていたのだ。おかげで今でも足の速さには自信がある。
「今から全力で走ってあげてもよろしくてよ」
「やめろ、無意味なことするな!」
クラリッサがスカートを少し上げ、走る仕草をするのでアルバートは必死で止めた。
クラリッサはちょっと残念に思いながら、本気で今走りたいわけではなかったので、スカートをもとに戻した。
「いつか、わたくしのペガサスのような優雅な走りを見せてあげますわ」
「お前な――」
「お嬢様!!」
二人の耳に大きな呼び声が入って来た。
声の方を振り返ると、ハアハアと荒い息を吐いているクラリッサの侍女、エイダがいた。
「あら、エイダ、あなた店番は?」
見ればエイダは店の制服姿のままである。
エイダは瞳にいっぱいの涙を浮かべ、クラリッサに縋りついた。
「お、お、お、お店が乗っ取られましたーーー!!」